前回登場した【刃の者】はその種には珍しく好奇心旺盛な性格
気になることは自分の目で確かめないと気が済まないタイプです
しかし短気なところもあり・・・
ん?そのモンスターの名前ですか?
それは「セ」で始まって「ス」で終わるヤツです
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異端者
剛雷さんが優しかったのは本来
ラージャンが持つ攻撃性がなかったから・・・
金色の姿を見せて欲しいと頼んだ時拒否し続けたのも
「見せられないんだよ」と言ったのも
そもそも金色の姿になれなかったから・・・?
今まで真夜が感じていた矛盾や違和感が確信へ変わる
しかし同時に感じ取ったのはそれを知られてしまい
脈拍や血流が大きく乱れ、動揺した彼の姿だった
真夜が使う反響音では表情までは正確に把握できないが
把握するまでもないほどだろう
「あれ?知られたくなかったかい?でも事実だろう?どの種族にも稀に異端な者はおるが、そやつは特に特殊だ。黄金の姿になれない剛雷の者など聞いたことが無いからね」
「・・・お前の言う通り俺は金の姿になれない、どんなに怒りに震えても・・・」
ラージャンの声はかすれ震えている
その動揺が誰から見ても明らかだった
「確か親にも捨てられたって噂だね、それが本当ならよほど出来損ないと見えるな」
「・・・・え!?」
親に捨てられた・・・・?
子が何にも勝る宝だと考える守の者では考えられないことだった
しかしそれ以上に真夜が気になったのは
真夜にそのことを知られるたびに辛そうにする彼の姿
次第にある感情が怒りに変化する
「力こそが・・・そう考える者が多い剛雷の者にとってお前のような存在はさぞかし目障りだろうね。守の者よ、こんな出来損ないのところで練習するよりも妾<わたし>の元で学んだ方がよほど身になると思うぞ?」
「止めて!これ以上剛雷さんのこと悪く言わないで!」
真夜がラージャンの前に立ち、刃の者を睨み付けた
その行動に一番驚いていたのは他ならぬラージャンだった
「出来損ないが怒るのは分かるが何故お前が怒るんだい?」
「貴方こそ剛雷さんが辛そうにしてるのが分からないの!?誰だって好きでそう生まれ来たワケじゃないんだ!」
「ふふふ、黄金の姿に変われん出来損ないを庇うか」
驚きのあまり声が出ないラージャン
と、刃の者が翼を大きく広げ真夜を牽制し始めた
嫌な予感が彼の頭をよぎる
「威勢のいい子は嫌いじゃないけど、自分の力量を考えずに無鉄砲なことをするヤツは嫌いだね。お前では妾<わたし>に敵わないのを分かっていても妾<わたし>に立ち向かうか?」
「これ以上剛雷さんを悪く言うならね、剛雷さんは攻撃性がないんじゃなくて優しいから攻撃出来ないだけだもん。それは真夜が一番実感してる」
睨みあう2体、辺りに緊迫した空気が漂い始めた
もし戦えば真夜は刃の者には敵わないだろう
勿論真夜もそれは十分に分かっている
しかし、前へ出ずにはいられなかったのだ
刃の者がラージャンを侮辱していることが
真夜には我慢ならないことだったから・・・
「守の者ってのは皆そうなのかい?無鉄砲に相手に向かうような考えなしばかりだとしたら噂に聞いていた強さも期待できそうにないね、ただの愚か者の種か?」
「な!?真夜の種族まで馬鹿にするな!!」
とうとう頭に血が上った真夜が刃の者に飛びかかった
しかし簡単にあしらわれてしまう
刃の者が体中の鱗を逆立て大きな咆哮を上げる
真夜が体勢を立て直そうとすると刃の者は
真夜の体を鷲掴みにし空中へ連れ去った
かなりの力で捕まれているため真夜は抜け出すことができない
それどころか苦痛で呼吸さえままならなくなってきた
意識が遠のき始める・・・・
その時、ラージャンが高々とジャンプすると
渾身の力を込めて、刃の者を思いっきり殴り飛ばした
足から離れた真夜を優しく掴むと着地する
刃の者は殴られた衝撃で大きな音を立てて地面へ落ちた
「あ・・・ありがとう剛雷さ・・・」
と、ラージャンはまだ抱きかかえていた真夜を遠くへ投げ飛ばした
予告なく突然投げ飛ばされ、踏ん張ることもできず
そのまま隣のエリアまで移動してしまっていた
慌てて元の場所に戻ろうと急ぐ真夜
「来るな!そのまま人間のところへ帰れ!」
真夜がいるのは隣のエリアだがラージャンの声がハッキリ聞こえる
思わず立ち止まってしまった
「ったく・・・お前が来てからろくな事がない、余計なことはするし
遂には刃の者に喧嘩振るし・・・俺にとっちゃ疫病神だぜ
もうお前の世話なんかうんざりなんだ。今度こそ二度とココに来るなよ」
「・・・剛雷さん」
少し考えると真夜はその場所を離れた
ラージャンと刃の者がいるエリアには相変わらず
緊迫した空気が流れている・・・
「・・・素直じゃないね、巻き込みたくないと言えばいいのに」
「黙ってろ刃の者よ」
「で、何?お前が戦うのかい?黄金の姿になれんお前では
妾<わたし>に勝ち目がないのは分かっているだろう?」
ラージャンは一息つくと覚悟を決めたように
刃の者を睨み付け戦闘態勢に入った
「(金の姿になれない俺ではあまり長く時間を稼げないだろう
でもそのほんの少しの間でいい、安全なところへ行ってくれ・・・)」
「何故お前のような出来損ない生まれてきたんだ」
その日の夜の原生林には冷たい雨が降り注ぐ
雨の中、脚を引きずりながら歩く牙獣種が一体・・・
体はボロボロで腹部には深い裂傷を負っていた
痛む体を無理矢理動かしながら昔の記憶を思い出す
それは凍えるような孤独と耐えがたい恐怖の記憶
もし同種に会ってしまったら自分は殺されるだけ
金の姿になれない自分では他の同種には敵わない
隠れながら今まで必死に生きてきた
剛雷の者ではなく他の種族に生まれていれば
そう何度願ったことか分からない
やっとの思いで巣穴に戻ってきたが
彼にはもう指一本動かす力さえ残っていなかった
「・・・あいつ・・・人間のところに帰れたかな・・・」
そう小さく呟くと彼は静かに目を閉じた
本当は真夜がそばにいた時嬉しかった
今まで誰にも必要とされず疎まれるだけだった自分に
一切の恐怖心も持たず接してくれたのは真夜だけのだ
金の姿も見せてあげたかったのに
真夜が望むような者でなくてただただ申し訳なかった・・・
「・・・・・ち・・・・」
もうこのまま意識を手放そうとした時、遠くで何か聞こえた
人間の声のようだが雨の音も混ざり上手く聞き取れない
もし人間だとしたら今の自分は格好の餌食だろうなと思った
「・・・こっちだよ、・・・ん・・・」
「・・・さい・・・上手く・・・から・・・」
段々声が近づいてくる
彼にはその声に聞き覚えがあった
まさかという考えが彼の頭から離れなくなった
「あ!やっぱりいた!剛雷さんしっかりして!」
「うわっ・・・本当にラージャンが・・・」
「これは酷いな、早く治療しないと危ないんじゃないか!?」
「出血が多い上に雨に当たって体温も体力も奪われているハズです
急いでいたので大した道具持ってきていませんが・・・」
「でもなんとかしよう!・・・ちょっと怖いけど」
彼には信じがたい光景だった
真夜が左官・ぴよ・まる・るりを連れてきたのだ
出血と低体温で意識が朦朧としかける中・・・
そのことに彼は驚くしかできなかった
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MH小説③この輝きは誰かを守るために…
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