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孤高の海賊は異世界でヒーローを目指すⅢ

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覚悟をして本来の姿になった。

本来の姿になってすぐ瓦礫の下敷きになる人達に防御魔術を展開し体を保護する。

父さん達は俺自身が覆い被さって守った。

超深海の水圧に耐える体だ。瓦礫が降り注いだくらいではダメージにもならない。

崩落が止まったら【リアクターディスチャージ】を使って瓦礫を吹き飛ばす。

他の人達は防御魔術で守っているので使っても問題ない。

よくも父さんを殺そうとしたな。

絶対に許さない……殺してやる!

目の前が赤く染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まれ、竜治!!」

「お兄ちゃん!!」

 

ふと、父さんと幸芽の声が聞こえウィルス種の凶暴性に支配されていた意識が引き戻された。

一度ウィルス種の凶暴性に支配されると疲れるまで暴れないと正気に戻れない。通常なら。

でも二人の声はとてもハッキリ聞こえて途端に意識が鮮明になった。

近くに何故かオールマイトもいる。

久し振りに力を使ったのも相まって暴走してしまったけど、皆のお陰で止まることが出来たみたいだ。

でも同時にオールマイトにもこのことを説明しなくてはならない事実に気付いて愕然とした。

覚悟したハズなのに、これまで感じたことのない絶望が心を埋め尽くす。

個性だと誤魔化すのは無理だ。

いくら複合個性だとしても不可能なことをしたのだから。

しかし話そうとした瞬間全身をまるで焼いた鉄板を押し付けられたかのような痛みが走った。

世界の免疫システムから攻撃を受けたのだ。

不味い、忘れてた!

慌てて人間の姿に戻ったけどあまりの痛みで気を失ってしまった。

そして目が覚めたら病院で父さんとオールマイトだけじゃなくて母さんまでいた。

……母さんにまで直接言わないといけないのか。

 

「竜治じゃない? どういうことだ?」

「…………」

 

言いたくない。

でも個性じゃないとバレているから言わないと説明出来ない。

声が震えるのを必死に堪えて続きを話す。

 

「俺が元々住んでいた世界はデジタルワールドと言い、デジタルモンスター通称デジモンと呼ばれる生き物が生きている世界だ。この世界とは理も生態系も全く違う。俺はその世界で海賊として生きていた。他のデジモンの住処を襲い、略奪し、邪魔をするものは容赦なく皆殺しにしてきた」

「……まさに海賊だね」

「ああ。そんな風に生きていたからネットワークセキュリティの守護者【ロイヤルナイツ】が俺を殺すためにやってきた。この世界で言うヒーローみたいな奴等だ。俺はそいつ等と数日間戦い、ついに力尽きた。殺されると思った時、空間に歪みが生じ俺は時空の狭間に落ちた」

 

究極体でも上位に位置するデジモン同士が戦うとかなり激しい戦闘になるためその余波で稀に時空の歪みが発生する。

最高位のデジモン三体と戦っていたんだ。技も連発していた。時空の歪みが発生して当たり前だったのだろう。

 

「普通時空の狭間に落ちると助からない。でも俺は運よくこの世界に落ちて助かった。でも落ちてすぐこの世界から攻撃を受けた。俺が病原菌で世界からの攻撃が白血球と例えれば分かりやすいだろう。このままだと世界の力に殺されると思った俺の目の前に偶然、死んだばかりのこの世界の生物がいた。この世界に生きる生物の体に憑依すればもしかしたら助かるかもしれないと思った俺は咄嗟にその体に憑依し、更には死にかけの体を回復させるために一体化した。それが九年前あの嵐の日に起こった出来事だ」

「ちょっと待って……。死んだばかりのって……じゃあ竜治は……」

「ああ。宮瀬竜治はあの時すでに死んでいた。俺が一体化したことで生命活動が復活し仮死状態となっただけ。宮瀬竜治の魂はもうこの体にはない」

 

自分の本当の息子が九年前すでに死んでいると知って宮瀬志乃は膝から崩れ落ちた。

両手で顔を覆って……すすり泣く声が聞こえる。

俺はその姿を見ることが出来ず顔を背けた。

 

「では仮死状態から目覚めた時には意識はもうレガレクスモンだったということか?」

「そうだ。でもこの世界のことが何も分からなかったから記憶がないフリをしていた。その方が都合が良かったからな。人間のフリもしながら力が戻るのをジッと待っていた。見ての通り力は完全に戻っている」

「「「…………」」」

 

すぐに信じられる話じゃないが辻褄が合いすぎて信じざるおえないだろう。

じゃなければ説明がつかないからな。

 

「……市民を守っていたあの膜はどうやったんだ? 直前に見たことがない文字や模様を描いていたけど」

「魔術を使った。魔術っていうのは簡単に説明すると自身の力を消費し、本来自分には使えない事象を発生させる術だ。流石にあの人数に守りの魔術を使うのは魔力の消費量段違いだった」

「ならドゥーベの傷を治したのもその魔術か」

「ああ。自分に使うのと他人に使うんじゃやっぱり難易度が違うな」

 

オールマイト達からの質問に淡々と答える。

早くこの時間終わってくれないかな。息がし辛い。

 

「この焼けたような傷はさっき言った世界からの攻撃だったりするの? 九年前の竜治の体にも同じ傷があった。あの時は海底の岩で擦った時の傷だと思っていたけど」

「ああ。本来の姿になっているとやっぱり世界からの攻撃を受けるようだな。本来の姿になっていられるのは10分が限界だろう。それ以上は世界の免疫システムから敵だと判断され攻撃を受ける」

 

これは俺がウィルス種なのが深く関係してそうだな。

ウィルス種は一部例外はあるが皆気性が荒い。

そして怒ったりして自分の感情を制御出来なくなるとその凶暴性に支配され、疲れるまで暴れ狂う。

だからこの世界に害を与える存在だと判断され攻撃されるんだろう。

でもそうだと分かったからこそこの世界でも死ねるな。

俺はベッドから降りて病室の外へ歩き出す。

 

「待ちなさい。まだ傷が治っていないのに何処に行くつもりだ?」

「世界の免疫システムから攻撃を受けるほど俺は穢れている。きっと呪われてもいるだろう。あれだけ殺せば当たり前だけど。俺はここにいてはいけないんだ。誰もいないところで死ぬから安心してくれ」

 

相当な苦痛が襲うだろうが、苦しんで死ぬのが俺にはお似合いの最後だ。

誰もいないところって言ったらやっぱり海の底だよな。

どうやってそこまで行こうか、と考えていたら。

 

「駄目よ。行かせない」

 

何か温かいものが体を包み込んだ。

見ると宮瀬志乃が俺を抱き締めていた。

 

「何してるんだ。放せよ」

「放さない。放したら貴方を永遠に失ってしまうもの。もう息子を失くすのはごめんだわ」

 

息子? 何故俺を息子だと言うんだ?

話を聞いていなかったのか?

 

「俺は……あんた達の息子じゃない。息子のフリをしていた別の存在だ」

「そうだね。最初はそうだっただろう」

「!?」

 

気が付くと宮瀬魁も俺を抱き締めていた。

力強く、でも優しくいつものように俺に触れる。

 

「でも竜治は……いや、レガレクスモンは僕達の息子になってくれただろう? 初めて“父さん”って呼んでくれた時は嬉しかったよ。新しい息子が僕を父親だと認めてくれたんだって。フリなんかじゃない。レガレクスモンは僕達の大事な息子だ」

「……!!」

 

それもあの時と同じ言葉。

確かにそうだけど、でも……。

 

「俺はこの世界の人間からしても化け物なんだぞ。元の世界じゃ敵が可愛く思えることを平気でした。他のデジモンの幸せを奪った。子供だって殺した。誰にも許されないことをずっとしてきた! 死んだほうがこの世界のためになるだろ!!」

 

だから見捨ててくれ。

貴方達の優しさを愛情を受ける資格なんて俺にはない。

 

「そうだね。だから幸芽が生まれた時“触れられない”と言って泣いていたんだろう? でもそれは命の重さに今まで気付いていなかっただけさ。気付いたから苦しいんだ。幸せを奪っていたと知ったから悲しいんだ。敵の中には自分が間違いを犯したと気付かないものも多い。でもレガレクスモンはこの世界に来て色んな物事に触れて自分の過ちに気付いた。今レガレクスモンが何よりも欲しているのは罰だ。違うかい?」

「……罰」

 

そうだ。俺は罰して欲しい。

何も知らずに愚かで傲慢なことをし続けてきた自分を。

それには死ぬのが一番いいと思って……。

 

「でも死ぬことだけが償いじゃない。本当に悪い、申し訳ないと思っているなら生きなさい」

「生きる……」

「そう、生きて罪を償いなさい。誰か一人でも君に生きていて欲しいと願う人がいるなら。僕達はレガレクスモンに生きていて欲しいよ」

「!!!」

 

生きていて欲しいなんて言われたのは初めてだ。

今まで逆のことしか言われたことなかった。

恐怖と憎悪の目でしか見られたことがなかった。

けど二人から感じるのは間違いなく慈愛だ。

嘘偽りのない無償の愛。

 

「生きてて……いいのか? 俺……ここにいていい?」

「いいわよ。貴方が死んだら悲しいわ。私も、お父さんも幸芽も……皆貴方が大好きよ」

 

母さんの言葉に堪えていたものが溢れ出す。

俺は振り向いて両親に抱き着いた。

 

「ごめ……ごめんなさい。ずっと……騙していてごめんなさい」

「騙してないよ。レガレクスモンは僕達の家族だ」

「そう。貴方は私達の子で幸芽のお兄ちゃんよ。一人でこんなこと抱えて辛かったでしょ? もう大丈夫よ」

 

全部話したのに、俺が何をしてきたのかも言ったのに、それでも見捨てないという選択をしてくれるなんて思わなかった。

様々な感情が複雑に湧き上がって制御出来ない。

ただひたすらすがって泣き続ける俺を両親は受け止めてくれている。

その事実が今まで隠していた弱い自分を曝け出す。

 

「レガレクスモン。ヒーローになりなさい」

 

オールマイトの声が病室に響く。

決して大きな声ではなかったけどしっかり耳に届いた。

 

「ヒーローになって今まで自分が壊してしまった、奪ってしまった以上のものを救いなさい。それが君に出来る何よりの罪償いだ」

「無理……だろ。海賊の俺がヒーローに、はなれるワケない」

「なれる。あの時一瞬でも本来の姿になることを躊躇っていれば恐らく誰も助からなかっただろう。だが君は自分の素性を全て話すことになったとしても力を使い、結果全員が助かった。今の君は海賊じゃない。誰かのために力を使える強くて優しい子だ。きっと立派なヒーローになれる。やり遂げられると私は信じるよ」

 

あまりにハッキリ断言するものだからビックリして涙が引っ込んだ。

こんな俺にヒーローになって多くのものを救い罪を償えと。

そしてそれが出来ると、信じると言ってくれた。

凄いな。これがNo.1ヒーローか。

こんな人が守ってくれたらそれは皆安心するよな。

ああ……最初オールマイトに会った時思い浮かんだことはこれだったんだ。

 

 

この人がデジタルワールドいたら自分を助けれくれたんじゃないかと……。

 

 

もう迷わない。

涙を拭い、両親から離れてオールマイトの前に立つ。

 

「必ずヒーローになる。俺が傷付け、殺めてしまった以上の命を救い続けると今ここで宣言する!」

 

拳を前に突き出し、オールマイトの目をしっかり見て誓う。

今まで持っていなかった明確な生きる理由。

それを持っただけなのに自分の芯が定まる感覚がした。

 

「ははは。オールマイトに先言われちゃいましたね。でも僕も出来るって信じてるよ。無理しない程度に頑張りなさい」

「ええ。体を壊したら元も子もないもの。だから自分のことも守ってね」

 

また両親に抱き締められた。

うん。父さんも母さんも幸芽も悲しませたくないからそういう無茶なことはしない。

周りも自分も守れるようになって初めて一人前だろうからな。

 

――伝えて。

 

ふっと頭に声が響いた。

幼い頃のこの体の声だった。

 

――伝えて。……に僕の言葉を。

 

それが何かすぐに分かった。

俺は両親に向き合う。

 

「竜治?」

「“……ごめん。お母さん、お父さん。ひどいこと言ってごめんなさい。大好きだよ。”……この体に憑依した直後に聞こえた言葉だ。間違いなく宮瀬竜治が父さんと母さんに言いたかったことだろう。後悔していたんだろうな。本当は大好きなのに大嫌いだと言ってしまったことを」

 

きっと無念だったに違いない。

もう魂がなかったのに聞こえたくらいなのだから。

ショックを受けるかと思ったんだけど。

 

「そう……。伝えてくれてありがとう」

 

母さんも父さんも優しく微笑んで受け止めた。

 

「きっとその言葉を伝えるためにあの子はレガレクスモンに体をくれたのね」

「そう……かな?」

「きっとそうだよ。じゃなきゃ拒絶反応もなしに別の体と一体化なんて出来ないだろうから」

 

言われてみればそうだな。

あの時はそんなこと考えている余裕なかったけど、かなりすんなり憑依し一体化していた。

そっか。受け入れてくれたのか。じゃあお礼言わないとな。

 

「ありがとう。伝えるのが遅くなってごめんな」

 

お前とはヒーローになる理由違うけど、お前が救いたかった分まで人を救うからな。

だから安心してくれ。

 

――こっちこそありがとう。僕の分まで長生きしてね。

 

また声が聞こえた。

幻聴だとは思いたくないから最後の言葉としてしっかり受け取るよ。

今まであったわだかまりが消えて心がとても穏やかになった。

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いたのでベッドに戻ってまた横になる。

さっきは自害しようと歩いてたけど実際はまだフラフラで立ち上がるのもキツい。

世界からの攻撃を受けると体の内部まで損傷するからな。

魔力に余裕はあるけど今いるのは病院だから医者に任せよう。

 

「ところでさっき言っていた【ロイヤルナイツ】……だっけ? それは一体どんな存在なんだい? ヒーローみたいな奴等だと言ってたけど」

「みたいなって言ったけど【ロイヤルナイツ】は……」

 

オールマイトからの質問に答えようとしてあることを考えていなかったことに気が付いた。

うわぁ……これは不味い。

もしそうなったら絶対大変なことになる。

 

「ど、どうしたの竜治。まだ何かあるの?」

「……あー……」

 

これも言わないと駄目だな。

じゃないと本当にそうなった時対処出来ない。

 

「【ロイヤルナイツ】はデジタルワールドの神イグドラシルに仕える13体の聖騎士型デジモンだ。秩序を守る守護者ではあるけど、この世界のヒーローとは似て非なる存在だ」

「どうして? 秩序を守る存在なら一緒じゃないの?」

「いや全くの別物だ。例えば……山の麓に敵の根城があって、それを殲滅せよという任務が来たらこの世界のヒーローならどうする?」

「まずは情報収集から入るね。索敵に長けた個性を持つヒーローを先に派遣する」

「そうですね。中がどうなっているのか、囚われている人がいるのか徹底的に調べてから作戦行動に入るかな。【ロイヤルナイツ】は違うの?」

「その任務を請け負った【ロイヤルナイツ】は根城があるという山を跡形もなく吹き飛ばした」

「「えぇ!?」」

 

父さんとオールマイトが驚きのあまり声を上げた。

そういう反応になるよな。

でもこれ本当にあったことなんだよ。

ちなみにやったのは白竜騎士の異名を持つデジモン、デュナスモンだ。

 

「【ロイヤルナイツ】は秩序を守る存在だけどデジモンを守る存在じゃない。秩序を守るためなら冷酷なことさえ平気でする。しかも面倒なことに【ロイヤルナイツ】は一人一人持っている正義が違う。その聖騎士によって行動が全く違うんだ。この聖騎士は助けてくれたけどこの聖騎士は見捨てたとかザラにある」

 

だからこそ【ロイヤルナイツ】同士での争いもちょくちょく起こる。

一枚岩ではないってのが唯一の救いだな。

 

「ということで【ロイヤルナイツ】がこの世界にやって来た場合俺のことは見捨てろ」

「は!? な、何を言っているんだ! そんなこと出来るワケないだろ!!」

「しないと駄目なんだ。【ロイヤルナイツ】がやってくるとしたら狙いは間違いなく俺だ。俺はすでにイグドラシルより討伐命令が出ているデジモン。普通時空の狭間に落ちたら助からねぇが、過去助かったデジモンがいるから捜している可能性は零じゃない。【ロイヤルナイツ】の邪魔をして敵だと判断されれば確実に殺される。ひょっとしたら日本どころかこの世界が滅ぼされる可能性まである。【ロイヤルナイツ】は一体で世界を滅ぼせる力があるからな」

「「「…………」」」

 

来たのが話し合いが出来そうなガンクゥモンやジエスモンならいいけど、イグドラシルに忠誠を誓っているクレニアムモンとかロードナイトモンだったら最悪だ。

邪魔をした時点でヒーローを皆殺しにしようとか考えるかもしれない。

1体ならオールマイトでも対抗出来るとは思うが、複数体で来られたら無理だろう。

出来たとしても確実に都市部が壊滅するほどの被害が出る。

 

「俺が死ねばこの世界は安全だ。だから何もしないでくれ。俺は誰にも死んで欲しくない」

「それは僕達だって同じだ。竜治に死んで欲しくないよ」

「……その言葉だけで十分だ。ありがとう」

 

そんなこと言ってくれるのは父さん達だけだ。

あっちの世界じゃ俺は嫌われ者だからな。

 

「確実に来るというワケではないのだろう?」

「ああ。可能性があるってだけだ」

「なら今それは忘れていいだろう。100%じゃないものにずっと怯えていても仕方ないからね。君は君がやりたいことをすればいい。この世界では君は守られるべき子供なんだからね」

「そうね。それにもしかしたら今の貴方は違うって分かってくれるかもしれないもの。最後まで諦めないでいきましょう」

「……そうだな」

 

話し合いは終わって、俺は一日だけ入院することになった。

そして俺が大暴れした件は個性が初めて発現したことで暴走状態に陥っていたという処理がされてお咎めなしになった。

オールマイトが色々してくれたらしい。

頭上がんなくなっちゃったな。

そして退院した日の夜。

 

「何でこうなるの?」

 

何故か俺は父さんと母さんと幸芽で川の字で寝ている。

父さんが全員で一緒に寝たいと言って駄々をこねたのだ。

子供か!?

 

「お兄ちゃんといっしょでうれしい!」

「そ、そうか。俺も嬉しいぞ」

 

幸芽がめったに一緒に寝ない俺にくっついてはしゃいでいる。

本来の姿で暴走したところをばっちり見ているのに全然態度変わんないな。

はしゃぎすぎてすぐ寝ちゃったし、俺の妹が可愛い。

 

「あらあら嬉しすぎてぴったりくっついてること。幸芽はお兄ちゃんが大好きね」

「もうちょっと怖がるかと思ったんだけどな。幼い幸芽にはレガレクスモンの姿はかなり怖いと思うんだけど」

「最初は怖かったみたいよ。牙も爪もあるし大きいしで。でも仕草も声も竜治そのものだから怖くなくなったみたい。あ、個性は【魚人化】って届けてあるから訊かれたらそう答えてね」

「分かった」

 

しかし本来の姿の最大活動時間が10分しかないから人間のまま、もしくは一部変化で力を使えるように訓練しないといけないな。

これまでそういう力の使い方をしてこなかったから相当練習しないと使いこなせない。

使える魔力も限られているから魔術は主に守りと治癒に使うことにしよう。

 

「竜治」

「何だ?」

「竜治が入院している間に考えたんだけどさ。竜治がこの世界に来たのって誰かを愛する大切さを学ぶためだったんじゃないかと思うんだ」

「え?」

 

今後の方針をうんうん考えていると父さんからそう言われた。

誰かを愛する大切さを学ぶため? どういうこと?

 

「デジモンって親子の繋がりがないんだろ? なら誰かを愛することに関しては感情は薄いんじゃないかい?」

「そうだな。俺も最初の頃は家族愛が全然理解出来なかった。今も愛情に関しては理解出来てない部分があるよ」

 

子を成すのに伴侶を持つ必要もなければ、親も必要ない。

深い愛情を持つことは普通のデジモンならまずないと思う。

だからこそ疑問なんだよな。

何で俺は愛情を欲しがっていたんだろう?

 

「ならデジタルワールドにいた時に自分の間違いに気付くのは無理だったと思うな。こっちに来たからこそ知った。その分苦しい思いはしたけれど、きっと意味がある。必要になることだったんだ。これからも沢山知って学びなさい」

「うん、分かった」

「そうそう。今は理解出来なくてもいつか理解出来る時が来るわ。そのうち素敵な人見つけて結婚も出来るわよ」

「それは流石に無理だろ。元海賊な上に異世界の生物の俺と結婚したい奴いないって」

「えー、僕達に孫抱っこさせてくれないの?」

「抱っこしたいのかい。生殖能力はあるみたいだけどそれも諦めてくれ」

 

というか何故あれで子供が生まれるのか未だに分からん。

それ言ったらデジモンの生まれ方も人間からしたら理解不能なんだろうけど。

そんなこと考えている間にウトウトしてきた。

温かいから安心する。

 

「……本当に、ありがとう。父さんも母さんも幸芽も大好きだ」

「おや、随分素直だね。いつもなら恥ずかしがってそういうこと言わないのに。僕も竜治が大好きだよ」

「私も大好きよ。勿論幸芽もね」

 

父さんと母さんから頭をなでなでされた。

嬉しい。

皆から愛して貰えて幸せだな。

今度はそう感じても苦しくない。

俺はゆっくりと眠りについた。

◆◇◆◇◆

≪宮瀬志乃視点≫

 

「ぐっすり眠ってる?」

「うん。触っても起きないくらいぐっすりだ。今日はあの夢を見ないだろう」

「ならいいわ」

 

幸芽を抱き締めて眠る竜治を見てホッと一息つく。

ここしばらく竜治はあの悪夢を見て苦しむ頻度が増えていた。

思春期だからかと思っていたけど、実際は罪悪感で精神が脆くなっていたことが原因だった。

こことは異なる世界で海賊として生き、残虐な行為を続けていた自分を許せなかった。

でもそれを誰にも相談することが出来なくて悩んで、悩んで、悩み疲れて心が壊れかけていた。

多分自分では自覚していなかったでしょう。

もう少し遅かったら本当に壊れていたハズ。

話すのはとても勇気のいることだったでしょうけど、話してくれて良かった。

 

「しかし右目もあの夢もデジタルワールドにいた時のことが原因ならここじゃ治せないね。右目はどうしようもないけどあの夢はなんとかしてあげたいな」

「そうね。ただでさえこれから困難な道ばかりなのだから、せめて夢は穏やかなものであって欲しいわ。薬で誤魔化すのには限界があるもの」

 

あの夢を見ると時には自傷行為に走ってしまうほど竜治は酷く苦しむ。

一体何があったらあれほど苦しむのかしら?

薬で苦痛を和らげてあげることしか出来ないけど、これもちゃんと治してあげたい。

すやすやと眠る竜治の顔に触れる。

最初の頃は部屋に近付いただけで飛び起きるほど警戒していたのに、今はこうして触れても起きないし何ならすり寄ってくる。

結構甘えん坊なのよね。

これも無自覚なんでしょうけど可愛いわ。

 

「大丈夫よ。お母さんもお父さんも竜治の味方だからね」

 

幸芽ごとぎゅうっと抱き締めて私も眠りにつく。

大切な大切な私の子供。

その時までずっと一緒にいましょう。

◆◇◆◇◆

朝起きたら幸芽だけじゃなく両親からぎゅーとされていました。

何で?

ともかく今後の方針は決まったからそれに向かって頑張るぞ。

それはそれとして俺の正体を話さないといけない奴がもう一人いる。

 

「というワケだ」

 

学校が終わり次第、俺は心操を人気のないところへ呼んで全てを話した。

案の定口を開けて驚いた顔をしている。

 

「……そんな重大なこと俺に話していいのか?」

「だって疑問に思ってただろ? いくら複合個性であっても説明がつかないことしてたからな」

「そうだけど……俺が誰かに言いふらしたりしたらどうするんだよ」

「? 心操はそういうことしないだろ」

 

何だかんだ係わるようになってもう一年。

心操が人の秘密を誰かに話すような奴じゃないって知ってる。

しかし俺がそう言うと心操が頭を抱えてしゃがみ込んだ。

どうした急に。

 

「お前……距離感おかしくないか? ついこの間まで俺のこと遠ざけてたのに」

「それはこんな穢れている俺と係わって欲しくなかったからさ。さっきも言った通り俺は海賊で血に塗れた殺戮者だ。しかもお前が話しかけてきた頃、死にたいって気持ちがあったから親しい奴を作るつもりがなかった。その上純粋にヒーローを目指している心操は闇の中で生きてきた俺にはめちゃくちゃ眩しかったからな。だから遠ざけてた」

 

薄れゆく意識の中、心操が俺を本気で心配していたのをちゃんと覚えている。

家族以外で俺を心配してくれる奴なんてオールマイトしかいなかった。

無個性の俺を決して馬鹿にせず心配してくれた心操なら信じてもいいと思ったんだ。

 

「眩しくはないだろ」

「そうか? ちゃんと夢を追っていてカッコいいと思うぞ」

「素直すぎるだろ! 聞いてるこっちが恥ずかしいから止めろ!!」

「それは悪かったな。ま、ともかく俺もヒーロー目指すことにしたからこれからもよろしくな」

「お、おう。じゃあ竜治って呼んでいいか? 俺お前の家族と会ってるから宮瀬って呼ぶとごっちゃになる」

「いいよ。なら俺も人使って呼んでもいいか?」

「ああ」

 

うん。これで人使とも普通に付き合えるな。

今までは大分ギクシャクした関係だったから。

 

「竜治。ヒーローを目指すのならヒーロー科に入るんだろ?」

「勿論」

「なら一緒に雄英を受けようぜ。今度は断る理由ないだろ」

「え? いやヒーロー科は受けるけど雄英には行かねぇぞ」

「何でだよ! お前の成績なら筆記は余裕だし、敵を圧倒したあの力使えば実技なんか楽勝だろ!」

 

そうだろうけど雄英は受けるつもりない。

別に雄英じゃなくてもヒーロー科はあるんだし近間でいいよ近間で。

そう思っていたんだけど……。

 

「宮瀬。ヒーロー科を志望するなら雄英高校を受けてみないか?」

「はい?」

 

改めて進路希望の用紙を出しに行ったら担任にそう言われた。

 

「模試はA判定。しかも先日起こった敵襲撃で個性が発現しているそうじゃないか。聞いた話だとかなり強い個性らしいし、元より運動神経が抜群だった宮瀬がその個性を使いこなせるようになれば十分合格を狙える。試験までまだ10ヶ月ある。いけると思うぞ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。変身型の個性で街を破壊していた敵を圧倒したそうだ。まぁ初めての個性発現でその後暴走してしまったそうだが」

「あー、それで数日学校休んでたのか。これまで無遅刻無欠席だった子がどうしたのかと思ってた」

「…………」

 

俺を置いて教師陣大盛り上がりである。

そりゃ盛り上がるか。

今まで雄英高校のヒーロー科に合格した生徒がいなかった学校で合格するかもしれない奴がいたら。

 

「俺は近くのヒーロー科がある高校でいいです。雄英を受けるつもりはありません」(父親に叩き込まれているのでちゃんと敬語使える)

「そんな……勿体ないよ! 折角実力があるのに! でも気が変わったらいつでも言っていいからね」

 

気なんか変わるかよ。

俺本当に雄英受けるつもりないんだから。

 

「竜治。先生から聞いたけど本当に雄英高校受けないの? オールマイトやエンデヴァーという名高いヒーローの出身校だよ。竜治なら楽勝だと思うんだけど」

「そうよね。ヒーローを育成する設備も整っているし、行けるなら行った方がいいわ」

 

が、家に帰ったら父さんと母さんにも言われた。

ちなみに帰り道でオールマイトにばったり遭遇し、そのオールマイトにも「雄英受けない?」と言われていたりする。

 

「雄英、雄英って……何で皆雄英を進めるんだよ! 雄英のバーゲンセールか!?」

「お、いい表現だね」

「茶化すな! 俺は近くのヒーロー科でいい。別に雄英に行かなくたってヒーローになれるんだし」

「そう言われたらそうだけど、何でそこまで嫌がるんだ? 行きたくない理由があるのか?」

「……注目されるのが嫌だ」

 

雄英は体育祭やらなんやらでTVで出ることが多い。

何かあるとメディアはすぐ注目する。

注目されるのが苦手な俺には絶対合わないところだ。

 

「まぁ竜治の境遇を考えれば注目されるのが嫌なのは分かるわ。でもヒーローになれば嫌でも注目されることになるのよ? 早いうちに慣れておいた方が絶対にいいわ。それには雄英に行くのが一番手っ取り早いと思うわよ」

「それは……」

 

オールマイト見ていれば分かる。

そこにいるだけでめちゃくちゃ注目される。

ヒーローになるなら絶対に慣れないといけないことだ。

分かるんだけど……。

 

「ほほう。これはそれ以外に雄英に行きたくない理由があるな。ほら白状しなさい。どうしてそんなに雄英に行きたくないんだ?」

「……えっ、と……」

「何よ。言い辛いことなの? もう私達に隠すことなんて何もないじゃない。言っちゃいなさいよ」

 

俺が雄英に行きたくない理由を聞き出すため両親は左右から俺を抱き締めて拘束した。

これ絶対言わない限り逃げられない奴だ。

嘘だろ。言わないと駄目?

でも言わないとマジで放してくれないよなぁ。

観念した俺はすっかり重くなった口を開いた。

 

「……から」

「ん? 何?」

「父さんと母さんと幸芽と離れたくない……から」

「「…………」」

 

そう、本当の理由はこれ。

雄英は遠いから受かったら一人暮らししないといけない。

一人暮らしが嫌というワケじゃない。

ただ……やっとわだかまりがなくなった家族と離れたくないんだ。

も、もうちょっと一緒にいたいなーって……。

 

「「いやー! うちの息子が可愛いーー!!」」

「ぐえっ!?」

 

返答を聞いた両親は更に俺を強く抱き締めた。

ちょっ! 首絞まってる、首絞まってるから!

 

「私達と離れたくないなんて可愛いんだから! この甘えっこさんめ!」

「本当最高に可愛いな。今日一緒にお風呂入ろ♪」

「あーもー! そういう反応になるって分かってたから言いたくなかったんだよ!」

 

聞いたら絶対スイッチが入るから黙ってたのに!

とりあえず放してくれ!

苦しいのもあるがそれ以上に恥ずかしい!

 

「よしお母さん。竜治が雄英高校合格したら引っ越すよ!」

「了解!」

「はぁ!? 何でそうなるんだよ!!」

「だって僕達と離れたくないから雄英行きたくないんだろ? なら家族全員で近くに引っ越せば万事解決だ!」

「そ、そうだけど……幸芽はどうするんだよ! 友達と離れることになっちゃうだろ!」

「幸芽いいよ。友達と離れるの寂しいけどお兄ちゃんと離れるほうが寂しいもん」

「いいんかい!」

「じゃ決定だね。仕事は頑張って探すから竜治は勉強頑張って!」

「わ、分かったよ」

 

 

 

 

 

 

「てなことで俺も雄英受けることになりました」

「……お前の家族凄いな」

「本当にな。テンション上がるとマジついていけねぇや」

「お、お疲れ。しかし孤高の海賊だったとは思えないくらい竜治って寂しがり屋だな」

「自分でもそう思うわ」

 

 

 

それから数ヶ月。

筆記はなんとかなるからやっぱり目下の課題は力の使い方。

10分しか全力を出せないから人使と一緒に連日特訓している。

 

「うお!?」

「ほう、よく避けたな。大分目が育ってきている。後は怖くても目を絶対に閉じないよう心掛けろ。一瞬でも相手の姿が見えなくなったら死ぬぜ」

 

組み手をしながら俺も身体能力の上乗せや一部変化を瞬時に出来るように体を慣らす。

魔術で身体能力を強化したほうが正直楽なんだが、魔力を他のことに使いたいからそれは封印する。

大分様になってきたな。

これなら試験に十分間に合いそうだ。

 

「はあ…はあ…。瞬時に腕だけ変身させるとか、剣だけ出すとかお前器用だな。本来の姿見てなかったら別の個性だって勘違いするぞ」

「全力を出せる時間が限られてるからな。出し惜しみする気はねぇが基本は人間の姿で戦う」

 

人間の姿のままだと技を出すことは出来ねぇが弱い敵相手ならこれで十分だ。

けど一定以上強いのは流石に難しいか?

やっぱり本来の姿で戦いたい。

何かいい方法ないかな?

…………。

あ、力を抑え込んだ状態なら長時間本来の姿でもいけるか?

魔力は消費してしまうが魔術で力を抑え込めばもしかしたら世界の免疫システムから攻撃を回避出来るかもしれない。

攻撃を受ける理由がウィルス種って理由だけじゃなく力が強いのもあるなら出来そう。

俺の力はデジタルワールドでもトップクラスだからな。

それで回避出来るなら防御力は上がるし威力は格段に落ちるが技も使える。

それに深海への潜水も可能になる。海で活動するなら必須だ。

よし、早速検証だ。

サッと服を脱いで力を抑制する魔術を掛け本来の姿になる。

 

「わっ! え……大丈夫なのか?」

「今しがた立てた仮説の検証だ。力を1割ほどに抑えている。これで活動出来るか試す。体の大きさも2mに抑えてあるから向かってきな人使」

「…………」

「どうした?」

「いや、やっぱりカッコいいなと思って」

「…………」

「その姿でも照れてるのがよく分かるな」

「うっさいわ!」

 

色々と試した結果、力を4割にまで抑えれば免疫システムからの攻撃を回避出来るということが分かった。

やっぱり力が強いのも理由だったか。

半分出せないのは痛いが仕方ない。

これで大抵の敵は蹴散らせる。

ただ力を抑制する術も魔力消費量が多いから気軽に使えないな。

まぁなんとかなるか。

ちなみに見られないよう認識阻害の魔術を周囲にかけて特訓している。

怒られるの面倒だからな。

 

「そういえばその魔術って人間も使えたりするのか?」

「構造を理解すればいけると思うけど止めとけ。この世界の人間は魔力を持っていない。魔力を持っていない場合魔力の代わりに命を削って術を発動させるんだ。使えば文字通り寿命が縮むぜ」

「うわ、マジかよ。便利だから使ってみたかったんだけど」

「まぁ俺も本当はこんな高度な魔術使えるほどの魔力持ってないんだけどな。体内に埋め込んだ魔力を蓄えられる特殊な宝玉のお陰で使えるってだけだ。あ、この宝玉天使族から奪った奴な」

「軽率に自分がやった悪事を暴露していくスタイル止めろ!」

 

そう言われても本当にやっちまったことだしな。

後あれだ。天使族相手には悪いことした気分になってないのもある。

何でか知らねぇけど天使族は凄い敵視しちゃうんだよな。

何でだろう?

 

「あれ?」

 

夕飯の買い物をするために訓練を早めに切り上げて商店街へ向かい歩いているとオールマイトの気配がした。

何でオールマイトの気配がするんだ? いつも会うところと全然違うのに。

そう思っているとコンビニから金髪で細身の男が出てきた。

一瞬目を、自分の力を疑った。

その細身の男からオールマイトの気配がしたからだ。

え? どういうこと??

見た目全然違うのに何でこの男からオールマイトの気配がするんだ?

しかも気配だけじゃなくて匂いまで同じ。

二つも一致しているならいくら見た目が違っていても確定だよな。

 

「オールマイト。こんなところで何してるんだ?」

「え?」

 

声を掛けると細身の男が立ち止まって振り向いた。

思いっきり驚いた顔してるな。

 

「……人違いだよ。君と私は初対面だ」

 

けどしらばっくれられた。

まぁ……それもそうか。

周りにいる人達は誰も気付いていない。

知られていないオールマイトのもう一つの姿なんだろう。

きっと今日は休日でのんびり過ごしたいんだろうし、ここは俺もそうしよう。

 

「失礼しました。知っている人に似ていたのでつい話しかけてしまいました。すみません」

 

さっさと買い物して帰るか。

今日の夕食はコロッケでも作ろう。

 

「……いや。君は全てを話してくれたのに私が話さないなんて不公平だ。ついておいでレガレクスモン」

「!」

 

その名前で呼ばれたら行かないワケにいかないな。

後をついていくと土手までやってきた。

誰もいない、人気のない場所ではあるが念のため音声を遮断する陣を展開する。

 

「これでこの中の会話は誰にも聞かれない」

「君の力は本当に素晴らしいね。やっぱりヒーローに向いているよ」

「貴方だからここまでするんだ。俺を導いてくれた恩人だからな」

「ははは。随分と懐かれたね。じゃあ話すよ」

 

そして俺はオールマイトが隠している秘密を知る。

そんな状態だったのか。

俺を助けてくれた時もかなり無理をしていたようだ。

 

「じゃあもうあまり長くヒーローは続けられないのか」

「そうだね。そう遠くない未来引退するだろう」

「そっか……。残念だな。貴方の隣でヒーローとして立ってみたかった」

 

傷も見せてもらったが、あまりにも深い傷で俺が知っている治癒魔術で治すのは無理だった。

デジタルワールドで一番治癒効果の高い“生命の水”なら治せるだろうけど、あれは滅多に手に入らないものだし何より神族が管理している聖水だから入手は不可能。

俺の恩人の一人なのに何も出来ないのが悔しいな……。

 

「その言葉だけで十分だよ。ありがとう竜治くん」

「……そういえばオールマイトはどうして俺の家族……というか父さんを気にかけてるんだ? 何かあったのか?」

 

今まで疑問に思わなかったけどやたら父さんのことを気にしてくれている。

No.1ヒーローで多忙なのに半年に一度は家に来ているくらいには。

何かがあったとしか思えない。

 

「単純に友人なのもあるけど、少し責任を感じているのもあるね」

「え?」

「ドゥーベは当時人気のヒーローでね。事件解決数もさることながら、優しく穏やかに被害者に寄り添う姿勢がとても素晴らしかった。でもあの時……ドゥーベは幼い子供を庇って敵の攻撃を受けた。私はすぐ近くにいたのに助けられなかったんだ」

「…………」

「子供は無事だった。でもドゥーベは左半身に大怪我を負って、その後遺症でヒーローを続けられなくなってしまった。平気そうにしているけどドゥーベは左目があまり見えていない上に左腕の感覚もほとんどないんだよ」

「それは初めて知った。左目の視力が落ちたのは聞いてたけど」

 

でも言われてみれば俺に触れる時必ず右手からだったな。

幸芽を抱っこする時も右手だけの時が多かった。

そっか。感覚がほとんどないからなのか。

けどそれを悟られないように振舞っているなんて父さん凄いな。

 

「更にはその後に君が……ね。だから気にかけてしまった。でももう心配はいらないかな」

「ああ。十分助けてもらったよ。俺も父さんも。だから無理しなくていい。ちゃあんと俺がヒーローになってオールマイトの分まで人を助けてやる」

 

体がそんな状態なんだ。

10年以上前のことを気にしなくてもいいように俺が立派なヒーローになればいい。

安心して余生を過ごせるならそれが恩返しになるな。

 

「そんなに深く考えなくていいよ。ただでさえ竜治くんは背負うものが多いんだから」

「多いくらいがいいさ。俺はそれだけ業が深いんだ。これくらい背負わないとヒーローにはなれない」

「…………」

「それに父さんが言ってた。ヒーローは余計なお世話だって言われるくらいお人好しなのが丁度いいって。だから気にするな」

 

あの日から父さんはヒーローの心得を俺に教えてくれる。

俺が知らなかったことを沢山教えてくれるからめっちゃためになってる。

実践出来るか怪しいところもあるけど。

 

「強くなったね。雄英に行きたくない理由が可愛らしい子とは思えないな」

「……それ言ったの絶対父さんだろ。今夜の夕飯はトマトのフルコースで決まりだ」

「わー、トマト嫌いなドゥーベ泣いちゃう」

 

帰り際に治癒魔術をかけてみたけどやっぱり駄目だった。

けど少し体が軽くなったと言っていたからやらないよりマシだったかな。

 

「えー! 何で……どうして全部トマト料理なの!? ちょっと竜治ー!!」

「トマトパスタにトマトスープ。トマトたっぷりのサラダにトマトの卵炒め。駄目押しミニトマトのコンポート。お父さん竜治に何かした?」

「何もしてないよー!! 嫌だ! 僕食べたくない!!」

「お父さん好き嫌いしたら駄目だよ。ちゃんと食べて」

「うぐっ……た、食べるよ。頑張って食べます」

「で? お父さん何したの?」

「家族以外に知られたくないこと恩人にバラした」

「あら、それは駄目ね。お仕置きはしっかり受けなさい」

「こ……これはトマトじゃないこれはトマトじゃないこれはトマトじゃない」

「呪文かよ」

 

 

 

 

 

あっという間に季節が過ぎて気が付けば試験当日。

俺と人使は試験会場である雄英高校にやってきた。

が……。

 

「「でっか……」」

 

TVで見た以上にデカいな。

本当に高校かこれ……。

 

「き、緊張するな」

「そうだな。流石の俺も緊張する。とりあえず中入ろうぜ」

「ああ」

 

中に入る道中に俺達以上に緊張している緑色の髪の奴ややたら口の悪い奴がいた。

色々いるなー。それ見てるだけでも緊張解れる。

 

《今日は俺のライブへようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!》

「誰?」

「ボイスヒーロー『プレゼントマイク』だ。知らないのか?」

「これまでヒーローに興味なかったし、ヒーローになるって決めた後もほぼ勉強と特訓しかしてなかったからな」

 

だから知らない奴のほうが多い。

流石に調べた方がいいか。

それはそれとして……。

 

「これ落ちたんじゃね?」

「……落ちたかもしれない。対人なら良かったんだけどロボット相手じゃ俺の個性無意味だし」

 

まさかの試験内容が仮想敵を倒すって……。

これ人使みたいな個性持ってる受験生圧倒的不利じゃねぇか。

対人なら死ぬほど鍛えたんだけどこれは想定外だ。

しかも会場が違うから俺がサポートすることも出来ねぇし、どうしようこれ。

 

「やるだけやってみる。折角お前が鍛えてくれたんだから無駄にしたくない」

「ごめんな。頑張れしか言えなくて」

「例え落ちて普通科になっても這い上がれるチャンスがある。気にするな」

 

自分に不利な実技試験である可能性も考慮して人使は普通科も受験している。

人使は頭も良いし普通科なら楽勝だ。

けど人使みたいな役に立つ個性を持つ奴が合格出来ない試験ってどうなんだ?

今考えてもしょうがないか。試験に集中しよう。

 

「試験会場広すぎだろ……」

 

やってきた演習場が広すぎて逆にビビるわ。

何これ街じゃん。

どれだけの施設があるんだ雄英は。

 

《ハイスタートー!》

 

その声が聞こえた瞬間俺は駆け出す。

カチカチと喉を鳴らして反響定位を使い仮想敵の位置を把握。

ズドモンの角をもぎ取って作った剣を出して仮想敵を真っ二つにする。

 

――バキャアアアッ!

 

真っ二つになった仮想敵が崩れ落ちる。

まずは一体。

……あれ? 誰もいない?

スタートって言ったの俺の聞き間違いか?

 

《どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?》

 

あ、良かった。フライングしてしまったのかと思った。

じゃあ他の仮想敵もやっちまおう。

他の受験生を邪魔しないように奥から仮想敵を倒していく。

思いの外脆いな。剣だけで十分そうだ。

 

「きゃあ!」

 

と、仮想敵に吹っ飛ばされたのか受験生が転がって来た。

足を挫いてる。これじゃ歩くのは無理だ。

 

「大丈夫か? 入り口まで運んでやるからしっかり掴まってろ」

「え? わぁ!」

 

試験だし万が一に備えてヒーローが何処かに待機しているとは思うが、いつ来るか分かんねぇもんを待ってたら更に怪我を負ってしまう。

受験生を背負うと脚に本来の姿の身体能力を上乗せして安全な場所まで一気に運ぶ。

 

「ひ、ひー! 速い速い!」

「口閉じてろ。舌嚙むぞ」

 

入り口に到着すると怪我をした受験生を下して演習場に戻る。

あそこなら誰かが治療してくれるだろ。

獲得ポイントを数えながら仮想敵を倒す。

怪我をした人を見つけたら安全な場所まで運ぶ。

どんな状況でも人を助けられなければヒーローじゃないからな。

例え試験でもそれは怠らない。むしろそれが癖になるくらいならないと。

そんなことを考えているとついにそれが現れた。

 

「ほう、これが0Pのお邪魔虫か」

 

明らかにこれまでの仮想敵と違うな。思ってたよりデカい。

これは他の受験生には脅威だろう。

実際皆我先にと逃げている。

0Pだから倒す意味もないし、普通なら逃げるのが正解だ。

 

「けどやりがいがあるな」

 

仮想敵が脆かったからちょっと物足りなかったんだ。

お前はどうかな?

その前に逃げ遅れた人がいないか確認するため走る。

残り時間は僅か。さっさと動けなくなっている人を運ぶ。

 

「よし、これでいい」

 

反響定位を使って再確認したが人の反応はない。

じゃあ遠慮なくやってやるぜ。

俺は建物の陰に隠れると服を脱いで本来の姿になる。

 

「「「「ええええええええええ!!??」」」」

 

レガレクスモンの姿を見た何人かが驚愕の声を上げた。

大丈夫。これ個性だから(大嘘)

 

「あー……やっぱり100%の力だと締め付けられるような感覚がなくて楽だぜ」

 

10分しか本気を出せないのは本当にしんどいな。

悪いがストレス発散に付き合って貰うぜお邪魔虫さん。

【リアクターディスチャージ】を使おうかと思ったんだが威力が高すぎて他の人を巻き込んでしまうな。

なら使うのはこっちだ。

電気を剣に集中させ、稲妻の速度で駆けて相手を貫く。

 

「【ブリューナストライク】」

 

――ガアアォォォオオン!!

 

雷鳴が轟くと同時にお邪魔虫が粉々になって崩れ落ちた。

陸上ではそこまで速く動けないんだがこの技を使う時は別だ。

連発は出来ないが避けられる奴はまずいない。

 

《終了~!!!!》

 

と、ここで丁度試験時間が終わった。

ギリギリ間に合ったな。得点にはならねぇがやっぱ時間内に倒すのは気分がいいぜ。

終わったのでまた隠れて人の姿に戻り服を着る。

 

「(しかし一々服脱ぐのは手間だな。でも自分の金で買った服じゃないから破きたくない。変身前提のコスチュームとか作れたらいいんだけど)」

 

入り口に向かい歩を進める。

試験終わったし人使と合流してかーえろっと。

 

 

 

 

 

 

一週間後。

そろそろ合否通知が来る頃なんだが……。

 

「どうかな? どうかな?」

「お兄ちゃんならぜったい合格してるから大丈夫だよ!」

「おっと幸芽が一番信じてるか。そうだよねお兄ちゃんだもんね」

「……何で俺より父さん達が緊張してるんだよ」

 

筆記は自己採点でもほぼ満点だったし、実技のほうも点数を数えながら仮想敵を倒していたので問題ない……ハズ。

でも実際どうかな?

俺も思ったより緊張してるみたいだ。

 

「竜治! 来てた、来てたわよ!」

 

ちょっとドキドキしながら待っていると母さんが雄英から届いた合否通知を持ってリビングにやってきた。

受け取ると、妙に分厚いことに気が付いた。

 

「紙……にしては硬いな」

「とりあえず開けてみよう。何か重要な書類が入っているのかもだし」

「ああ」

 

そして開けると中から小さな機械が出てきた。

何これ?

 

《私が投映された!!》

「え!? オールマイト!?」

 

何とその機会からオールマイトが映し出された。

どういうこと!? そもそも何でオールマイトが!?

 

《何故私が投映されたのか疑問に思っているだろう。答えは単純明快。雄英に勤めることになったからなのさ》

「まさかオールマイトが教鞭を取ると!? 凄いな!」

 

つまりオールマイトから直に教えて貰えるってこと?

は? 何それ……めっちゃ羨ましいんだけど。

 

《そして君の合否の結果だけど、筆記はほぼ満点! 実技はというと……実は試験で見ていたのは敵Pだけではない。審査制の救助活動P! 君は仮想敵をただ倒すだけではなく積極的に救助活動をしていた。ヒーローの卵に相応しい活躍だった。敵P52、救助活動P100! 文句なしの1位合格だ!!》

 

良かった。受かった。

これでヒーローへの第一歩を踏み出せる。

……後ろで馬鹿騒ぎしている両親をしり目にまだ続いている映像を見る。

 

《しかし他の受験生とあまりに実力差があるため、君には特例枠という形で雄英に通ってもらう。まぁ君の生い立ちを考えれば他の生徒と実力に差があるのは当たり前なんだけどね。でもそれに驕る君ではないことも知っている。新しく出来るであろう友や仲間と日々精進してくれ! 来いよ竜治くん! 雄英が君のヒーローアカデミアだ!》

「え゛!?」

 

そこで映像が終わった。

特例枠?

そうなるとは思わなかった。

少し加減するべきだったかな?

でもそれはそれで他の受験生に悪いしなぁ……。

 

「凄いじゃないか! 1位合格だけじゃなくて特例枠なんて! 流石我が息子だ!」

「嬉しいけど……ちょっと俺には荷が重くないか?」

「何言ってるの。それだけ竜治の実力をちゃんと見てくれてるってことじゃない。お母さん誇らしいわ」

「うん! お兄ちゃん凄い!」

 

自分のことのように喜ぶ家族全員からぎゅーっと抱き締められた。

俺も嬉しい。

友達が出来るかは分かんないけど、何とかなると信じよう。

俺に一番必要なのってそれだろうからな。

 

「お祝いに今日は竜治が好きなもの作るわよ! 何がいい?」

「……じゃあピーマンの肉詰めが食べたい」

「OK! 張り切って作るわね!」

「僕はケーキ買ってくるよ。幸芽も来るかい?」

「行く!」

 

相変わらず騒がしいな。

そういうところが好きなんだけど。

と、その様子を眺めていたら人使から連絡が来た。

 

《もしもし。結果どうだった?》

「ヒーロー科受かった。しかも特例枠だって。ちょっとやりすぎたかも」

《ああ、本来の姿で0Pの仮想敵倒したって言ってたもんな。やっぱり凄いな。おめでとう竜治》

「ありがとう。人使はどうだった?」

《俺は……やっぱり駄目だった。普通科は受かったけど》

「普通科に受かっただけでも凄いって。おめでとう人使。また鍛えてやるからお前もヒーロー科来いよ」

《勿論だ。絶対お前と並び立ってやる》

「ああ、楽しみにしてるよ。じゃあまたな」

 

ピッと通話を切る。

実技試験の内容が対人だったら人使は間違いなく受かってるんだけどな。

けどまだチャンスはある。焦らず鍛えてやるとしよう。

でもヒーローになったらああいう敵を相手にする可能性も十分あるから何かしら武器を使えた方がいいかもしれない。

TV見てるとかなり大柄の敵がいたりするから素手で挑むのは危険だ。

けど俺だと剣しか教えられないんだよな。

人使の体格や個性を考えたら剣は相性が悪い。

他にいい武器ないかな?

これも後々調べておこう。

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「救助P0で2位とはなあ!! 『1P』『2P』(仮想ヴィラン)は標的を補足して近寄ってくる。後半他が鈍っていく中派手な“個性”で迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」

「しかし1位の子が圧倒的だろ。仮想敵の位置をどうやってか知らねえが正確に探知して倒してたぜ。怪我をした受験生を見つけたら迷わず安全な場所まで運んでるし、戦い慣れてるって感じがしたな」

「オマケにあの姿。一体どんな個性なんだ? アレを粉々にぶっ壊した技も肉眼じゃ全く見えなかった。超スーパースロー映像で見ても恐ろしい速度で動いたことしか分からん」

「直前に電気溜めてたしまさに雷の速度だったんじゃね? その前にお邪魔虫ブッ飛ばしてた奴も凄かったけど、こいつはそれ以上だ。思わずYEAH!って言っちまったからなー」

「だけど他の生徒と実力差がありすぎます。彼を入れるとなると他の優秀な生徒が入れません」

「そうだね。ということで今回は特例枠として彼を入れようと思う。人数が一人増えてしまうけど、担任は君に任せるよ」

「俺ですか?」

「そう。実は彼個性が発現したのがここ1年くらいで初めて個性が発現した時に暴走しているそうなんだ。でも君なら彼がまた暴走してしまった時止められる」

「……そういうことでしたら」

「は!? 個性発現して1年!? しかも暴走してるとか……でもあの力が突然発現したら誰でも暴走するか」

「我々も気を付けなければいけませんね」

「いやー、今年の1年は粒ぞろいだね。どう成長するのか楽しみだ」


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