海守が起きたのは200年振りです
しかし、秩序が乱れて起きたわけではない(エ…
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海守が出した超音波によって全ての生き物が気を失った中、
最初に目を覚ましたのは真夜だった
「う…うう…何が…起こったの?」
辺りには気を失う前にはなかった深い霧が立ちこめていた。
1m先も見えないほどの霧。
しかし元々視力がほとんどない真夜には関係ないものだ
エコーロケーションで全員の位置を確かめると様子を確かめに近付いた
「みんな…大丈夫!?るりしっかりして」
「うー…ん…真夜?……あれ?どうしたっけ…?」
「真夜にも…よく分からない。みんなも気を失ってる」
ほとんどはまだ気を失ったまま…
あの時は海守が現れてすぐに超音波を放ったので
発達した聴覚のせいで真っ先に気を失った真夜には
何が起こったのか全く分からなかったのだ。
るりも強力すぎる音波のせいで記憶があいまいになっていた
真夜とるりで全員に声を掛け、目を覚ますように促す
そして真夜はこの中で最も鼓動が弱い存在に気付いた
「し…獅優!獅優…起きて…返事してよ…」
まるで死んでいるかのようにピクリとも動かない
どんなに揺り動かしても目を覚ます気配もない
獅優は戦っている間ほとんど金の姿だったことを真夜は思い出した
金の姿は体への負担がかなり大きい、まして獅優の力は異端なもの。
真夜は最悪の事態を想定してしまい、不安感に襲われる
「獅優…死んじゃ嫌だよ…起きて…」
『動かすな。瀕死の体で地守の力を継承したから
深く眠っているだけだ。安心するといい、守の者の子供よ』
その声を聞いて真夜はようやく気が付いた
深い霧が晴れて、海守がその姿を表す
川岸にいた海守と真夜の距離は数十mもないくらい近かった
にもかかわらず真夜は先ほどまで海守の存在に気付かなかった
まるで霧で存在自体がかき消されたように感じるほどに
『海の…秩序の守り神…さま?』
『一応そう呼ばれているな。姿を隠していてすまなかった。
陸上だとほとんど動けなくて音で攻撃するくらいしか出来ないから
ちょいと音波と霧で姿を隠していてのだ』
「そんなことが出来るの?」
『んー…多分私にしか出来んだろうな。私の”かつて”の種族は
何をするにも音波を使っていたからな。…もうとっくに絶滅してしまったが』
「蝙蝠と蛾みたいなものですかね?
そんなことが簡単に出来るなんて流石というべきでしょうか…」
この時、海守はずっと全員を見つめていた
しかし不思議なことに恐怖心などを一切感じなかった
むしろ見守られているような感覚を感じるほどだった
ガリア・ケドゥクスに睨まれた時は威圧感すらあったのにそれもない
「これが本来の秩序を守る存在か…。というか
今チラッと言ったよな、地守の力を継承したって…
獅優は地守の力を継承できたのか!?」
hiroの言葉に全員ハッとなり獅優と海守を見た
実際に存在するかも分からなかった力の継承
海守がここに来たのはそのためだったと全員が確信する
「ということは今は獅優が地守なんだな。
一体どうやって地守の力を継承したんだ!?」
『残念だがそれだけは教えることが出来ない。
それは我々以外には他言してはならんのでな』
「そ、そうなんだ…。じゃあ追求はしないでおくわ。
でも今の獅優は地守ってことでいいのよね?」
ああ、っと海守は答えた
しかし獅優は見た目も変わっていないし銀色の角もない
本当に地守の力を継承したのかと少々疑問に思った
『本当に獅優は地守になったのか?全然変わっていないが…』
『ああ?急に変わるわけがないだろう。角が生えるのだけでも数年かかるのだ。
完全に地守としての力が発現するまで少なくとも2~30年はかかるわい』
「そんなにかかるんですか!?」
その事実に流石に驚かざるおえなかった
完全に力が発現するまで最低でも2~30年
つまりその間は秩序を守る存在はいないようなものだ
『今のを聞いて気付いたと思うが力の継承はそうそうするものじゃないんだ。
ちゃんと力が発現するまで時間がかかるから継承というのは最終手段。
しかも継承する場合は継承させる者に色々と教えなければならない。
だから今回のことは異例なんだよ。まさに前代未聞というわけだ』
「そ…そうだったのか。てっきりすぐに地守になれるものかと…」
唖然とする左官達は言葉が出なかった
それを見て少し困ったような顔をしていた海守の様子に
気付いた左官があわてて開いたままの口を動かした
「…えーっと…とにかく海守。ありがとうございます。
貴方が来てくれなければ恐らく地守の力は
永遠に失われていたでしょう。本当に感謝致します」
「うん、本当にありがとう、海守」
『え?……い、いや別に貴様らに礼を言われるようなことはしてないぞ』
「それでもありがとう」
みんなが海守に礼を言うとちょっと照れたように慌てていた
どうやら礼を言われることに慣れていないらしい
ふと、千姫は少し気になることを訊いてみた
『訊きたいんだが本来秩序を守る存在は秩序が乱れたときに
目を覚まして秩序を乱す者を排除するんだろう?
海守はどうして目覚めたんだ?地守の異変を感じ取ったのか?』
そういえばそうだよな、と誰もが口を揃えて言った
本来は秩序が乱れない限り目覚めない存在なので
こんなところに都合良くいるのはそういうことなのかと全員思ったが、
海守からとんでもない答えが返ってきた
『違う!!私はクソ蛇に無理矢理たたき起こされたんだ!!』
『た…たたき起こされた!?』
『あのクソ蛇が私の領域をワザと荒らして私を目覚めさせたんだ!』
「あの…クソ蛇って…誰?」
『蛇王のことだ!いつも暇暇とか言ってる長大なる者だよ!』
ああ…、っと千姫とクロムは納得してしまった
確かに地守のことを聞きに行った時も暇だと言っていたし、
あの巨体なら海を荒らすことなんて簡単に出来るだろう
千姫の問いかけから怒りが再熱してしまったのか海守は怒りを露わにした
『クソ蛇がぁ…何度も何度も暇だからというくだらない理由で
海を荒らし、私を起こしおって…お陰で300年以上眠ったことがないわ!!
天守はもう1000年近く眠ったままだし、地守も恐らく今回が
2000年振りの目覚めだったろうにふざめたことをぉ……!!
今回もこのような理由でなければ今すぐに首を切り落としてやるぞ…』
『あの…海守とりあえず落ち着きましょう…』
『落ち着きたくともクソ蛇の態度を思い出すと腸が煮えくりかえるわ!!
11度目はないと思えよ!!クソ蛇がああぁぁぁぁぁ!!!』
その時全員満場一致で思った
それでも10回許してあげているのだと……
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