アルフォースの過去編はこの回で終わりになります
読んで下さった皆さんありがとうございました!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから数日
アルフォースは歩ける程度に回復した
ガンクゥモンに言われたとおり
アキリがよく行っていた中庭に足を運ぶ
しかしその足取りはとても重かった
まだアキリのことを思い出すのは辛いだけだった彼に
アキリとの思い出がある場所を訪れることは酷なことだった
あと少しで中庭が見えるところまで来たが
そこで足は止まってしまっていた
前に進まなければ…と思っているのに身体が動かない
「アキリ…」
どれくらい時間が経っただろう
ほんの数刻なのにアルフォースにはとても長い時間に感じた
一息つくと心を決め、ゆっくりと足を前に出す
2ヶ月振りに訪れた中庭
きっと管理する者がいなくなったから荒れているだろうと
考えていたがそこには目を疑う光景が広がっていた
「こ……これは……」
アキリが大事に育てていた青い花
それが中庭一杯に咲き乱れ、まるで青い絨毯のようになっていた
とても美しい景色に唖然とするアルフォース
ふとアキリが自分が大人になる前にここをこの花で
一杯にしてみせます、と言っていたことを思い出した
「絶対に綺麗だから見てくれって言ってたっけ…
本当に綺麗だな、これがアキリが俺に見せたかったもの…」
「お待ちしていましたよアルフォース、大分良さそうですね」
その声に反応し、振り向くとユピテルモンが立っていた
ユピテルモンはオメガモンからアルフォースが明日には
歩けるようになりそうだと連絡を受けてやって来たのだ
「ユピテルモン…あ…と…その…。マグナモンから聞いた。
色々と迷惑をかけたようですまなかった」
申し訳なさそうな顔をするアルフォースにユピテルモンは
お気にせずに、と優しげな口調で語りかけた
ユピテルモンは青い花を一輪摘み、アルフォースに手渡した
「綺麗な花ですね、アキリが愛していた花だそうですね」
「ああ…しかし2ヶ月も誰も世話していなかったのに…
もしかしてこれユピテルモンがやったのか?」
アルフォースが尋ねるとユピテルモンは首を横に振った
自分ではこんなことは出来ないので愛と美の女神である
ウェヌスモンに頼んでしてもらったのだと言った
「そうか…でもなんでまた…」
「ちょっと約束をしていましてね、貴方にこの花を見せて欲しいと」
「約束って…誰と?」
「それは内緒です」
くすくすと笑うユピテルモン
その意味が分からずアルフォースは首を傾げた
まだ辛いですか?、とユピテルモンが尋ねると
アルフォースは小さく ああ、と返事をした
アルフォースは美しい光景にただただ見入っていた
アキリも見たかっただろうな…っと呟くと
ユピテルモンから手渡された花を見つめる
「アルフォース、アキリが何故自分の死期が分かっていたのに
遺言も何も残さなかったのか不思議ではないですか?」
「え?それは……そんなこと考えていなかったんじゃないのか?」
「違いますよ、この花がアキリの遺言そのものなのです」
は?、…とその言葉の意味が分からないアルフォースは
かなり困惑した表情をみせた、この花が遺言そのもの?
やはりなと言いたげな顔でユピテルモンがその答えを口にした
「アルフォース、花にはそれぞれ意味があるんです。
花言葉というのですがご存じですか?」
「はい?い、いや知らないけど…」
「でしょうね、でなければ貴方があそこまで苦しむことはなかったでしょう。
この花はミヤコワスレという花です。普通はもう少し紫かがった青い色
なのですが、白帝城のミヤコワスレは美しい空色ですね。
”しばしの別れ””しばしの慰め”など色んな意味がありますが、
アキリがこの花に託した意味は……」
「また会う日まで……」
そういえば昔、アキリは自分のことをデジモンだと思い込んでいたため
デジモンではなく違う人間という種族で俺と同じ時間を生きることは
出来ないと説明したことがあった。それを聞いたアキリは「では
どうしたらデジモンになれますか?」と説いてきたが、
そんな方法ないからその時は適当に濁してしまっていた。
それからアキリは輪廻転生とか生まれ変わりとか
そんなことが書いてある難しい本を読むことが多くなっていた
「確かガンクゥモンにもデジモンに生まれ変われるか訊いてたっけ?
アキリまじでデジモンに生まれ変われるって信じていたんだな…
アキリらしいけど…だからってまた会う日までって……」
しばらく沈黙が続くとアルフォースは口を開いた
「俺…本当は寂しかったんだ。あんなに近くにいたのに
死んだらアキリがいた痕跡がなくなって…皆もアキリの名前も
言わないし…本当にあの子がいなかったんじゃないかって思うくらい…」
気が付くとアルフォースは涙を流していた
本当にただ寂しかっただけなのにそれを上手く表現できず
ずっとそれをため込んでしまっていた
ユピテルモンはアルフォースに近付くと大きなマントで彼の姿を隠した
泣くことに抵抗があることを知っていたかのように
「この世界の生き物は命が終わると身体はデータ分解し、
消滅してしまいます。ですが、完全に消えてしまうワケではありません。
その者のことを覚えている者がいる限り、存在し続けます。
記憶の中で生きることが出来るのです。ですから…たとえどんなに
苦しくて悲しくても覚えていてあげてください。
アキリも貴方が覚えている限り、貴方の心の中にずっといますから」
「それが…あの時ガンクゥモンが言っていたことの答えなんだな」
それまで生きる気力さえ失っていた瞳に力が宿ったように
アルフォースはとても生き生きとした表情をしていた
「なぁユピテルモン。アキリがもしデジモンに生まれ変われたら
それ俺にちゃんと分かるかな?気配とかは別物だろうし、
生まれ変わる前の記憶とか残っていたりするのだろうか?」
「前世の記憶が残ることはとても稀です。ですが、
縁≪えにし≫が残ることはあります。アキリが一番大事だと
想う心の一部がもしかしたら残っているかもしれませんね」
「そうか…」
アルフォースはユピテルモンに礼を言うと
ずっと休んでいた謝罪をイグドラシルに言うために中庭を離れた
「もう…大丈夫だよ、アキリ。お前がくれた温もりも
教えてくれた優しさも決して忘れないから……
だから…また生まれておいで、俺の側でよければ
いつでも迎えてやろう……待っているよ」
━─━─━─━─━─
それからとても長い月日が経った
もうアキリのことを知っているのは自分と
オメガモンくらいしかいないほどの年月だ
あの青い花も気候変動のせいかもう白帝城にはない
とても長い月日の中、アルフォースにとっては
アキリのことは古い思い出に近いものになっていた
それでもアルフォースはアキリのことを忘れたことは片時もない
先代総司令官が死んだときも、こんな風に
愛する者を守れて死ねたなら幸せだろうと思ったほどだった
アキリはちゃんと生まれ変われただろうか?
それさえ分からないが、今でも彼は待っている
アキリがデジモンとして生まれ変われる日を…
そしてその者はアキリの面影を残すほど彼を慕い、今も側に……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
☆後書き☆
つくづく自分で植物描くの苦手だよなーと思いながら
イラストを描いていましたww
ミヤコワスレという花を見つけるまで苦労したのは内緒です♪
(花言葉って扱っているところによって意味が微妙に違うので余計)
さーて、次はオメガモンとグランドラクモンの過去編です!
↧
竜帝の伝説《小説》7話
↧