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【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第57話~ダンジョンの守護者~

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◇◆◇◆


2時間後。
私達の体調が落ち着いてきたので、最終フロアに向け出発することにしました。
ちょっと時間がかかってしまいましたね。
それだけ時空の歪みが大きいのでしょうけど。
最終フロアまでは残り3階。
もう目と鼻の先です。
でも油断せず、慎重に行きましょう。





「階段が見えた」

「はい」

40分ほどかけ、ようやく最終フロアへと続く階段へとたどり着きました。
いよいよですね。
はぁー、緊張します。
チラリと横目で紫桜を見る。
分かりにくいですが、紫桜も緊張しているみたいです。
少し顔が強張っていました。

「……行くぞ」

「はい、行きましょう」

階段を下りて、最終フロアへと足を踏み入れる。
そして、フロア全体を見渡せる場所へ着いた時、目を疑うような光景が広がっていました。

「……これ、は?」

10メートル以上はある巨大な建造物がそこかしこに点在し、その全てが無惨な姿を晒す廃墟がそこにはありました。
道と思われるものも見受けられましたが、ほとんどが瓦礫に埋まっていた。
原型がどんなものだったのか想像ができない。

「これが……人間の都市ですか?」

「ああ、その中心地だな。シユウの攻撃で元の状態が分からないほど破壊されているけど」

「ほとんど1000年前のまま……なんだよね? 風化している様子もないし」

「シユウが《オルール・ボンバルディエ》を使うとこうなる。時空の歪みのせいで時間の流れが極端に遅くなるからな。逆の場合もあるが、ここは1000年前からほとんど時間が動いていないらしい」

確かにこの都市はシユウに破壊されてから、さほど経っていないように見えます。
時空の歪みのせいとはいえ、こんな場所がまだ残っているなんて驚きです。

「ここは外とは隔絶された空間だ。ここで数日過ごしても、外では数分しか経過していないだろう」

「ではじっくり調べられるということですね。……その場合、肉体の経過時間はどうなるんですか?」

じっくり調べるのはいいですが、肉体の経過時間が外と一緒では意味がありません。
紫桜には時間がないのに……。

「この場所にいくらいても、それは体感時間が数日ってところで肉体は本来の時間の流れで動くから問題ない。ただ、ここに長くいると外に出る時に体にかかる負担が大きくなるから気を付けろよ。そこまで長くいるつもりはないから大丈夫だと思うけど」

「なら心配しなくてもいいですね」

「じゃあすぐに調べよう。かなり広いし、手分けしないと」

「そうですね」

いくら時間があっても、早く手がかりを見つけた方がいいですからね。
早速行動を開始しましょう。


――バチンッ!


その時、何かが弾けたような音が響いた。
いえ弾けた音というか、まるで雷が落ちたような……。

「ウィル!」

紫桜が突然、私を覆うように抱き付いてきた。
何を……と思う間もなく、巨大な雷が降り注ぐ。
ガアンッという轟音と共に雷が私と紫桜に直撃した。

「……ぐっ」

「し、紫桜!」

紫桜が咄嗟に庇ってくれたお陰で、私にダメージはありません。
しかし、紫桜はもろに食らってしまった。

「紫桜、大丈夫ですか!?」

「……これくらい大丈夫。それよりも……」

紫桜が鋭い眼光で雷が放たれた場所を睨み付ける。
私もその視線の先に目をやると、見たこともないポケモンがいました。
人型でスラリとした体。
一見すると猫っぽい容姿。
顔と胸、手、腰から太ももが黄色い体毛で覆われ、他は黒い肌が見える。
額には小さいですが、水色に輝く角がありました。
なんですか……あのポケモンは?

「ゼラオラだ」

「ゼラオラ?」

「個体数が極めて少ない幻のポケモンだ。俺も初めて見る」

ま、幻のポケモン!?
なんで幻のポケモンがダンジョンの最深部にいるのですか!?

「ふーん。咄嗟に庇うなんて結構優しいんだ。冷酷非道なポケモンだって聞いてたけど」

「えっ……女、性?」

その声はとても高いもので、動作も粗っぽい感じがしない。
どう考えても女性のようです。
そんなことを考え、一瞬目を離した時、再びバチンッ! という音が響いた。
次の瞬間、100メートルほど離れた位置にいたゼラオラが私の目の前にいた。

「……えっ?」

あまりに突然のことに驚き、硬直してしまった。

「[プラズマフィスト]」

そんな私に容赦なくゼラオラは攻撃を繰り出す。
拳から放たれた電撃が向かってくるけど、動けないから避けることができない。

「きゃあああ!」

まともに攻撃を受けてしまった。
強力な電撃に意識が遠退く。

「ウィル! [雷パンチ]」

紫桜が私を守ろうとゼラオラに攻撃をした。
紫桜の攻撃スピードはかなり早い。
並みのポケモンなら、まず避けられない。
その攻撃をゼラオラは慌てる素振りも見せず受けた。

「……上質な電気をありがとう」

「!? ゼラオラの特性は〔蓄電〕か!」

〔蓄電〕という特性は電気技を受けた時、ダメージを受けず逆に体力が回復するもの。
流石の紫桜も幻のポケモンで、しかも初めて見たポケモンの特性までは知らなかったようです。

「でも噂通りの攻撃速度ね。お手並み拝見といこうか、"紫瞳(しどう)のガオガエン"」

紫瞳のガオガエン?
なんですかそれは?
しかし、訊く余裕などない。
凄まじいスピードでゼラオラが向かってくる。
まるで空から雷が落ちてくるような速さです。

瞬時に紫桜の背後に回ると、ゼラオラが腕を降り下ろす。
電気を纏った爪で紫桜の背中を引き裂こうとする。
紫桜はすぐに振り向いて、その攻撃を防ぐ。
防ぐと拳を突き出し反撃する。
当たったかと思いましたけど、すでにゼラオラは紫桜の拳が届かない位置にいた。
は、早い。
移動したところなんか見えなかった。

瞬きをすると、ゼラオラはすでにそこにはいなかった。

紫桜足下に移動している。

 

「[けたぐり]」

 

ゼラオラの攻撃で紫桜は大きく体勢を崩す。

紫桜は普通のガオガエンに比べると、筋力があって体重も重いから[けたぐり]のダメージが大きい。

体勢を立て直そうとしているけど、それよりも早くゼラオラが次の一手を打つ。

 

「[プラズマフィスト]」

 

再び強力な電気が紫桜を襲う。

紫桜は腕を前で組んでガードした。

……変ですね。

普段の紫桜ならたとえ体勢が崩れてても避けられると思うのですが、なんだか動きが鈍いような気がします。

………。

まさか紫桜……最初の攻撃で『まひ』してる!?

 

「どうしたの? "紫瞳のガオガエン"。数多の"シユウの一族"を葬ってきた実力ってそんなもの?」

 

「……」

 

ゼラオラの言葉に紫桜は険しい顔をしている。

その顔にばかり目が行くけど、手を見ると震えているのが分かった。

やはり『まひ』のせいで体が痺れて上手く動けないようです。

あれだけ素早いポケモン相手に『まひ』の状態異常は不利としか言いようがない。

なんとか手助けしなくては!

しかし、さっき受けた攻撃のダメージで私も思うように体が動かない。

恐らく紫桜は私がゼラオラの攻撃対象にならないように立ち回っている。

でなきゃほとんど動けない私が全く狙われていないなんてあり得ない。

 

「……捕らえた」

 

「え?」

 

突然、どこからかノワルーナの声が聞こえました。

……そういえばノワルーナは一体どこにいるんです?

さっきまで隣にいたのに姿が見えない。

 

「ギャン!」

 

ゼラオラが突如、悲鳴を上げてよろけた。

見ると右肩に矢が刺さっている。

ゼラオラはすぐに刺さっている矢を引き抜こうとするが、それよりも早く3本の矢が追撃とばかりにゼラオラに向けて放たれた。

矢は一方からではなく、全く別の方向から放たれている。

ゼラオラは避けるために矢を抜くことを諦め、雷のような速さで駆けて矢を躱す。

 

「そう動くと思ったよ。[かげぬい]」

 

どこからともなく現れたノワルーナは次の矢を番えていた。

まるで狙ったかのようにゼラオラが着地した場所に向かい[かげぬい]を撃つ。

矢がゼラオラの影に刺さり、ゼラオラは機動力を封じられた。

 

「なっ……まさか"漆黒の狙撃手"か!? そんな……ここまで気配を隠せるの!?」

 

狼狽えるゼラオラ。

ノワルーナは私の隣に降り立つと、私にオレンの実とクラボの実を手渡した。

 

「僕がゼラオラを抑えるから、その隙にゼフィラの状態異常を治して」

 

「!! 分かりました」

 

「急いでね。多分[かげぬい]はすぐに解かれると思うから」

 

ノワルーナはゼラオラに立ち向かう。

ノワルーナの言葉通り、ゼラオラは右肩に刺さっていた矢を抜くと、全身から電撃を放った。

放電の光で自分の影を消し、[かげぬい]の効果を打ち消したのだ。

[かげぬい]は動きを止めたい相手の影に刺さっていないと効果が出ない。

ノワルーナがどれだけの時間ゼラオラを抑えられるか分からない。

急がなくては!

 

「紫桜、大丈夫ですか?」

 

「……ああ」

 

紫桜の様子を確認すると、体力を回復させる効果のあるオレンの実と『まひ』を治す効果があるクラボの実を食べさせた。

少し辛そうな表情をしていましたが、すぐに効果が表れたのか楽になったみたいです。

めっちゃ分かりにくいですが、さっきより穏やかな顔になりました。

 

「紫桜、ノワルーナを助けましょう」

 

ノワルーナはゼラオラと戦っている。

一刻も早く応戦しなくてはいけない。

 

「いや、必要ない」

 

しかし、紫桜は首を横に振った。

 

「な、何故ですか? ノワルーナではゼラオラを倒しきることはできないと思いますが……」

 

「ウィルもノワルーナのこと過小評価しすぎだな。まぁ、ノワルーナの性格のせいだと思うけど。心配しなくてもノワルーナは十分強い。自信をつけさせるいい機会だ」

 

そう言うと紫桜はノワルーナを見た。

その視線を感じ取ったのか、ノワルーナも紫桜へ視線を向ける。

 

「大丈夫。お前ならやれる」

 

紫桜は小さく呟いた。

その言葉にノワルーナは驚き、目を丸くしながらも、覚悟を決めたのかゼラオラに再び向かい合う。

さっきまで時間を稼ぐことしか考えていなかったため防御に徹してしましたが、それが攻めに変わった。

 

「え!?」

 

ノワルーナの雰囲気が荒々しいものへ変貌する。

それに思わずゼラオラも怯んだ。

怯んだ隙を逃さずノワルーナはゼラオラのお腹へ蹴りをお見舞いする。

ゼラオラが地面に叩き付けられる。

ノワルーナは即矢を番え、ゼラオラへ放つ。

ジュナイパーは0.1秒で矢を番え、発せられるそうですが、ノワルーナはそれ以上の速さで番えているように見えます。

正直私の目では全く見えません。

わずか数秒で何十発もの矢が放たれた。

まるで矢の雨のようです。

ゼラオラは体勢を整えると、その矢の雨を目にも止まらぬ速さで避けていく。

 

「そう行くしかないよね。[かげぬい]」

 

ノワルーナがもう一度[かげぬい]を撃った。

まるでゼラオラの動きを先読みしていたかのような動作。

矢は吸い込まれるようにゼラオラへ向かっていく。

そのままゼラオラの脚を貫いて地面に突き刺さった。

 

「あっ……ぐ!?」

 

矢は深々とゼラオラの太ももを貫いている。

[かげぬい]の効果も発動しているのでゼラオラは動くことができない。

次の一撃で倒せる力を溜めるには十分すぎるほどの時間ができた。

ノワルーナは先程大量に矢を放った時とは比べられないくらい強く弦を引く。

 

「そこまででいいだろう。矢をお下げ下さい"漆黒の狙撃手"」

 

今まさにノワルーナが矢を放とうとしていた時、私達ではない声が響いた。

声がしたほうへ顔を向けると、また見たことがないポケモンがそこにいました。

猛禽類のような嘴。

頭には淡く光る鶏冠があり、首まで白銀の体毛に覆われている。

胴体と後ろ脚は獣ですが、前脚はまるで虫のようで尻尾は魚の鰭と、様々な生き物の特徴が合わさった姿をしていました。

な、なんですか? あのポケモンは……。

 

「無礼をして申し訳ない。"紫瞳の猛虎"、"漆黒の狙撃手"。そして"穎主のルカリオ"。どうかお許しを」

 

こちらへ深々と頭を下げる謎のポケモン。

どうやら戦闘の意思はないみたいです。

紫桜もそう感じたのか、臨戦態勢を解きました。

ノワルーナも構えていた矢を下げる。

 

「ちょっと来るの遅くない? こっちは死にそうなんだけど!」

 

「黙れ。"紫瞳の猛虎"の実力を確かめたいと勝手に飛び出して行ったのはお前だ」

 

謎のポケモンはどうやらゼラオラの知り合いらしい。

ゼラオラは拘束を解くために脚に刺さっていた矢を引き抜いた。

血が一気に吹き出る。

 

「いっっったーい!」

 

悶絶するゼラオラ。

すっごく痛そうです。

 

「……お前は何をしているんだ」

 

「いててて……。だってこうでもしないと抜けないじゃんか!」

 

「考えがなさすぎる。戦闘以外のこととなると本当に駄目だな。少しは先代を見習え」

 

「ちょっ……お母さんのこと持ち出さないでよ!」

 

何故か言い合いを始めるゼラオラと謎のポケモン。

話の内容から察するに、知り合いとかそういうレベルではなさそうですね。

 

「さて、脳筋は放っておいて……」

 

「誰が脳筋よ!」

 

「初にお目にかかる"紫瞳の猛虎"よ。我が名はシルヴァディ。このダンジョンを守護するものです」

 

「ダンジョンの守護者……?」

 

「はい。そして、貴方が来るのをお待ちしておりました」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 


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