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【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第53話~封印と破滅より生まれし穎主~

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◇◆◇◆


「ウィルの故郷であるルカリオの里に、未開のダンジョンあるのか?」

「はい、あります。私も今日夢で視るまで忘れていたのですが…」

そのダンジョンのことを教えられたのは私がまだ二歳の時です。
私は生まれつき波導を読み取る力が強かった。
本来、リオルの頃は波導を読む力はまだありません。
だから里のルカリオは私が素晴らしい波導使いになるだろうと考え、物心ついた頃から英才教育をしていました。
そして、波導使いになるためには突破しなくてはいけないダンジョンがあると案内されたのがそこでした。

「ダンジョンの名は【試練の峡谷】。長老の話では、波導使いになるために特別な訓練をしたルカリオしか入ってはいけないと伝えたれているダンジョンで、ここ数百年【試練の峡谷】に入ったルカリオはいないそうです」

「なるほど。調べてみる価値はありそうだな」

紫桜はとても興味ありげに頷きます。
ここに辿り着く来る道中、未開のダンジョンはありませんでしたので期待しているのかもしれません。

「ルカリオの里はここから近いの?」

「来た道を戻ることになりますけど、一日で着くと思います。ただ……【試練の峡谷】に行くためにはいくつか問題がありまして…」

「問題?」

「はい。【試練の峡谷】はルカリオの里の奥にあるのですが、行くためには必ず里の中心を通らないといけないんです」

「遠回りできないの?」

「できなくはないのですが、里の回りはかなりの断崖絶壁で、遠回りすると倍の日数がかかると思います」

ルカリオの里は陸の孤島という言葉がピッタリなくらい合う辺境の地。
里の回りは断崖絶壁で、出入りするためには【里への細道】というダンジョンを攻略しなければいけません。
そのダンジョン自体は比較的簡単なので問題ありませんが、出入口が里に直結しているのが問題なのです。

「私の故郷には本当にルカリオしかいません。里にいるルカリオは全て身内同然。そのためなのか余所者を酷く嫌い、里に見知らぬポケモンが現れると徹底的に排除しようとする傾向があるのです」

それこそもう「見かけないポケモンだな。こんにちは、死ね」って言うくらい。
そんなところに紫桜とノワルーナが足を踏み入れたら、戦闘になるのは明らかです。

「うーん。ルカリオしかいないとなると、こっそり里に入ることは不可能だな。なるべく戦闘は避けたいが…」

「僕が先に入って、里にいるルカリオを全員気絶させるって方法はどう?」

「駄目だ。確かにノワルーナの隠密は波導さえも隠せるが、攻撃する際にわずかだが波導が露になるんだ。遅かれ早かれ絶対に見つかる。波導感知に優れた個体は絶対にいるだろうから危険すぎる」

「そっか…」

しょんぼりとうつむくノワルーナ。
しかし、ノワルーナが悪いワケではありません。
悪いのは余所者を嫌う里の性質です。

「立ち止まっているのは時間の無駄だな。進みながら考えよう」

「そうですね」

それでは荷物をまとめて出発です。
しかし私、10年振りの里帰りになるんですよね。
お父様とお母様に会いに行くワケではありませんが……なんか複雑です。

「そうだ。里にはウィルの両親がいるんだよね。ウィルの両親ってどんなポケモンなの?」

そういえば話したことがありませんでしたね。
折角ですし、話しましょうか。

「母は名前をフィアルカといい、おっとりとした性格をしています。なんといいますか"悟り"を開いているような方です」

「悟り?」

「察しがいいと言うか…まるで心が読めていると言いますか…すみません、上手く言えません。とにかく不思議なポケモンです。体が弱くて、臥していることが多いのですが…」

「そ、そうなんだ」

「父の名前はハトム。私の倍くらい真面目で堅物な性格のポケモンです」

「ってことは相当頑固なんだね」

「はい。融通が利かない方ですが、母と私のことは大事にして下さっていますので尊敬しています。そんな父ですが、母以上に変わったところがあるんです」

「変わったところ?」

「はい。父は[波動弾]や[ラスターカノン]などのエネルギーを発する技が使えないんです」

パンチやキックとか肉体を使う技は使えるのですが、それ以外の技をお父様は使えません。
[ストーンエッジ]や[ボーンラッシュ]とかは使えるので、使えないのはエネルギーを発する系統の技だけのようですけど。

「どんなに訓練しても使えるようにならなかったので、若い頃に諦めてしまったそうです。他のルカリオからは落ちこぼれだと罵られていました」

「そうなんだ。かわいそうだね、生まれつきだろうに…」

「……はい」

お父様を馬鹿にしないのはお母様だけでした。
私が幼い頃から、お父様はすれ違うルカリオに中傷の言葉を浴びせられていた。
私とお母様のために必死に平静を装うお父様を見るのは悲しかった。

「……なぁウィル。ウィルの父君はエネルギーを発する技が使えないんだよな?」

今まで会話に耳を傾けるだけだった紫桜が口を開きました。

「はい、そうです」

「ひょっとして、波導の力そのものを体外に発せないんじゃないか?」

「はい。そうだと聞きました」

何故分かるのでしょうか?
思わず首を傾げました。

「ウィルの父君は"封印のルカリオ"である可能性が高いな」

「「"封印のルカリオ"?」」

なんですかそれは。
聞いたことがないのですが…。

「あれ? ウィルの故郷の里に"封印と破滅"の伝承ないのか?」

「ないと思います。初めて聞く伝承です」

「そうか…」

きょとんとする紫桜ですが、知らないものは知りません。
紫桜が博識すぎるのです。

「まぁ、知らないから罵られているってことなんだよな。シンオウに住んでるルカリオなら、知らないものはいない伝承なのだけど」

「ゼフィラ。"封印と破滅"の伝承って何?」

「ルカリオには100年に一度、特別な力を持った個体が2体生まれる。1体が"封印のルカリオ"、もう1体が"破滅のルカリオ"だ」

紫桜が私達の方へ振り返り、その伝承のことを話してくれました。

「"封印のルカリオ"は普通の個体とは違い、波導を封じることで力を発揮するルカリオだ」

「波導を封じる…ですか?」

「ああ、波導ってのは生命エネルギーそのもの。"封印のルカリオ"はその波導の発生や流れを封じることができる。例として言えば心肺機能を司る波導の流れを封じて、呼吸や心臓の動きを止めるってことが可能なんだ」

「めっちゃ怖い力じゃないですか!」

波導を封じるってどんな力なのか聞いただけでは分かりませんでしたが、使い方の例を聞けばかなり凄まじい力なのが分かります。
まさかお父様がそんな力を持っている可能性が高いなんて。

「後は技の威力を激減させることもできるらしい」

「その封印の力で?」

「ああ。ルカリオ以外のポケモンには分からないけど、技を放つ時に波導を一点に集中させる。パンチなら手に、炎を吐くなら炎袋や口にな。技を使うために集まろうとする波導の流れを封じて、技を不発にさせたり威力を低下させられるそうだ」

「結構応用が利くのですね」

技を不発にさせられるのはかなり強いです。
Z技にも使えるのでしょうか?

「ただし、この封印の力を発揮するためには相手の体に直接触れないといけない。理由は触れないと波導の流れが正確に分からないからだそうだ」

「あっ、そうなんだ。それは難しいね」

確かに難しい。
気の知れあった相手同士ならともかく、見知らぬポケモンの体に触れるのは大変でしょう。
戦闘中ならなおさらです。

「一度でも触れて相手の波導の流れさえ分かってしまえば、ある程度離れてても封じることができるらしい。まぁ触れていないと細かいさじ加減ができないそうだけど」

「それでも強いよ」

「そうだな。でも弱点もある。"封印のルカリオ"は自分自身の波導も封じてしまうため、体外に波導を放出できないんだ」


「えっ!?」

体外に波導を放出できない!?
しかも理由が自分で自分の波導を封じてしまうからって…。

「だから"封印のルカリオ"はエネルギーを放出する類いの技が使えない。封印の力を使いこなせなければ、戦闘能力はかなり低いだろう」

それで紫桜は話を聞いただけでお父様が"封印のルカリオ"ではないかと思ったのですか。
特徴はバッチリ当てはまりますね。

「では父が[波動弾]などの技を使えないのは、むしろ当たり前ということですか?」

「ああ。しかも、いくら訓練しても使えるようにはならないらしい。放つ力より封印の力のほうが圧倒的に強いそうだからな」

これも当てはまりますね。
お父様が"封印のルカリオ"である確率は極めて高いでしょう。
しかし長年お父様を苦しめていたのが封印の力とは…。
紫桜にお父様のことを話さなければ、一生分からなかったことです。
話を振ってくれたノワルーナに感謝しなくては。

「それにしても、ゼフィラやたら詳しいね」

「三剣士の元で修行してた時に、一緒に修行してたルカリオがたまたま"封印のルカリオ"だったんだ」

なるほど。それでやたら詳しいのですか。

「ただ、"破滅のルカリオ"は直接会ったことがないから"封印のルカリオ"ほど詳しく知らない。その"封印のルカリオ"から聞いた知識しかないな」

「それでも教えて下さい」

「分かった。"破滅のルカリオ"は"封印のルカリオ"とは逆に、波導を発する力が異常に強いルカリオだ」

異常に強い?
一体どれくらい強いのでしょう。

「"破滅のルカリオ"が[波動弾]を使うと、通常の個体が放つ[波動弾]の二倍くらい威力があるらしい」

なんと!?
ただの[波動弾]がZ技級の威力になるんですか!?

「エネルギーを発する系統の技全部が対象になるの?」

「聞いた話ではな。[竜の波動]とか[シャドーボール]も二倍くらい威力になるそうだ」

そ、それは強すぎますよ。
もうチート級じゃないですか。

「だが、"封印のルカリオ"と同じく弱点がある。波導を発する力が強すぎるんだ。わすがな動作でも必要以上に波導が放出されてしまい、常に体がエネルギー不足の状態に陥る。だから"破滅のルカリオ"は酷く短命で、長くても5年ほどしか生きられないらしい」

「たった5年ですか!? "シユウの一族"よりも短いですよ!」

些細な動作でも必要以上に波導が放出されるってことは、常に全力疾走しているのと同じような状態ってことですよね。
それでは体が堪えられません。

「そういう個体が100年に一度生まれるの?」

「シンオウの伝承ではな。俺も"封印のルカリオ"に一度会っただけで、それ以降はない」

「その封印と破滅の力って子供に継承されたりする?」

ノワルーナ、もしかして私が封印の力を持ってないかなーとか思ってません?
受け継いでいたらいいですけど、ないでしょうね。
私普通に[波動弾]使えますから。

「いいや。封印の力も破滅の力も1世代のみで、子供に継承されることはない」

ほら、やっぱり。
そんな都合いいことありませんって。

「ただ、ある条件を満たすことで子供に力が継承されることがある」

えっ、あるんですか。
どんな条件なのでしょう?

「それは"封印のルカリオ"と"破滅のルカリオ"との間に子供が生まれた時だ」

はいぃ!?
どういうことですか、それ!

「実は"封印のルカリオ"は必ず雄、"破滅のルカリオ"は必ず雌で生まれてくる。2体の間に子供が生まれると、その子供は封印と破滅の両方の力を受け継いで生まれる。封印と破滅、両方の力を受け継いで生まれたルカリオは強大な力を持つ。このルカリオのことを"穎主(えいしゅ)のルカリオ"と呼ぶ」

「"穎主のルカリオ"…」



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