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竜帝の伝説×DIGIMON STORY②

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いやー本編が今暗いから明るくしようと迷走した結果遅くなりました。

申し訳ないユキサーン・マークサードさん…

 

と、いうわけで久々のコラボ回です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

静か~に起こるディーヴァさん

ある意味アルフォースより恐ろしいw

 

ユキサーンさん

何か至らないところがありましたら遠慮なく言って下さいね

 

 


【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第7話~交渉~

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本当は漫画で描きたいんだけど時間が…

ということで小説にしています。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「ではゼフィラはアローラ地方の出身で、ノワルーナはシンオウ地方の出身なのですか。」

 

「うん、そうだよ。」

 

「ノワルーナはどのようにしてゼフィラと知り合ったのですか?」

 

霧の山脈から脱して街まで行く道中、ひたすらゼフィラとノワルーナのことについて聞いていました。

ゼフィラのことも知りたかったし、ノワルーナがゼフィラと共にいる理由も知りたかったしで結構質問攻めのようになってしまいましたけど、二人とも嫌な顔をせずに答えてくれました。

 

「僕は元々孤児なんだ。ゼフィラが育ててくれたんだよ。」

 

「と、いうことはゼフィラは…」

 

「うん、親代わり。僕にとってゼフィラはお父さんだよ。」

 

「…別に俺はお前の父親じゃない。」

 

ノワルーナの言葉にあまりにも素っ気ない感じでゼフィラが言いました。

照れている感じではなさそうですね。

なんだか無関心のような気がします。

 

「ノワルーナは何歳なのですか? 私は今年15歳です。」

 

「僕は5歳。」

 

「え、5歳!? 5歳でもう最終進化しているんですか!?」

 

一般的にポケモンは10歳で大人と言われます。

10歳になる前は学校に通ったりするのでレベル上げはあまりしません。

私は調査団に入ったのでその例外ではありますが、それにしても5歳とは…普通ならまだ子供の年齢なのに。

 

「ちょっと事情があって、早く強くならないといけなかったんだ。ゼフィラに厳しく鍛えられたよ。」

 

「そ、そうなんですか。ちなみにゼフィラは何歳ですか?」

 

「俺はにひゃ……あ、いや…に、25…25だ。」

 

「…? 何故言い淀んだのですか?」

 

「あー…あんまり自分の歳に興味がないから正確に覚えてないんだ。でも大体それくらいの年齢。」

 

「自分の歳に興味がないって団長やリザードンみたいですね。」

 

団長は誤魔化されるが正しいですけど、リザードンはいくつか不明なんですよね。

確か昔「多分60~70くらい」と言われたことがありますね。

ドラゴン種は長命なことが多いので、自分の歳を忘れることがよくあるそうです。

 

「ではゼフィラはヒラガ文字があそこまで読めるようになるまでにどれくらいかかりましたか? 私はヒラガ文字を学んで3年になるんですけど、まだ参考書がないとまともに読めなくて…」

 

「10年くらいかかったな。それでもたまに読めない字があったりするけど…」

 

「じゅ…10年…ですか…」

 

それくらい学ばなければスラスラ読めるようにならないんですね。

分かってはいましたけど軽く絶望です。

10年だなんて…私なんてひよっこもいいところです。

しかし! だからこその貴重な逸材です!

 

「あの…ゼフィラ。」

 

「なんだ?」

 

「実はエンシェント調査団はヒラガ文字が読めるポケモンを探していたんです。先ほども言いましたけど調査団のメンバーも誰一人としてヒラガ文字をまともに読めるポケモンはいません。ですので、こちらはゼフィラの要望する条件に添うようにしますのでエンシェント調査団に入っていただけませんか?」

 

それはカネレ団長からも常々言われていたことでした。

もしヒラガ文字が読めるポケモンを見つけたらどんな条件でもいいから入団させろ、と。

学ぶのに10年もかかるのなら1から育てるよりすでに読める人材を雇うほうが効率的だということですよね。

ヒラガ文字は本当に難しいですから。

 

「断る。」

 

「え?」

 

しかしゼフィラは即刻拒否しました。

それはもう迷いの「ま」の字もないほどに…

 

「な、何故ですか? ゼフィラは旅のポケモンだと知っていますけど、旅にもポケ(この世界のお金)が必要ですし、本当にゼフィラが提示する条件にするので少しは検討していただいても…」

 

「俺は誰かと関わるつもりはない。悪いが他を当たれ。」

 

「しかしゼフィラほどヒラガ文字を読めるポケモンに会ったことはありません。一時的にでもいいですから…」

 

「どんな条件であろうが入団するつもりはない。」

 

その後私がどんな条件を提示してもゼフィラは決して首を縦に振りませんでした。

何故そこまで拒否するのでしょうか?

貴重な逸材だからぜひともエンシェント調査団に入っていただきたいのですが、ここまで拒絶するのだからもう私の方が折れるしかありません。

 

「分かりました。無理なことを言って申し訳ありません。」

 

はぁー、っと思わず大きな溜息をついてしまいました。

カネレ団長が聞いたらきっと悔しがるでしょう。

でもあそこまで嫌がるのに無理をさせるワケにはいきません。

 

「……ではゼフィラ。せめて私にヒラガ文字を教えていただけませんか?」

 

「お前に?」

 

「はい、今のところ私が一番ヒラガ文字が読めるので…。あ、勿論無理にとは言いません! 時間や場所の指定もそちらに合わせますので、どうか教えるだけでも…」

 

完全に妥協案であります。

本当は、本当はゼフィラが調査団に入って下さるのが一番いいに決まっています。

でもそれが叶わないのならもう教えて貰うしかない!

断じてゼフィラの側にいたいからではない。

絶対にない!

 

…あ、でもそれも少しあるかも…

 

「………まぁ、教えるくらいならいいぞ。俺で良ければ。」

 

「ほ、本当ですか!? ていうかゼフィラじゃないと教師は務まらないですよ。」

 

「…それもそうか。じゃあ俺からも一つ条件を出して良いか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「調査団でまだ解読が進んでいないヒラガ文字があったら俺に解読させて欲しい。分類は問わない。それを解読しながらお前にヒラガ文字を教える。それでどうだ?」

 

「……それはこちらにとって願ってもいない条件なんですけど…」

 

ゼフィラが「そうか?」ときょとんとして顔で私を見ています。

ななななな…なんですか、その可愛い表情は!

さっきまでキリッとして強面な感じだったのにギャップがヤバいです。

やっとこのおんぶシチュエーションに慣れてきていたのに鼓動が大変なことに…!!

 

「ゼフィラって歳くってるのに変なところで抜けているよね。」

 

「歳くってるって言うな。それよりどうなんだウィル。」

 

「は…はい! それで、それでいいです!」

 

教わりながらヒラガ文字が解読できるという願っていもいない好条件です!

これならカネレ団長もNOとは言わないでしょう。

今はこの足の怪我を治すことに専念しなければいけませんが、治ったら早速準備しなくては!

 

「ありがとうございますゼフィラ。ワガママを言ってしまって申し訳ありません。」

 

「別にいいよ教えるくらい。それよりも調査団に着くぞ、誰かいるのか?」

 

「えーっと…あ、リザードンがいますね。彼なら私を抱きかかえられます。」

 

波導で調査団の建物の中に誰がいるのか調べるとリザードンとニャオニクス、サメハダーがいました。

ですが、ニャオニクスは動けない私を運ぶことは不可能ですし、サメハダーは言わずもがな。

リザードンしか適任がいませんね。

 

「リザードン! 来てくれますか?」

 

調査団の建物に入ると大声でリザードンを呼びました。

勿論耳が良いゼフィラには耳を塞いで貰っています。

耳が良いポケモンには大声なんてうるさくて仕方ありませんからね。

 

「ん~? なんだウィル。随分と遅かったな。ちゃんと攻略でき……! おい、どうしたんだ!?」

 

二階から降りてきたリザードンが私の姿を見て目を見開いて驚いていました。

……この反応は当然ですよね

リザードンからしたら見知らぬポケモンに重症の仲間が担がれているのですから。

 

「ダンジョンで怪我をして倒れているのを偶然見つけたんだ。応急処置はしてあるけど、ちゃんと医者に診て貰った方が良い。」

 

「そうなのか、ありがとう! 仲間を助けてくれて感謝するぜ。」

 

ゼフィラは少し屈んでリザードンが私を抱えやすいようにします。

そしてゼフィラの背中からリザードンの腕の中に移動。

ああ、…もう少しゼフィラに接していたかった。

さっきまで身近に感じていたあの優しくて綺麗な黄金の波導が離れていく…。

 

「じゃあな、ウィル。怪我が治ったら連絡しろよ。俺は図書館の近くにある宿に泊まってるからな。」

 

「はい、ありがとうございましたゼフィラ」

 

「またねーウィル」

 

ゼフィラとノワルーナが薄暗くなった街へと消えていきました。

気付かないうちに「ゼフィラ…」と口から彼の名前が零れていました。

 

「……おい、ウィル。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「お前さーもしかして…いや違う、これは確定だな。ウィルあのガオガエンのこと好きなんだな。」

 

「はい!?」

 

ええ!? な、なんで…いつ分かったんですか!?

しかも予想じゃなくて確信じゃないですか!

リザードン、ゼフィラと会ってから5分も経っていないのに…。

 

「なんで分かったのか理解不能って感じの顔だな。お前俺をなめんなよ。お前よりはずーっと長く生きてるぜ? こーんな性分だけど、今の番(つがい)とはこれでも大恋愛の末に結婚してるしなー。それにウィルの表情分かりやすいし、気付くに決まってるだろ。」

 

「あわわわわわわ…」

 

やっぱり分かりやすいようですね私。

こんな短時間でバレてしまうなんて…。

というかリザードン経験豊富なせいか察しがいいですし、隠すだけ無駄なようです。

 

「えーっと…カネレ団長には内緒にしておいて下さい! 確かに好き…ですけど諦めようと思っていましたから…。」

 

「あ、なんで? もう振られたのか?」

 

「いいえ、違います。でも会ったのは3日前ですし、それに彼は旅のポケモンですから…。」

 

「そんなこと気にしないで言えば良いだろ? 俺なんてオノノクスと最初に会った頃、敵と間違われて殺されそうになったしな。それに比べれば全然余裕じゃねーか!」

 

「…そういえばそんなこと言ってましたね。」

 

「おっと、それよりもウィルの治療先にしないとな。今ニャオニクスに呼んで貰うからもうちょっと待ってろよ。」

 

「はい」

 

リザードンにはバレてしまいましたけど、団長にバレていないだけマシでしょう。

隠せる自信がもうなくなっていますので、皆さんにバレるのも時間の問題だと思いますが。

早く怪我を治してゼフィラに会いに行かなければ…!

 

 

 

 

 

「ゼフィラ」

 

「なんだ?」

 

「別に調査団に入っても良かったんじゃない? 調査団にいれば色んな情報が手に入るでしょ?」

 

宿に向かうゼフィラとノワルーナが夕暮れの街を歩く。

辺りに誰もいないのを確認してノワルーナが口を開いた。

 

「一応考えたさ。でも万が一のことがある。巻き込むわけにはいかない。」

 

「それでもさ、時間がないなら尚更だよ。ゼフィラは…」

 

「分かってるよ。けど巻き込んでしまった場合、守り切れる自信が今の俺にはない。」

 

「力が衰えているワケでは無いでしょ?」

 

「そうだけど…」

 

頭を抱えながらふと横に目をやるとガラス窓に自分の姿が映った。

あの紫色の瞳が目に入る。

 

「あぁ…気持ち悪い目の色だ…」

 

忌々しい目の色。

思わず低い唸り声を上げる。

胸の奥にドス黒くグチャグチャした感情がわき上がる。

今ここにウィルがいたらこの醜い感情にすぐに気付いただろう。

 

『紫水晶のようで綺麗だと私は思いました。』

 

ウィルのことを考えた瞬間、あの時言われたことを思い出した。

実はこの目の色を綺麗だと言ったのはウィルが初めてだった。

今まであまり積極的にポケモンと関わってこなかったが、そんなこと言ったポケモンはいない。

 

「(でも知ったらきっと綺麗だなんて言ってくれないよな…)」

 

彼女は気性が素直なポケモンだ。

だから思ったことをそのまま口にしたんだろう。

そう考えたらさっきまであったドス黒い感情が自然と消えていった。

 

「変なの…。もうこの心は何も感じないのに…。」

 

「え? なんだって?」

 

「……なんでもねーよ。」

 

今はこんなことを考えている場合ではない。

ただでさえ時間がないのだ。本当なら寝る間も惜しい。

 

「(後どれくらい保つかなぁ…)」

 

残された時間のことを考えながら彼は夕闇に染まる空を見上げた。

 

 

◇◆◇

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第8話~ガオガエンというポケモン~

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エンシェント調査団のメンバーで既婚者は…

なんとアシレーヌとジュカイン、ズルズキン以外全員である。

色んなポケモンと会う機会が多いのでむしろ結婚していないほうが珍しい。

 

ていうかウィルとズルズキン以外皆20歳超えてます。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

霧の山脈の一件から2週間。

ようやく動けるまでに回復しました。

やはりというべきかゼフィラの応急処置は適切だったようで、医者のランクルスも驚いていました。

まだ傷跡は残っていますが、これくらい大したことありません。

痛みもありませんし、全快と言っても差し支えないでしょう。

しかしカネレ団長からはもう1週間は休んでいなさいと言われています。

かなり重い怪我だったためですが、団長も心配性ですね。

でもお言葉に甘えて休ませていただくことにします。

 

さて、休んではいますが動くことは問題なく出来ますので、やれることはやろうと思います。

それはゼフィラが教師の勉強会です。

やっと行くことが出来ます!

もう2週間ゼフィラと会っていないので早く治らないか、早く治らないかとずーっと待っていました。

あ、勉強は真面目にしますよ。

だって授業内容が鬼のように難しいヒラガ文字ですからね。

これから団長にそのことを話に行きます。

なんだかんだで団長も忙しいのでこの2週間まともに顔を合わせていません。

 

「カネレ団長、入ってもいいですか?」

 

団長の部屋の前まで行き、団長に声を掛けます。

「どうぞ~」という声が聞こえたので部屋の中へ入ると団長とランターンがいました。

 

「ウィルいらっしゃい。もう大分良さそうね。」

 

「はい、お陰様で。まだ少し突っ張るような感覚はありますけど、歩くのには問題ありません。」

 

「元気そうで良かった! ウィルがヘマするなんて珍しいから心配したよ~。」

 

「すみません、ランターン。」

 

「それで用件は何?」

 

「はい、実は外出の許可を頂きたいのです。」

 

私は霧の山脈で起こったことを改めて団長に話しました。

そしてヒラガ文字がほぼ完璧に読めるポケモンに会い、怪我が治ったらヒラガ文字を教えて貰えることになっていることも伝えました。

 

「へぇ~そのポケモンヒラガ文字が読めるんだ。凄いね。」

 

「はい、私もあんなにスラスラ読める方は初めてお会いしました。」

 

「うーん、入団して貰えないのは残念だけど、そこまで拒否するなら仕方ないわね。でも教えて貰えて、しかも今まで溜まっているヒラガ文字も解読してくれるのなら助かるわ。頑張ってきなさいウィル。」

 

「ありがとうございます!」


良かった、無事に許可を貰えました。
ゼフィラのようにスラスラ読めるまでにはならないかもしれませんが、精一杯やらなければ!

「それで、そのゼフィラ君ってどんなポケモンなの?」

「あ、そういえば言ってませんでしたね。ゼフィラはガオガエンです。」

 

「は?」
「えぇ!?」
「え?」

な、なんでしょうこの反応は…。
ゼフィラの種族名を聞いた途端、カネレ団長とランターンは目をこれでもかというくらい大きく開けて停止してしまいました。
ガオガエンがどうかしたのでしょうか?

「…本当にガオガエンなの? 間違いなく?」

「はい、自己紹介の時にちゃんとそう言っていましたけど…」

「あ、あり得なくない? ガオガエンがそんな学あるなんて僕信じられないんだけど…」

カネレ団長もランターンが本当に信じられない話を聞いている感じで問い掛けてきました。
確かに言われてみればパッと見、勉学に長けているようには思えませんが、それにしては二人とも驚きすぎじゃないでしょうか?

「ウィルはガオガエンに会ったのは初めて?」

「はい、初めてです。」

「じゃあ、知らないのも無理ないわね。あのねウィル、ガオガエンはね…」

「ガオガエンは?」

「粗暴で身勝手でワガママで! 大事な事でさえ、気分が乗らなければ平気でそれを放置しちゃうTHE悪タイプって感じのポケモンなのよ!!」

「は…はい!?」

カネレ団長、熱弁である。
いや、それよりも今度は私のほうが耳を疑いました。

「そ、それがガオガエン本来の性質なんですか?」

「そうだよ。幼いポケモンには優しいみたいだけど、正直僕はあんまり関わりたくないね。それくらい気性も荒いポケモンなんだ。」

 

驚きのあまり目が点になってしまいました。
カネレ団長とランターンが嘘を言うハズありませんので、二人が言っているのがガオガエンの本性ということで間違いないと頭では分かっているのですが、心が納得いっていません。
ゼフィラからはそのガオガエンの本性というものを一切感じられませんでしたので余計。
 
「ちなみに初対面の時ってどうだったの?」
 
「初めてゼフィラとお会いした時は、その…ゼフィラは黄金の波導を持っているんです。」
 
「え? 黄金の波導って前にウィルが言っていた英雄や勇者とかが持つ伝説の波導じゃなかったっけ?」
 
「はい。それで私はその波導に見とれてしまい、ゼフィラに不用意に近付いてしまいました。後ろから近付いてしまったので、ゼフィラは私を不審者だと思って自分の射程に入った瞬間に私をねじ伏せたんです。あ、ねじ伏せたと言っても怪我しないようにですからご安心を。」
 
2週間前のことなのに前日のことのように思い出されるゼフィラと初めて会った時の事。
紫色の瞳も逞しい体も何度見ても美しい。
外出の許可も貰えたことですし、早く会いに行きたいです。
 
「あれぇ? ダンチョー、この反応って…」
 
「……ねぇウィル、貴方にとってゼフィラ君ってどんなポケモン?」
 
「そうですね。強面でし少しキツい印象もありますが、それ以上に気高くて優しい方で……あっ……」
 
ハッと気が付いたのですが時すでに遅し。
二人は確信した! という顔で私を見ていました。
 
「…赤いポケモン、強いオーラ。強いオーラって黄金の波導のことだったのね。サーナイトが言ってたことと一致してるわ。」
 
「あ…あの…カネレ団長。私は……」
 
「ウィルーーーー!!! 運命のポケモンに会ったら教えてって言ったでしょーーーーー!!!」
 
カネレ団長が私の両肩を掴んで力任せに揺さぶってきます。
アシレーヌの攻撃力は低いですが、カネレ団長のレベルは97。
マックスに近いので、いくら素の攻撃力が低くてもこれだけレベルが高ければ関係無しです。
私のレベルまだ37なので、かなり痛い…。
 
「ダンチョー、あんまり揺さぶるとウィル死んじゃうよー。」
 
「ああ、そうね。ごめんねウィル。」
 
「い…いえ…」
 
「ていうか運命のポケモンって何? 僕そんな話知らないけど。」
 
「実はこの間サーナイトの占いして貰ったのよ。それで近いうちにウィルの運命のポケモンが現れるって出たの。だから会ったら教えなさいって耳にタコが出来るくらいに言ってたんだけど、なんで教えなかったのよ!」
 
「それは…その、自分でも信じられなくて…今まで誰かに恋心を抱いた事なんてなかったですし…」
 
「でもゼフィラのこと話してた時の表情が完全に乙女だったよ。僕は割と鈍いほうだと思うけど、すぐに分かったもん。」
 
「そ、そこまでですか!?」
 
表情が乙女って一体どんな顔していたのでしょうか?
自分では全く分かりませんが、女性らしい顔ということですかね?
というかゼフィラのこと話していただけでそうなってしまっているなんて。私ゼフィラと実際話している時どんな顔しているの…?
 
「うん、これはもうべた惚れっぽいわね。今ゼフィラ君のこと考えたでしょ?」
 
「え!? わ、分かります?」
 
「分かるわよ、真っ赤な顔してるし。これは確かめに行くしかないわね! ウィル、ゼフィラ君のところへ案内して!」
 
「えぇ!? カネレ団長も行くんですか!?」
 
「当たり前じゃない! ウィルの運命のポケモンよ、私もちゃんとこの目で確かめなくちゃ。ついでにヒラガ文字が本当に読めるのかも確かめるわよ!」
 
「僕も行くー!」
 
「…分かりました。案内します。」
 
ここは素直にカネレ団長とランターンをゼフィラの元へ案内することにしました。
嫌だと言っても無理矢理着いてきそうですし…。
ああ、でも…ゼフィラはあまり誰かと関わるつもりはないと言っていたのに、ごめんなさいゼフィラ。
 
 
 
 
「図書館にいるの?」
 
「はい、波導を辿るとどうやら図書館にいるみたいです。」
 
街をしばらく歩いてゼフィラが言っていた図書館の近くにある宿を見つけました。
しかしそこにはゼフィラもノワルーナもいなかったので、残っている波導を辿ってどこにいるのか探すことにしたのです。
すぐに図書館にいることが分かりました。
 
「……ガオガエンって本読むの?」
 
「あの…私も最初似合わないなーと思いました。」
 
確か300年前に起こったことを調べていると言ってましたね。
図書館にある300年前のことを記した歴史書は結構量がありますので2週間で読み切れるものではありません。
今図書館にいるということはまだ調べ物を終えていない証拠ですね。
波導を調べるとやはりあの時と同じく2階の歴史書のある場所にいました。
カネレ団長達と2階に上がると大量の本を近くに積み上げて調べ物をしているゼフィラが机に座っていました。
 
そして話しかけようとした瞬間、あの紫色の瞳がこちらへ視線を動かしたのが見えました。
一瞬驚きましたが、そういえばゼフィラって聴覚がいいんでしたっけ…。
 
「もう動けるのか。痛みはないのか?」
 
「はい、ゼフィラのお陰です。本当にありがとうございました。」
 
「そうか、治って良かったな。」
 
改めて礼を言うとゼフィラが綻(ほころ)んだような笑みを見せました。
その顔を見た瞬間心拍が一気に上がりました。
ゼフィラが笑った顔なんて初めて見ます。
きょとんとした顔も可愛いかったですけど、この顔には負けます。
や、ヤバい。心拍数が上がりすぎて倒れそう…。
 
「……それで、後ろにいるのは誰なんだ?」
 
「へ!? あ、はい! こちらはエンシェント調査団団長のアシレーヌと海の調査担当のランターンです。」
 
「初めまして。私はアシレーヌ、名前はカネレよ。これでも団長なの、よろしくね!」
 
「どうも、ランターンです。よろしくね。」
 
「俺はガオガエン。……名前はゼフィラだ。」
 
「早速で悪いけどゼフィラ君、試させて貰うわよ!」
 
「ん? 試すって何をだ?」
 
「当然ヒラガ文字が本当にスラスラ読めるかよ! はい、これ読んでみて!」
 
団長が取り出したのは一冊の本。
それは1年ほど前に新しく見つかったダンジョン、新緑の洞窟の調査で見つけた1000年前の書物でした。
最終フロアはまるで何かに破壊されたように建物も地面もボロボロでしたけど、頑丈な箱に入っていたこの書物だけはほとんど無傷の状態で残っていたのです。
無傷と言っても流石に1000年前の書物なので文字が残っている部分は少なかったのですが、どうやらポケモンの生体を記した本らしく、まだ五分の一しか解読が進んでいませんが、貴重な資料であることに間違いない代物です。
 
「……」
 
「どう? 表紙だけでも読める? 読めるのなら…」
 
「ポケモン…図る…鑑(かんが)みるで…あぁ! ポケモン図鑑か。」
 
「「え!?」」
 
読めた。流石ゼフィラです。
しかし表紙の文字だけで3日解読に掛かった私達って一体…。
いや、今それは考えないでおきましょう。
 
「…本当に読めるみたいね。他の部分も読める?」
 
団長がゼフィラに本を渡しました。
ゼフィラは本を受け取るとすぐに解読を始めました。
 
「これはポケモンの進化条件やレベルアップで覚える技を記した本だな。……文字が掠れていたりするから全部は解読出来ないけど。」
 
「ここはなんて書いてあるんですか?」
 
「えーっと…『トゲピーは十分懐いている状態でレベルアップすると進化する』って書いてあるな。」
 
「その一文解読するだけで私達がどれだけ苦労するとーーーーー!!」
 
カネレ団長の悲鳴のような声が聞こえてきました。
そうなりますよね。
私だって最初ゼフィラがヒラガ文字読めるって知った時そんな心境でしたから。
 
 
◇◆◇
 
 
 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第9話~勉強会~

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アシレーヌの名前『カネレ』はラテン語で『歌う』という意味です。

今回はノワルーナ視点です。



◇◆◇◆◇



「えーと…。これは一体どういう状況なの?」

ゼフィラの指示でダンジョンの探索に出ていたんだけど、戻ってきたら思わず頭を傾げることになっていた。
ゼフィラの回りに5体のポケモンが集まって何かをしていたからだ。
あれだけ他のポケモンと関わるのを避けていたのに一体何があってこういうことになってるの?
とりあえず何か話してるみたいだし、耳を澄ませて聞いてみよう。

「違う。同じ見た目だけど、これは『力(ちから)』って読むんだ。この字は『りょく』とも読むから、この字と合わせると効力って読むんだ。」

「見分けるポイントは?」

「文章から察しろ。」

「難易度高いな!? もう心折れそうなんだけど!」

「頑張れ調査団、まだ初級編だぞ。」

「これで初級とかあり得ねぇ!!」

何をしているのかと思えばヒラガ文字を教えていたのか。
リザードンとズルズキンはもう発狂しそうな勢いで頭抱えてるけど、ウィルとアシレーヌ、ランターンは必死に覚えようとメモをとってる。
けど、何がどうしてこういう事態になっているのかさっぱり分からない。
ウィルがいるのは分かるよ。怪我が治ったら教える約束だったし。
でも他のポケモンは何故?

「ノワルーナも来い。お前も簡単な部分しか読めないだろ。」

「え?!」

突然ゼフィラに声をかけられてびっくり。
…ていうか僕気配完全に隠してたのに、いつから気が付いてたの?
どういうわけか、どんなに完璧に気配隠しててもゼフィラは欺けない。
気配を完全に隠せるのはジュナイパーの種族としての特徴なのに自信なくしちゃうよ…。

「いらしたのですねノワルーナ。」

「ああ、うん。ちょっと出ていたんだけど…それより何でこんな大勢で勉強会してるの?」

「最初は私とカネレ団長、ランターンの3体だけだったのですが、途中で偶然図書館に来たズルズキンが加わり、ズルズキンがいいのだったら今日調査団の留守番しているリザードンも加わってもいいですか? って聞いたらゼフィラもいいと返事をして下さいましたので、こういうことになったのです。」

それを聞いて僕は驚きのあまり絶句した。
あれほど他のポケモンと関わることを避けていたゼフィラが「いい」と言っただって!?
にわかには信じられないけど、ゼフィラは一切嫌な顔をしていないし本当のことみたい。

「…留守番なのにリザードン来てもいいの?」

「ニャオニクスが残っているから問題ねぇよ。」


「そ、そう」

どういう心境の変化なのかゼフィラに聞きたいけど、とりあえず今は勉強会に参加しよう。
ゼフィラの役に立つためにはヒラガ文字を覚えるのが一番だしね。

「ウィル、ここはなんて読む?」

「えーと…進むにこれは…化けるという意味の字ですから、すす…いや違いますね。う~ん…」

「持っている参考書見てもいいぞ。」

「いえ、頑張ります! この字は確か…『しん』という読み方もしますよね。それでこれが………あ、『しんか』ですか?」


「正解。」

「やった!」

おお、参考書なしなのにウィル凄い!
僕は全然読めなかったよ。

「ノワルーナこれは?」

「これは『ろ』でしょ?」

「引っ掛かったな。残念、これは『くち』って読むんだ。」

ガーン!
この間教えて貰ったところなのに普通に間違えたー!

「さっきの字と同じだな。これも見分けられないから『くち』って読むの無理じゃないか?」

「そう思うかもしれないが、さっきの字と違って『ろ』と読むほうは単独では使わないし、何より字も同じように見えてちゃんと違いがある。」

そう言うとゼフィラが違いがあるところを教えてくれた。
皆もそれを見て「ああ!」と納得していた。
僕ももう間違えないぞ!


「じゃあノワルーナこれはどうだ?」

「これは『た』だ!」

「……おい、次間違えたら叩き出すぞ。」

「え!?」

あれ、何で!?
ゼフィラが静かに怒って…
はっ!
違うこれ『ゆう』って読む字じゃん!
これもこの間教えて貰ったところなのに、同じ間違え方したらそりゃ怒るよね。

しかもこの間違え方すでに4回目だし。

「ごめんなさい! 『ゆう』って読む字です!」

「…ったく、教えたばかりなのに間違えんなよ。」

「これは違いあるの?」

 

「この字は正直言うとない。若干の違いはあるけど書き手によっては一緒だ。」

 

「は? じゃあどうやって見分けるんだ?」

 

「これも文章で察するしかない。しかもどっちも基本単独では使わない字だしな。ただ『ゆう』と読む字のほうは別の文字と組み合わせて書かれることがほとんどだから、この字単体で覚えるよりは組み合わせで覚えた方が簡単だと思う。俺はそれで覚えた。」

 

「例えば?」

 

「うーん、『夕暮れ』とか『夕日』、『夕凪』とかかな。長いものだと『一朝一夕』」

 

「『一朝一夕』ってどういう意味ですか?」

 

「『ほんの少しの時間、あっという間の時間』って意味だ。」

 

「マジで…。お前意味まで完璧に理解してんのかよ、参考書とかも一切なしに…ガオガエンがこんな博識とか信じられねぇ…」

 

「お陰で他のガオガエンから貧弱とかよく言われるよ。」

 

そういえばそんなこと言われたことがあるって前に話してくれたよね。

そんな言葉吹き飛ばすくらいゼフィラは強いけど。

ゼフィラがこんなに博識なのは全部ゼフィラの努力の賜(たまもの)。

世間一般では子供の年齢な僕にはどんな苦労をしてきたのか想像出来ないよ。

 

「ではゼフィラ。これはどう覚えればいいですか?」

 

「これは…」

 

なんだかんだでゼフィラの即席『ヒラガ文字勉強会』は結局夕方まで続いた。

途中でサーナイトやドリュウズ、メガヤンマ、ムクホークが加わって更に大勢になったけど、ゼフィラはそれでも嫌な顔せずに皆にヒラガ文字を出来る限り教えていた。

 

 

 

 

「ゼフィラお疲れ様。」

 

調査団のメンバーと別れて宿に戻った時にはすでに夜になっていた。

ウィルとはまた明日同じ時間に図書館で勉強の続きをすることになった。

その時にはまた別の未解読のヒラガ文字の資料を持ってくることになったけど、それはこちらとしても有り難い。

もしかしたらゼフィラが探し求めているものが見つかるかもしれないしね。

 

「ああ、流石にちょっと疲れたな。」

 

「だよねー、あんなに大勢に教えていれば…。でもあんなことになったの?」

 

「いや、なんか成り行きで…。なんでOKしたんだろうな、俺にも良く分かんねぇ。」

 

まさかのゼフィラ自身が何故OKしたのか分からなかった!

でも嫌な顔も迷惑そうな顔もしてなかったから、満更でもなかったのかな?

 

「あ~、無駄なことした。ただでさえ時間勿体ないのに…嫌な気分とかは不思議とないけど。それよりノワルーナ、見つかったか?」

 

「ううん、霧の山脈付近で別のダンジョンは見つからなかったよ。」

 

ゼフィラの指示は霧の山脈の近くに別のダンジョンはないか探してきてくれ、というものだった。

念入りに探したんだけど見つけられなかった。

あの文章から察するにあるハズなんだけど…。

 

「役に立てなくてごめんなさい。」

 

「いや、気にしなくていい。隠されているの可能性の方が高いしな、調べ物が終わったら直接俺も探す。」

 

「……やっぱりあの辺りにいるの?」

 

「いる。ただダンジョンの奥に引っ込んでいるから正確な位置が分からない。」

 

個人的にはいないほうがいいんだけど、それだとゼフィラが困るんだよね。

ゼフィラに協力したいけど、この気持ちだけは矛盾してしまっている。

 

「…カロス地方には何体いるんだっけ?」

 

「残り5体のうち4体いる。けど2体はダンジョンの奥にいるから大雑把にしか位置がなー、しかもうち1体は更にかすかにしか感じない。カロスにいることは分かるんだけど……。やっぱり正確に居場所が分かる2体を先に片付けたほうがいいかもしれないな。」

 

「……」

 

ああ、嫌だなぁ。またこの矛盾した気持ちになる。

ゼフィラと行動を共にして5年。

その5年の間にも無茶をしているのを沢山見てきた。

その度に苦しんでのたうちまわっているもの知ってる。

本当に苦しんでいる時は絶対に僕に見せないようにしていたけど、でも分かってしまう。

 

「先に休んで良いぞ。俺はもう少し調べておく。」

 

「僕よりゼフィラのほうが疲れてるでしょ? ゼフィラのほうが…」

 

「いいから休め。俺はお前とは違う。」

 

「ち、違うのは分かってるけど、それでもちゃんと休んだ方が良いよ。いつ戦闘になるか分からないし…」

 

「うるさい。黙って休め。」

 

「…はい、父さ…あ、いやゼフィラ。」

 

うっ…未だに気を抜くと「父さん」って言いそうになる。

言いそうになるとゼフィラに凄い形相で睨まれるし…。

ゼフィラはそんなこと微塵も感じていないのは知っているけど、僕にとっては大好きな「父親」なんだよね。

 

「……いつまでも俺に付きまとってなくていいんだぞ。好きな場所見つけたらとっとと行け。」

 

「うん、分かった。」

 

それを言われる度に「分かった」と言ってるけど、僕にそのつもりは一切ない。

最後まで力になると決めたんだ。

だから終わるまで手助けさせてよ、父さん。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第10話~新たなダンジョン~

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ヤバいです。

そんなに長くするつもりはないのにもう10話…

やべぇよ、どれくらい長くなっちゃうんだろうこの小説

まだアレの名前さえ出てきてないのに…

 

ウィル視点に戻ります。

 

 

◇◆◇◆

 

 

ゼフィラにヒラガ文字を教えて貰うようになって3週間。

以前よりもヒラガ文字が読めるようになりました。

まだ参考書があったほうが安定しますけど、簡単なものならそれさえなしでいけます。

ゼフィラにも予定があるので毎日教えて貰えるワケでは無いですが、時間が許す限りゼフィラも私が理解出来るまで根気よく教えて下さるのでとても有り難いです。

そして今日もゼフィラのところへ行こうと準備をしていた時でした。

 

「やっほーウィル、久しぶりだね。」

 

「お久しぶりですジュカイン。」

 

滅多に調査団に帰ってこないジュカインが帰ってきました。

本当に滅多に帰ってきません。

一ヶ月に1回か2回か…それくらいですね。

でも帰ってくる時は必ずと言って良いほど面白い収穫をしてきます。

 

「貴方ねー。いくら通信でこっちの状況分かるからってもうちょっと頻繁に帰ってきなさいよ。心配するでしょ。」

 

「ごめんごめん。でも許してよ団長、今日もいいもの持ってきたからさ。」

 

「いいもの?」

 

「そうそう、今回は新しいダンジョン見つけてきたよ!」

 

なんと! これはまたいい情報を持ってきましたね。

新しいダンジョンなんて滅多に見つかるものではありません。

 

「ダンジョン名は【銀朱(ぎんしゅ)の洞窟】! 実はもう先に調査しちゃったんだけどね。」

 

「あら、そうなの?」

 

「でもね、最終フロアに壁画があったんだ。なんか…見たこともない変な生き物が描かれていたんだよ。」

 

「変な生き物ですか?」

 

壁画が描かれているのは大変珍しいですね。

最終フロアが古代遺跡であることは確定でしょう。

しかし変な生き物とわざわざ言うくらいですから描かれているのはポケモンではない…?

 

「どんな壁画なんですか?」

 

「えーとね。上半身は人型で下半身は獣。腕が8本、足6本、翼は6枚あって、尻尾も2本あるかーなーり異形な感じの姿が描かれた壁画だったよ。」

 

「はぁ? 何それ、生き物なの?」

 

もう絶対ポケモンではないですね。

そんな姿のポケモン見たことも聞いたことも無い。

腕が千本だったら創造主アルセウスのことだと思うのですが、絶対に当てはまりません。

 

「正直僕も生き物よりは化け物の絵だと思ったよ。けどその壁画に解説みたいな感じでヒラガ文字も書かれていたんだ。」

 

「え? ということはその壁画は1000年前のものということですか?」

 

「だろうね。僕ヒラガ文字ほとんど読めないから全然解読出来なかったけど、多分その生き物に関する事が書かれているんだと思うんだよね。だからウィル、【銀朱の洞窟】に行ってみない? ニャオニクスから聞いたんだけど今ウィル調査団で一番ヒラガ文字読めるんでしょ?」

 

確かにヒラガ文字が書かれているなら私が適任ですね。

今はゼフィラのお陰で以前より遙かに読むことが出来ますし、何より何処まで一人で解読出来るようになったのか知りたい。

 

「カネレ団長」

 

「そうね。ジュカイン、その【銀朱の洞窟】の攻略難易度はどれくらい?」

 

「高くないよ。ダンジョンに出てくる敵ポケモンもそこまで強くないし、階層も18階だからウィルの実力なら簡単だと思う。」

 

「最終フロアにボスポケモンは?」

 

「いなかったよ。」

 

「じゃあ決まりね。ウィル、今日は準備して明日出発しなさい。」

 

「分かりました。ジュカイン場所はどこですか?」

 

「霧の山脈の近くだよ。安心して、ダンジョンの場所まで案内するから。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

 

 

さて、【銀朱の洞窟】に行くことが決まりましたが、それを伝えなければいけないポケモンがいます。

準備をする前に彼に会いに行かなくてはいけません。

早速いつも彼がいる図書館に行きます。

 

「お待たせしました、ゼフィラ。」

 

「ん、今日は随分と早いな。」

 

そう、ゼフィラです。

一応事前に急に依頼や救助が入ることがあるから、約束していても来られないことがあると伝えてはあるのですが、今回は少し余裕があるので伝えることにしました。

 

「実は新しく見つかったダンジョンの探索に明日行くことになったので、今のうちに言っておこうと思いまして。」

 

「そうなのか。でも調査団としての仕事なんだし、わざわざ言いに来なくてもいいぞ。前にもそう言ってたんだしな。」

 

それはそうなのですが、ただ単純に私がゼフィラに会いたかっただけという理由もあります。

最近はほぼ毎日のように会っていましたので、明日は会うことが出来ないだろうと思うと寂しいのです。


「でもゼフィラには最近お世話になりっぱなしですから、それに約束していたのに破ることは私には出来ません。」

「真面目だなぁ。じゃあ受け取っておくよ。」

良かった、ちゃんと受け取ってくれました。
ゼフィラ時折酷く無関心になることがあるんですよね。
話してても急に素っ気なくなったりして、何か気に入らないことを言ってしまったのではないかと不安になります。

「ありがとうございます。ゼフィラ、頑張って来ますね!」

「ウィル一人で行くのか?」

「はい、よほどダンジョンの難易度が高くない限りは私一人で行きます。それがどうかしましたか?」

「いや、聞いただけだ。気を付けて行けよ。」

そう言うとゼフィラが優しく微笑みました。
か、可愛い…。
ゼフィラはあまり感情が表に出ないから笑うことはほとんどありません。
実際3週間勉強のためにゼフィラの元に通っていましたが、笑ったところを見たのはほんの数回。
だからこそ稀に見せる笑みの破壊力がヤバい!
あ、あまりにも可愛くてまたしても心拍数が…。

「…大丈夫か? なんか顔赤いけど、熱あるんじゃないか?」

「え!?」

私の顔が赤いことに気が付いたゼフィラが熱を計るために私の額に手を当てました。
急だったため咄嗟の反応が出来ず硬直するしかありませんでした。

「う~ん、駄目だな。俺のほうが体温高いから熱があるか分からん。」

「あ…へ? いや、その…」

「でも体調が悪いなら無理しないほうがいい。初めて行くダンジョンなら尚更だぞ。」

「…いや、顔が赤いのはゼフィラのせいだよ。」

 

その声で我に返り、振り返るとノワルーナが立っていました。
なんだか呆れたような顔で私達を見ています。
 
「なんで俺のせいなんだよ。」
 
「分かる人が見れば分かるよ。全く、しょうがないな~ゼフィラは。」
 
「…あの…いつからいたんですか? ノワルーナ。」
 
「最初からいたけど?」
 
まさかの最初からいたノワルーナ。
と、いうことはここまでの流れも全部見ているんですよね。
え? もしかしてノワルーナにもバレている?
 
「あ、っと…では私は明日の準備のために戻りますね。」
 
「ああ、でも体調が悪いなら…」
 
「いえ、大丈夫です! それでは失礼します。」
 
これ以上いると更にボロが出そうなので足早に立ち去ることにしました。
いや、もうすでにどうしようもないくらいボロが出ている気がしますけど気分的に…。
でも久しぶりにゼフィラが触れてくれた。
額がいつもより熱く感じます。
 
「なんか…もう駄目なような気がしますね…」
 
彼は旅のポケモン。きっと調べているものが終われば街から出て行く。
次にミーレタウンに来るのはいつになるか分からないし、私だって調査団の仕事があるから追い掛けるなんて無理です。
だから早々にこの恋は諦めようと思っていたのですが、その思いとは裏腹に気持ちはどんどん大きくなっていく。
正直言うと今ゼフィラのことを考えている時間の方が多いです。
 
「あーもー! 気持ちを切り替えなくては! 明日のこともあるんだし、しっかりしなくちゃ!」
 
気を抜くとまたゼフィラのことを考えそうなのでリセット、リセット!
とにかく外に出たついでにカクレオン商店に寄って買い物しましょう。
階層は18階だと言っていましたし、階層が分かっていればある程度攻略は楽ですからね。
 
 
 
 
ウィルが出て行った後、ゼフィラは調べ物を再開していた。
さっきの出来事も本当に何もなかったかのように平然と。
他のポケモンから見たら異常に見えるかもしれないけど、事情を知っている僕から見れば普通だ。
 
「でもゼフィラはウィルに優しいよね。」
 
と、少し皮肉めいた感じでゼフィラに問いかけた。
僕あんなに優しくして貰ったことないからね。
 
「……別に普通だろ。」
 
「いや、そう見えないから言ってるんだよ。結構気に掛けているようにも見えるし。」
 
「気のせいだろ。余計なこと言ってないでやることやれ。」
 
あ、ヤバい。ゼフィラがイライラしてる。
これ以上ウィルのこと聞くとマジでキレそうだから止めよう。
ゼフィラって普段何考えてるか分からないのに怒っている時は分かりやすいよね。
誤解されやすい原因だけど…。
 
「はぁ…。でも何でウィルは俺に寄ってくるんだろうな。俺、怖いって言われることの方が圧倒的に多いんだが…。」
 
あれ!?
自分で余計なこととか言っておいて掘り返してる!
やっぱりちょっとは気になってるのか。
その答えは間違いなくウィルがゼフィラのこと好きだからだけど、それをゼフィラに言うとゼフィラ困っちゃうよね。
というか…多分ウィルは最初からゼフィラのこと好きだよね。
イライラしてて威圧感を放つゼフィラにも全く怯まないし、ゼフィラが近寄ると顔真っ赤になるし、見てて微笑ましい感じだ。
ゼフィラがウィルの気持ちに気付くことはないけど、もしゼフィラがウィルの気持ちを知ったらどうするんだろう?
 
「ゼフィラのこと信頼してるからじゃない?」
 
「まぁ成り行きで助けたりしてるしな。…なんかよく分かんねぇけど、たまに妙に慕われることあるんだよな。」
 
あぁ、やっぱりそうとしか感じられないんだ。
仕方ないことだけど、僕は寂しいよ。
 
「今日は僕もこっちを手伝うよ。もう少しで終わるでしょ?」
 
「ああ、頼む。」
 
今のところ手がかりはなし。
全く情報を得られなかったらゼフィラ落胆するだろうな。
ここまで調べてもないんだから、この辺りでも収穫はないだろう。
と、この時の僕はそう考えていた。
 
 
 
◇◆◇◆
 
 
 
 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第11話~銀朱の洞窟~

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自分で考えといてなんだけど、これやべぇ!!!
脳内で想像するのと実際それをイラストで描いてみたら感じ方が全然違う!
誰だよ、これ考えた奴 ←お前だよ!

※後半はズルズキン視点になります。


◇◆◇◆


「待って下さいジュカイン。もうちょっとスピードを…」

「ああ、ごめんごめん。今ウィルのスピードに合わせるよ。」

翌日、ジュカインに案内されジュカインが見つけた新しいダンジョン【銀朱の洞窟】に向けて歩を進めていました。
しかし森の中でその身軽さは右に出る者はいないと言われるジュカインの速さについて行けません。
流石は密林の王者と言われるポケモンです。

「いつも一人で行動してるからついね、でももうちょっとで着くよ。」

「そうなんですか、本当に【霧の山脈】から近いですね。」

調査団を出発して40分。
【霧の山脈】からはわずか5分ほどの場所にそのダンジョンはありました。
ダンジョンの入り口は蔦や大きな木が密集しており、見ただけでは入り口かどうか判断が出来ません。

「よくこんな場所見つけましたね。」

「偶然見つけたんだ。見つけるのは大変だけど、難易度は高くないからウィルなら大丈夫!」

「はい、頑張ります!」

「うん、頑張ってね。」

さて、早速行きますか!
ダンジョンに突入です!






ダンジョンに突入して一時間が経ちました。
なんの問題もなく、順調に進んでいます。
しかし…あまりにも問題がなさすぎる。

「あまりにも簡単すぎます。何故敵ポケモンにさえ会わないのでしょう?」

罠が少ないのはある程度予想していましたけど、敵ポケモンに一切遭遇しないのははっきり言って異常です。
たまたま運が良くて遭遇しないのかと思い、波導でフロア中を探ったのですが、なんと敵ポケモンが全くいないことが判明したのです。

これもたまたまかと思い、5階に上るまでずっとフロア中の波導探ったのですが、本当に人っ子一人いない…。

アイテムは落ちているし、ラピスもある。そこは普通のダンジョンと変わりありません。

でも敵ポケモンが全くいないのは不気味な感じがします。

この不気味さは今まで体感したことがありません。

 

「あ、覚醒のラピスです。それとZクリスタルもありますね。」

 

覚醒のラピスとZクリスタル。

どちらもあまり見つけられないアイテムです。

覚醒のラピスはメガシンカをするために必要なラピスです。

覚醒のラピスをリングルにはめると一定時間メガシンカ出来るポケモンはメガシンカします。

メガシンカすると身体能力も大きく上昇し、しかも前方からの攻撃を受け付けなくなります。

かなり強いですね。

なので見つけたら使ったほうがいいんですけど一つだけ欠点がありまして、ラピスの効果が切れる時に暴走状態になってしまうんです。

暴走状態になると自分では行動が制御出来なくなり、味方にも攻撃が当たってしまうなど下手をすると味方を全滅させてしまうことも…。

暴走を防ぐ方法はないのでパーティーでダンジョンに潜る時は使わないようにしています。

ちなみに覚醒のラピスはメガシンカを持つポケモンだけではなく、それ以外のポケモンにも効果があります。

メガシンカポケモンほど能力は上がりませんが攻撃力は高くなりますし、前方からの攻撃も受け付けません。

なにより効果が切れても暴走状態にならない。

メガシンカとは違い、これを覚醒状態と言います。

だから私は覚醒のラピスを見つけた場合はメガシンカを持たないメンバーに渡しています。

 

そしてZクリスタル。

これはZ技を使う時に必要なアイテムになります。

Z技はZクリスタルをリングルにはめている時に一度だけ使える絶大な威力を誇る技です。

全てのポケモンが使う事が出来ます。

威力とタイプは元になった技によって変わり、しかも反動技などのデメリットも反映されません。

『まもる』や『ファストガード』といった身を守る技でも防ぎきれません。威力は多少落ちてしまいますがダメージを与えられます。

一度Z技を使うとZクリスタルは壊れてなくなってしまいますが、いざという時のために持っていて損はないアイテムです。

 

2つとも強力なアイテムですが、同時に使用することは出来ません。

覚醒のラピスを使用しているしている時はZ技を使う事は出来ませんし、Zクリスタルをリングルにはめている時は覚醒のラピスをリングルにはめてもメガシンカもしませんし、覚醒状態にもなりません。

 

「うーん…。敵ポケモンはいないみたいですが、ここはZクリスタルをはめておきますか。覚醒のラピスは念のためバッグにしまっておきましょう。」

 

現在の階層は15階。

もう少しで最終フロアですね。

しかし最終フロアに近付くにつれ、不安感が大きくなる。

ダンジョンに入った時から感じていた嫌な予感が強くなっていく。

疲れているわけでも気温が高いわけでもないのに汗が止まらない。

 

「ここが…最終フロアですね。」

 

そしてダンジョンに入ってからおよそ1時間30分。

ようやく最終フロアに到着しました。

 

「ここにジュカインが言っていた壁画があるハズなんですけど…」

 

嫌な予感も不安感もなくなったワケでは無いですが、今は調査を優先しなくては!

草の根をかき分けるように丁寧に探します。

 

「あ! もしかしてアレですかね。」

 

フロアの一番奥にチラッと何かが見えました。

その場所に駆け足で向かいます。

別に走らなくても良かったのですが、なんとなく調査を早く終わらせたいという気持ちがありました。

いつもはこんな気持ちにならないのに、この妙な不安感がそういう気持ちにさせているのでしょうね。

 

「え…? なに…これ…」

 

ようやく壁画と思われるものがハッキリと見える位置まで来たところで足が止まってしまいました。

それを見た瞬間、嫌な予感と不安感が一気に高まり体が震える。

 

「これが…ジュカインが言っていた壁画…? これを変な生き物と言ったのですか?」

 

これが変な生き物だなんてとんでもない。

私にはこれが世にも恐ろしい怪物にしか見えなかった。

8本の腕に6本の足、6枚の翼と2本の尻尾を持つという異形の姿をしている怪物。

 

「なんですかこれは…。こんなの…初めて見ました…。」

 

 

 

 

 

 

 

体の震えが止まりません。

その震えはまるで心の奥底から湧き出してくるかのようにどんどん強くなっていく。

その震えに必死に抗おうと声を振り絞る。

 

「調査しなくては…ジュカインが言っていたとおりヒラガ文字が書かれていますし、解読しないと…」

 

書かれているヒラガ文字を写し取って調査団で解読しても良かったのですが、この時はそのことを考えつきませんでした。

とにかく早く終わらせたい一心で、他のことが考えられなかったからです。

それに一人でどこまで解読出来るようになったのか試してみたいという思いもありました。

 

まさかその思いを利用されていると知りもしないまま…

 

 

 

 

「げっ…まだあのガオガエンいるぜ。」

 

借りていた本を返すために俺は図書館に来ていた。

相変わらず似合わないことしてるな。

俺より学があるのは気にくわないけど、団長には「ズルズキンの頭が悪いだけでしょ?」とか言われるし、どうせ俺は馬鹿ですよ!!

アイツと会ってからウィルは俺のこと見向きもしなくなったし、男としても負けてるとかないわー。

 

「…なんか用か?」

 

「はい!?」

 

あれ、何で!?

俺がいる場所からガオガエンが座っている席まで結構距離あったのに何でもう近くにいるんだよ!

どんだけ耳いいんだよ、マジあり得ねぇ!!

 

「な、なんでもねぇよ! ただまだいるなーっと思っただけだ。」

 

「ふーん、そうか。」

 

そう言うともう興味がなくなったのか元いた席に戻っていった。

あの余裕がありそうな態度もなんかムカつく!

けど、あのガオガエン見ているとなんとなく違和感があるんだよなー。

一体なんだろう?

 

「なぁ、あんたずーっと調べ物してるけど、何調べているんだ?」

 

ウィルの話だと300年前に起こったことを調べているみたいだけど、妙に念入りに調べているんだよな。

300年前って確かイッシュ地方で戦争が起こった時代だし、それに関する事か?

 

「お前には関係ない。」

 

「あーそうですか。というかめっちゃ素っ気ないな!? ウィルの質問には割と真剣に答えているくせに! 意外とウィルのことは興味あるんだろ!?」

 

「ウィルのことも興味ない。用がないなら話しかけるな。」

 

はい、簡単にあしらわれました。

完全敗北です、ありがとうございます!

 

「ウィルのことも興味ないならウィルが今日何処に行っているかも興味ないよな。」

 

「ない。」

 

負け惜しみに言ったこともサラッと流されたよ。

というかこれ本気で興味ないのか?

でもなんとなく悔しいから続けてやる。

 

「ウィル今日は【霧の山脈】の近くにあるジュカインが見つけたダンジョンに行ってるんだぜ。なんでも最終フロアにヒラガ文字と壁画が書かれているらしいから、それを解読するために行ってるんだ。」

 

「…ヒラガ文字と壁画?」

 

おや? ちょっと興味出たかなこれ。

さっきまで本当に適当に流している感があったのに。

 

「そうそう、実際見たジュカインの話だとその壁画、8本の腕に6本足で翼が6枚と尻尾が2本あるかなり変な…」

 

「おい、それどこのダンジョンだ!?」

 

それを聞いた瞬間ガオガエンが急に立ち上がった。

これまでと明らかに違う反応に俺も驚いて言葉が詰まってしまった。

 

「いや…詳しい場所は俺も知らない。団長なら知ってると思うけど…」

 

「なら今すぐに団長に確認して俺に教えろ! 急げ!」

 

「な、なんだよ。興味ないんじゃなかったのか?」

 

「いいから早く教えろ! ウィルが死んでもいいのか!?」

 

は? ウィルが死ぬってどういうことだよ。

ジュカインは難易度は高くないし、ボスポケモンはいないって言ってのに。

 

「お、落ち着けよガオガエン。先に調査したジュカインはなんともなかったんだ。ウィルだって【霧の山脈】では失敗しちゃったけど実力は結構なもんだぜ。いくらなんでも…」

 

「ジュカインは雄だから見向きもされなかっただけだ。でもウィルは雌だろう! アイツらはメガシンカ出来る種族の雌と分かれば容赦しない! それで心も体も壊れた雌を死ぬほど見てきた。ウィルも同じ目に遭うぞ! お前はそれでいいのか!?」

 

「……」

 

この目は嘘を言っていない。

これは本当に不味い事態なんだ。

そう判断するのに時間はいらない。

 

「分かった。今通信するからちょっと待ってろ!」

 

「ノワルーナ、すぐに準備するぞ。道具は必要最低限でいい。」

 

「それならもうバッグに入ってる。いつでも行けるよ。」

 

「……うん、ありがとう団長。ガオガエンここだ!」

 

「…よし、覚えた。行くぞノワルーナ。」

 

「分かった!」

 

ガオガエンは2階の窓から飛び降りて、ドスンと勢いよく着地すると四つ足になりかなりの速度で走り出した。

え? ガオガエンって素早さ低い方なのにめっちゃ速くない!?

あっという間に姿が見えなくなってしまい、俺は呆然とするしかなかった。

 

 

 

◇◆◇◆

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第12話~初エンカウント~

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さぁ、物語が一気に進みますよ!
(やっとかよ)




◇◆◇◆



「えーと…、ここが『世界』という意味ですね。それでここは『計画』で…」

ヒラガ文字の解読を始めておよそ一時間。
ようやく一部分の解読に成功しました。

「ゼフィラなら数分もかからないのにまだまだですね。しかも一部全く解らなくて所々穴あきだし…。とりあえず解読出来た部分を通して読んでみることにしましょう。……ど、う、し、て…」



―どうしてこんなことになってしまったのだろう。
完※だった、それは間違いない。
なのに何故このような事※になってしまったのだ。
何故アレは"心"を持った?
心持たぬ存在として作ったハズなのに、どこでエラーが発生した!?
誰にも分からない。
何度※※図を見返しても※※不能だ。
※※を引き起こさせ、それに※じ、世界を手に入れる計画も全て水の泡となってしまった。
否、水の泡になってしまっただけではない。
今、※※の命が危ない。
アレはどういうワケか※く※※を※んでいる。
見つかれば骨も残らないほど焼き付くされ、どんな命乞いをしても聞き入れらない。
交渉さえも無駄だ。
女子供にも容※しない。
だから隠れるしかない。
しかし、いつまで隠れていられるか分からない。
アレの※族の数か※常ではないからだ。
目に入るメガシンカポケモンは全てアレの※族だと思ったほうがいいだろう。
現に洞窟の外はアレの※族らしいポケモンで一杯だ。
本気で※※を※ぼすつもりなのか!?
嫌だ、死にたくない!
ここには妻も息子もいるんだ!
俺と同じ気持ちの連中だってここには沢山集まっている。
たとえどんなに※※でも生き延びてやる!―



「なんでしょう…。【霧の山脈】に書かれていたヒラガ文字の内容と似ていますね。」

全部解読出来たワケではありませんが、内容が酷似している箇所が多い。
でも一体何から隠れていたのでしょうか?
何度も出てきた『アレ』という言葉。
それと同じくらい出てきたまだ解読出来ていない二文字。
『族』という文字は分かるんですけど、その前に書かれている文字が見たこともない文字だった。
『春』という字に近い気がするんですけど、参考書にも載っていない字は流石に無理です。
猫の手ならぬゼフィラの手も借りたくなります。
と、この間ついそれを口にしたら「俺猫だけど…」って真顔で言われました。
いや、確かに虎は猫科ですけど、それを真顔で言われたのがツボに入ってしまったらしくて、しばらく笑ってしまいました。
ゼフィラは何故私が大笑いしているのか全く分かっていませんでしたけどね。
なんか思い出したらまた笑いそうな予感。

ふう、ゼフィラのことを考えたら少し不安感が薄れてきましたね。
話を戻しましょうか。
【霧の山脈】と【銀朱の洞窟】の文章には似ているけど決定的違う点もあります。
突出して前半部分が大きく違います。
特に『心持たぬ存在として作った』という文章が気になりますね。
『作った』とはどういうことなのか。
そしてそれに続く『エラー』という文章。
エラーとは何でしょうか?
聞いたこともない言葉、どんな意味があるのか想像も出来ません。
とりあえず解析は後回しにして次の文章の解読を進めましょう。

30分後。
先程より早く解読が終了しました。
またしても穴あきの部分がありますけど、一先ず通して読んでみましょう。



―仲間の一人がアレの※族に見つかってしまった。
しかもワザとその場で殺さずここに逃げ込ませ、洞窟に隠れていた俺達全員を見つける作戦だったらしく、逃げ道は全て防がれている。
もう一貫の終わりだ。
アレが直接来るかは知らんが、ここにいる全員散々苦しめられ殺されるだろう。
残された時間で俺が出来ることと言えば、アレの※※図をここに書くことぐらいだろう。
もしかしたらこの※※図の中にアレを倒すヒントがあるかもしれない。
誰でもいい。
どうかアレを倒してくれ―



どうやら死ぬ間際に書いた文章みたいですね。
正確には殺された、ですが…。
図というのがどうもこれのことのようです。
腕が8本、足が6本。翼が6枚に尻尾が2本ある異形の姿の怪物の絵。
文章から察するにこれを作ったということは間違いないのですが、どうやったらこんなものが作れるのでしょうか?

「えーと…『ネクロズマを用いた』……駄目ですね。この先が崩れていて読めません。……ネクロズマって何?」

ポケモンの名前のようですが、聞いたことないですね。
伝説のポケモンでしょうか?
この図がヒントになるとありましたので、嫌ですがじっくり見ることにします。
するとあることに気が付きました。

「この尻尾の2本のうち1本ってもしかしてメガジュカインの尻尾ですか?」

メガジュカインはジュカインと一緒に調査へ行った時に見せて貰ったことがあります。
尻尾が特徴でメガシンカが解けるまで何度でも再生可能で分離・発射をまるでミサイルのように行えるそうです。
尻尾がメガジュカインのものであることに気が付いた私はまさか、と思い他の部分も詳しく見てみました。
やはり、というべきか…。
全てのメガシンカポケモンを見たことがあるワケではないですが、腕も足も翼もメガシンカポケモンの体の一部であることが判明したのです。

「分かる範囲では腕はメガガブリアスとメガメタグロスに翼は…メガボーマンダとこれはメガリザードンX、Y? ということは他の部位もメガシンカポケモンってことなんですよね?」

こんなものを組み合わせて一体何をしていたのか全然分かりません。
分かりませんが、言えることが一つだけあります。

「こんなものを本当に作ったのだとしたらなんて恐ろしい…。まるでお伽噺に出てくる魔王じゃないですか。」

いや、魔王よりももっと邪悪なものかもしれません。
化け物や怪物といった表現でさえ物足りない恐ろしさを感じます。
またあの不安感と嫌な予感が大きくなる。
ドクドクと鼓動が高鳴り冷や汗が止まらなくなりました。

「酷いなぁ、魔王だなんてよ。それは我らの象徴なんだぜ。」

だから気付くのが遅れてしまった。
その声に驚き振り返るとそこにはヘルガーがいました。
デルビルの進化形で炎・悪タイプのポケモン。
ほっそりとした黒い体と頭部から伸びる長い角が特徴です。
しかし何故ここにヘルガーが?
ジュカインの話だとここにボスポケモンはいないハズですが。

「あぁ…。聞(・)い(・)て(・)い(・)た(・)通り美しいルカリオだ。滅多にお目にかかれないくらいの品物だぜ。」

そう言うとヘルガーがベろりと舌なめずりをしました。
それを見た瞬間、身の危険を感じ一気に距離を取りました。

「…何か私にご用でしょうか?」

警戒しながらも一応訊いてみます。
ですが、これ以上近付かせたらヤバいことはハッキリしている。
私の本能が最大級の警告を発します。

「用ならあるぜ。お前…というよりはお前の体にだがなぁ。…ククククク」

ヘルガーの目が怪しく光る。
もう絶対に駄目なパターンですね。
今すぐにここから脱出しなくては!
…あれ? でもヘルガーの目の色ってあんな色でしたっけ?
確かオレンジ色だったと思いますけど、あのヘルガーは濃い青色。
色違いのようには見えませんが…。
い、いや今そんなことを考えている場合ではない!
1秒でも早く逃げなくちゃ!

「逃がすと思うか? 馬鹿が! 折角の獲物を逃がすワケないだろ!」

ヘルガーの周りの温度が急激に上がる。
それは脱出しようとしていた私の元にも届き、あまりの高熱に怯んでしまった。

「猛(たけ)り吠えろ! 我が名は銀朱!!」

ヘルガーがその言葉を発した瞬間、ヘルガーを虹色の光が包む。
これはまさかメガシンカ!?
そんな、ヘルガーはリングルを身に付けていなかったのに何故メガシンカを!?
いくら覚醒のラピスを持っていてもリングルにはめていなければ効果は発揮されないのに。
予想外の事態に私は困惑し、立ち尽くしてしまった。
そして虹色の光が収まり、メガシンカしたヘルガーが姿を表す。
普通のメガシンカとは違う禍々しい黒い波導を放つメガヘルガーが立ち尽くしていた私に向かって来ました。
そのスピードは恐ろしく速く、あっという間に私の目の前まで迫ってきた。

「……! は、波導弾!!」

咄嗟に波導弾を放つとそれがメガヘルガーの頭に命中し、メガヘルガーが立ち止まる。
波導弾は悪タイプの弱点である格闘タイプの技。
それなりに効いたと思いたいですが、私の気持ちを無視するかのようにメガヘルガーは口角を上げニヤリと笑った。

「結構いてぇな。まだそこまでレベルは高くないとは聞いていたが、それでいてこの威力とは潜在能力が高い証だ。だからこそ都合がいい。」

不気味に笑うメガヘルガーに私は恐怖を覚えました。
さっきまではただ危険なポケモンだとしか思わなかったのにそれが一気に恐怖へ変わる。
早く逃げないと危ない!

「逃がさないって言ってるだろ。」

今度はメガヘルガーの体が金色の光を放ち始めた。
え!? この光は…そんなことあるハズない!

「死なねぇ程度に手加減してやるから安心しろよ。《ダイナミックフルフレイム》!!」

メガヘルガーの口から特大の火球が放たれ、それがフロア全てを飲み込んだ。
私は避けることもガードすることも出来ずまともに食らってしまい、爆風で壁に叩き付けられた。

「うあ…あぁ…。」

火球を食らったことでほぼ全身に火傷負い、そして壁に叩き付けられた衝撃で息が出来ない。
逃げないといけないのに身をよじるたびに走る激痛のせいで指を動かすことも出来なくなってしまった。

「ちょっとダメージが大きかったかな。美しい毛並みが台無しになっちゃたぜ。」

メガヘルガーがもう目と鼻の先まで来ていました。
獲物を仕留めた満足げな顔で私を見つめている。

「な…何故? メガシンカ中はZ技を使うことは不可能なのに…」

そう、先程メガヘルガーが放った《ダイナミックフルフレイム》は紛れもなくZ技でした。
メガシンカ中にZ技を使うことが出来ないのは世の中の常識です。
しかしメガヘルガーはそれを平然とやってのけた。

「そんじょそこらのポケモンと一緒にするなよ。俺は"シユウの一族"なんだからなぁ。」

「…シユウの…一族…?」

なんですかそれは…。聞いたこともない。
ワケも分からず困惑しているとメガヘルガーが顔を近付けてきました。

「あれ? 知らないのか? 無理もないか。"シユウの一族"は今数が少ないからな。」

メガヘルガーは鼻先で私が仰向けになるように転がすと胸に前足を置き、胸を潰すかのような力を込めて私を押さえつけた。
く、苦しい…。
ただでさえ、火傷と壁に叩き付けられた衝撃で呼吸がままならないのに気が遠くなる。

「知らないなら教えてやるよ。"シユウの一族"は神の力の一部を受け継ぐ一族だ。そこらのポケモンなんかとか比較にならないほど高貴な一族だよ。」

「神の…力の…一部?」

「そうだ。そして光栄に思うがいい。"シユウの一族"の母体になれることを。」




◇◆◇◆


 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第13話~危機~

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今回は残酷な描写がありますので苦手な方はブラウザバックをお願いします。
一応過激な表現は避けているつもりですが、念のため


◇◆◇◆


私はメガヘルガーが言ったことの意味が分からなかった。
いや、正確には分かっていたけど分かりたくなかったのです。
え? 母体?
母体ってどういうことですか?

「"シユウの一族"の力はメガシンカを持つ種族にしか継承されない。しかも"シユウの一族"は雄しかいないんでね。メガシンカを持つ種族の雌を見つけるのは結構大変なのさ。」

メガヘルガーが私の首をぺろりと舐める。
ゾクッと背筋が凍った、…気持ち悪い。

「長(おさ)からは"シユウの一族"を早く増やせって言われてるんだよね。さっきも言ったけど今"シユウの一族"は数が少ないからな。あんまり選り好みしていられないんだけど、こんなに美しいポケモンなら役得だ。」

メガヘルガーは私の体に覆い被さるような体制をとった。
現実逃避していましたけど、やっぱりそういうことなんですね。
メガヘルガーは私に"シユウの一族"の子供を産ませようとしている。
…絶対に嫌だ。
好きでもない、ましてやこんな黒い波導を持つポケモンの子供を産むなんて死んでもお断りです。

「離して!」

私は手をメガヘルガーのお腹へと向けて最大級にまで威力を高めた波導弾を撃った。
至近距離で撃ったため、私にも多少ダメージが来てしまいますがやむを得ません。
これで胸を押さえつけている前足の力が弱まれば逃げられると考えたのですが、弱まるどころか更に強くなった。
ミシミシと嫌な音が聞こえてくる。

「それで逃げられると思ったか? 残念だったな。"シユウの一族"は通常のポケモンより身体能力が2倍近く高いんだ。その身体能力でメガシンカしてるんだぜ。並みのポケモンじゃ"シユウの一族"には絶対に勝てない。」

それを聞いて私は絶望した。
その言葉通り至近距離で波導弾を食らったハズの腹部は少し赤くなっている程度で大したダメージにはなっていません。
駄目だ、逃げられない。

「ククク。あぁ、その絶望に染まった表情。そそられるなぁ。気絶させてからやろうと思ったんだが、変更しよう。」

そう言うとメガヘルガーは押さえつけていた前足の力を緩めました。
咄嗟に逃げようと身を翻そうとしたのですが、それよりも早く私の口をメガヘルガーの口が塞いだ。
抵抗しようとしたのですが、メガヘルガーの力の方が圧倒的に上で全く振り払えません。
そして私の口に何か熱いものが注ぎ込まれた。

「な、何する…!?」

次の瞬間、まるで体を中心部から溶かされているような不快感と先程とは比べられないほどの激痛が襲った。
あまりの痛みで声さえもまともに出せない。
不快感がなくなると今度は全身が麻痺してきた。
これはまさか…毒!?


「鋼タイプは毒状態にならないけど、体内に直接注ぎ込まれたら話は別だろう?」

ニヤニヤと毒が回るのを楽しそうに待つメガヘルガー。
ついに私の体は全く言うことを聞かなくなった。
しかし意識はハッキリしているし、感覚は残っている。
だからメガヘルガーが私の全身を舐めているのも分かってしまう。

「いや! 助けて…お父様、お母様、カネレ団長!」

怖い怖い怖い怖い!
あまりの恐怖で他のことが考えられない。

「助けなんか来るハズねぇだろう。ダンジョン内のポケモンは全部俺が始末したし、何よりダンジョンの入り口は閉じたからな。このダンジョン内にいるのはお前と俺だけだ。」

「………?!」

まさかそんな…。
ダンジョン内にポケモンがいなかったのはこのメガヘルガーが一掃していたからだったのですか!?
いや、それよりもダンジョンの入り口を閉じただなんて…。
そんなことが出来るなんて聞いたことがない。

「う、嘘です。そんな…」

「嘘じゃねぇよ。なんなら波導を読み取って確認してみな。その状態で波導を制御出来ているとは思えんがな。」

メガヘルガーの言葉通り、今の私は恐怖心が強すぎて波導を制御出来ていませんでした。
そのため、メガヘルガーが言っていることが全部嘘偽りのないものであることを感知してしまっていた。
心を更なる絶望が支配する。
逃げられなくても私がここにいるのを知っている調査団の誰かが助けに来てくれるかもしれない。
その最後の希望まで折られてしまった。
私の中で何かが砕け散る。

「…や…だ止め、て…お願…。」

抵抗の言葉を発するも、それにさえもう力がない。
こんなヤツの子供なんか絶対に産みたくない!
そう思っても、もう何の気力も湧いてこない。

「ありゃ? もう折れちまったのかい? 楽しくねぇな。じゃあ、せめて喘ぎ声くらい聞かせろよ。」

メガヘルガーが更に私の体に触れてくる。
気持ち悪い。
もう嫌、触らないで…。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

「いやああぁぁ!…助けて…ゼフィラぁ!!」

まるですがるかのように私はゼフィラの名前を口にした。
絶対に助けに来るハズのない彼の名前を…。

「あぁん? ゼフィラだと!?」

しかしゼフィラの名前を聞いたメガヘルガーの反応は劇的だった。
一気に血の気が引いたのか表情が硬直していました。
どうして?
ゼフィラのことを知っている…?

「てめぇ、どこでその名前を聞い……!?」

メガヘルガーの動きが止まったその時、メガヘルガーが吹っ飛びました。
吹っ飛ばされた勢いそのままに凄まじい音を立てながら壁に激突しました。
そして私の目に写ったのは黄金の波導。
メガヘルガーの黒くて禍々しい波導とは真逆のキラキラと澄んだ美しい波導でした。

「間に合ったか!?」

赤い体に黒い縞模様。
逆三角形の体格と紫水晶の瞳を持ったポケモンがそこにいました。

「……ゼフィラ?」

思わず疑問形で聞いてしまったけど間違いない、ゼフィラです。

「ウィル、大丈夫か?」

ゼフィラがメガヘルガーを警戒しながらも私の側に来てくれました。
ゼフィラが私を優しく抱き抱えます。

「……ゼフィ……」

「来るのが遅くなって済まない。まさかダンジョンの入り口が塞がってるとは……ウィル?」

「……怖かっ…怖かったです、ゼフィラ。…うあああぁぁぁ…」

毒による麻痺でまともに動けないハズなのに私はゼフィラにすがり泣いていました。
ゼフィラの姿を見たことで安心したのと、助かったという気持ちが合わさり、もう自分ではどうしようもなかった。

「悪かったな。もっと早く来ていれば…」

私を落ち着かせるためなのか、ゼフィラは私を抱き締めてくれました。
ゼフィラの心臓の鼓動が聞こえます。
いつもよりその鼓動は早かった。
よく見れば酷く汗もかいていて、息も上がっていました。
どのくらい必死になってここへ来てくれたのでしょう。
ゼフィラの腕の中で私は少しずつ平常心を取り戻していく。

 

 




「ほう…噂に違(たが)わぬ力だ。俺にたった一蹴りでここまでダメージを与えるか…」

それを打ち砕くかのようにメガヘルガーの声が響きます。
取り戻しかけていた平常心は再び恐怖に支配されてしまった。

「う…ぐ!?」

あまりの恐怖と過度のストレスで私は嘔吐してしまった。

胃の中に何も入っていないのに嘔吐が止まらない。

「(うぅ…。ゼフィラ…ごめんなさい…)」

そう言いたいのに気持ち悪さのほうが勝って言葉にならない。
ゼフィラにすがっている状態で我慢出来ずに吐いてしまったからゼフィラの体を汚してしまったのに。

「…ゼ…ご、め…」

「謝るな。お前が悪いワケじゃない。」

そういうとゼフィラは優しく背中をさすって下さった。
視線はメガヘルガーから絶対に離さず、それでも私を気遣って下さる温かくて大きな手。
気持ち悪さが和らいでいく。

「ゼフィラ! ウィルは大丈夫?」

その時、遅れてノワルーナがやって来ました。
はぁ、はぁと苦しそうにしていて、ノワルーナも息が絶え絶えになっていました。

「ノワルーナ。ウィルと先に脱出しろ!」

「分かった!」

「え?」
 

先にってゼフィラは?
まさかあのメガヘルガーと一人で戦うつもりなのですか!?
ゼフィラがどれくらい強いのか分かりませんが、そんなの無理です。
あのメガヘルガーは私と対峙していたとき全然本気を出していなかった。
得たいの知れない"シユウの一族"と言う謎のポケモン。
実力が未知数過ぎて勝てるビジョンが思い浮かばない。

「…ゼフィラ駄目です。戦うなんて…」

「俺は大丈夫だ。必ず戻るから安心して待ってろ。ノワルーナ、頼むぞ。」

「待ってくだ…」

言い切る前にあなぬけのたまの効果が発動し、私とノワルーナはダンジョンから脱出した。



◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 


【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第14話~激走~

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シユウの一族の設定は変更点は多いものの私が高校生の時から考えていたりします。
その時、ポケモンの漫画書いていたのでね
つまり12年前からある。

あまりにも下手なのでお見せすることは出来ません(ある意味黒歴史)


※今回はノワルーナ視点です

◇◆◇◆



図書館での調べものもそろそろ終わりに近付いてきた。
残すところ後2冊。
やっぱり有力な手掛かりはなさそうだね。
ここならあると思ったんだけど。
はぁ、ゼフィラの落胆する顔が目に浮かぶよ。

「…なんか用か?」

ゼフィラの声が耳に入りそちらに視線を向けると、ウィルから紹介してもらった調査団のメンバーの一人、ズルズキンがいた。
どうやらズルズキンが小声で何か言ったのがゼフィラに聞こえたらしい。
相変わらず凄まじい聴覚だよ。
でももう興味はなくなったらしく、元の席に戻っていた。
小言に付き合っている暇なんてないからね。
けど何か気に入らなかったのかズルズキンはゼフィラに突っ掛かってきた。
しかしゼフィラのスルースキルが高すぎてまるで相手にされていない。
哀れズルズキン。
もしかしてズルズキンってウィルのこと好きなのかな?
話してる内容がウィルのことなんだよね。
ウィルはゼフィラのことが好きだからゼフィラのことが気にくわないってところかな。
全く相手にされてないけど。
突っ掛かってくるズルズキンの話を適当に受け流していたゼフィラだけど、あることを聞いて突然立ち上がった。
勿論それは僕にも聞こえた。
え? 今ズルズキン8本の腕に6本の足、6枚の翼と2本の尻尾って言った?
言ったよね!?
でなきゃゼフィラがあんな反応するハズかない。
間違いない、アイツの遺構だ!
しかもヤバイことが判明した。
ウィルがその遺構があるダンジョンに一人で行っている。
完全にアウトじゃん!
アイツの遺構が残っている場所には必ず"シユウの一族"がいる。
雄やメガシンカを持たない種族の雌だったら問題ないけど、ウィルはメガシンカがある種族の雌だ。
"シユウの一族"はメガシンカを持つ種族の雌を見つけると無理矢理子供を産ませようとする。
番(つがい)がいようが関係ない。
それどころか番を殺してでもそれをする。
しかも"シユウの一族"の子供を産むと子に生命力を吸い取られてしまい、母体は長生き出来ない。
ゼフィラの話だと一人目を産んだ時点で長くて1年、二人目を産んだら産んだ瞬間に母体は死ぬらしい。
母体の生命力を奪って生まれるから卵が孵化するのも早いし、身体能力も高い。
"シユウの一族"は母体がそうなることを分かっていて無理矢理子を産ませる。
本当にヤバい、ウィルもその犠牲になってしまう。
"シユウの一族"に襲われた雌は大抵心が壊れてしまうから急がないといけない。
正確には抵抗出来ないよう心を壊されるだけど…。

「行くぞノワルーナ。」

「分かった!」

ズルズキンからダンジョンの場所を教えて貰うとゼフィラは全速力で走り出した。
ちょっと待ってー!
ゼフィラが本気で走ると僕絶対に追い付けないから!
そんなこと叫んでもゼフィラは止まってくれないけどね。





ゼフィラから遅れること数十分。
やっと僕はズルズキンが教えてくれたダンジョンがある場所に到着した。
とっくにダンジョン内に入っているんだろうと思っていたんだけど、ゼフィラはまだこの場所にいた。
ていうか…あれ?
ダンジョンの入り口はどこ?
場所合っているのに入り口が見当たらない。

「やられた。」

ん? やられた?
やられたってどういうこと?

「ダンジョンの入り口を閉じられた。ウィルの匂いもここで途切れてる。」

「は、はあ!? ダンジョンの入り口を閉じるなんて、そんなこと出来るの!?」

そんなの聞いたことがない。
"シユウの一族"の実力が桁違いなのは知ってるけど、あまりにも常識から外れている。

「出来る。元々ダンジョンはセンシンがネクロズマの力をふるった際に生まれた副産物。だからセンシンがネクロズマの力を貸せばそれも可能なんだ。くそ! 理由は分かんねぇけどウィルがここに来るって知ってたんだな。じゃなきゃこんな用意周到なこと出来ない!」

ゼフィラが地団駄を踏むほど焦っている。
こんなに焦っているところを見るのは初めてだ。
でも実際問題ダンジョンに入る方法がない。
ウィルは朝早く調査団を出たらしいから少なく見積もってもウィルがダンジョンに入ってから2時間は経過している。
ウィルがダンジョンに入ったのを確認してから"シユウの一族"がダンジョンの入り口を閉じその後を追ったのだとしても、すでに追い付かれていても不思議じゃない時間だ。
急がないといけないのにいい方法が思い付かない。

「ノワルーナ。」

「うん?」

「ダンジョンの一階部分を全て破壊するから安全なところまで離れていろ。」

「うん、分かった…って、えぇ!?」

破壊するだって!?
そんな無茶な!
そう思ったけどゼフィラなら出来るんだよね。
でも力を使ってしまうことに他ならない。

「大丈夫なの? これから"シユウの一族"と戦うっていうのに…」

「時間がないからやむを得まい。入り口はないがダンジョンが消えたワケじゃない。一階部分全部破壊すれば先に進める。分かったら早く離れろ。巻き込まれても知らんぞ。」

本当は力を使って欲しくない。
でも今そんなことを言っていたら絶対にウィルを助けられない。
だから僕は了承するしかなかった。

「音が聞こえなくなったらノワルーナもダンジョンに入れ。じゃあやるぞ。」

「分かった。」

僕がその場から離れた直後爆音が響いた。
その音が鳴り止んですぐに戻ったけどもうゼフィラはいなかった。
だから僕も急いでゼフィラの後を追った。





僕が最終フロアに到着するとゼフィラはすでに"シユウの一族"と対峙していた。
ゼフィラに抱えられたウィルの姿も見える。
とりあえず間に合った?
でもウィルは火傷をほぼ全身に負っていてボロボロの状態だった。
子供を産ませようとしていたハズだから身動き出来ない程度に痛め付けたんだろうけど、あまりに酷い。
落ち着いているように見えるけど、ウィルの目からは生気を感じなかった。
一刻も早くこの場からウィルを引き離したほうがいい。
ゼフィラもそう考えたのかウィルと先に脱出しろと僕に指示を出す。
即刻ウィルを連れてダンジョンから脱出した。
でも判断を間違えたかもしれない。
ゼフィラに抱えられていた時は落ち着いているように見えたウィルだけど、ゼフィラから離れた途端体の震えが止まらなくなった。
泣き続け、ずっとゼフィラの名前を呼んでいる。
多分ゼフィラの存在が心も体も傷つけられたウィルの安定剤になっていたんだろう。
それがなくなったから一気に不安定になった。
もしくは"シユウの一族"の強大な力の片鱗を見ているから、その"シユウの一族"と相対するゼフィラがもしかしたら自分のせいで死んでしまうのではないか、と考えているのかもしれない。
あるいはその両方か。
どちらにせよ精神が弱りきっているだろうウィルには酷な状況に違いない。
僕がいくら大丈夫だと言ってもウィルは首を横に降り続ける。
時間が経つにつれどんどん悪くなっていく。
涙が止まらず体の震えも大きくなる。
更には呼吸まで乱れてきた。
もう僕じゃ無理だ。
ゼフィラーヘルプミー。


10分ほど経過した頃ゼフィラが戻ってきた。
少し怪我をしているみたいだけど、これくらいゼフィラならへっちゃらだ。

「力…使った?」

「いや、使ってない。あいつのレベルが低かったから使わずに済んだ。」

思わず訊いてしまったけど、使っていないとの返答が返ってきた。
それは良かった。
良かったけど今はウィルの容態が良くない。

「ウィル。宣言通り戻ってきたぞ。」

ゼフィラはウィルの前まで行くとウィルと目線を合わせるためなのか、膝をついてしゃがんだ。
ウィルもそれでやっとゼフィラが来たことに気が付いたのか、ようやく顔を上げる。

「……ゼフィラ?」

「なんだよ。安心して待ってろって言ったのに目が腫れてるじゃねえか。さっきまでそんな風になってなかっだろ。俺が信用できないのか?」

ゼフィラはウィルへ手を伸ばすと、ウィルの体をゆっくりと引き寄せて出来うる限り優しく抱き締めた。
ゼフィラに抱き締められたウィルは少しずつ体の震えが治まり、呼吸も元に戻っていく。

「あいつは俺がけりをつけた。だからもう大丈夫だぞ。」

それを聞いたウィルはゼフィラの腕の中で小さく頷いた。
落ち着いたように見えるけどまだ涙が止まっていない。
余程怖かったんだろう。
ゼフィラはウィルの精神状態が少しでも早く落ち着けるようにウィルの背中をまるで幼子に触れるかのようにさすっていた。
それが心地良かったのかウィルはうとうととし始めた。

「眠るのか? いいぞ、眠って。大丈夫、俺が必ずウィルを守るから。」

その言葉でウィルはすっかり安心したのか目を閉じ、ゼフィラに身を預けて眠りについた。

「ノワルーナ。悪いがもう一度ダンジョンの最終フロアに行ってそこに書かれているヒラガ文字と壁画を全部書き写してきてくれ。」

「あれ? 解読してきたんじゃないの?」

ゼフィラのことだしもうすでに解読を済ませているものだと思っていたからこの発言には僕も驚きを隠せなかった。
いつもなら解読を優先するのに。

「あぁ。………その、ウィルのことが気になってな…。」

「え?」

「ああ言った手前、早く戻ったほうがウィル安心すると思ったし。だから…………あーもー! なんでこんなこと考えてんだ俺は! 助けたんだから後のことなんかどうでもいいだろう!」

ゼフィラから更にらしくない発言が続く。
それ言ったら行動もらしくないんだけどね。
しかもゼフィラ自身がなんでこんなことを言っているのか分かってないみたいだし。
ひょっとしてゼフィラ…。
いや、それはない。
絶対にあり得ない。
だってゼフィラには…。

「とにかく! 書き写し終わったらヒラガ文字も壁画も全部破壊しろ。」

「分かった。」

「砂になるくらい破壊しろよ。アイツの製造方法なんざこの世界に必要ない。」

「了承! ゼフィラはどうするの?」

「俺はウィルを調査団まで送り届ける。何故か毒状態になってるし、早く医者に診てもらったほうがいい。」

「う、うん。そうだね。」

そう言うとゼフィラはウィルを抱え直した。
またおんぶするのかと思いきやお姫様抱っこでした。
うわーお…。
ウィルが起きてたら羞恥心で心臓が爆発しそうになるくらいのシチュエーションだね。

「頼んだぞノワルーナ。」

「任せて!」

ゼフィラを見送ると僕もダンジョンに入った。
しかし製造方法か…。
ここにゼフィラが探し求めているものがあるといいけど。



◇◆◇◆

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第15話~シユウの一族~

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長くならないようにしたかったけど、もう無理な予感。



◇◆◇◆


目が覚めると見慣れた自室の天井が視界に入りました。
…あれ? 私どうしたんでしたっけ?
何だか記憶が混濁しています。
動こうとしたのですが全身に痛みが走り、まともに動けません。

「ウィル! 目が覚めたのね、でもまだ動いちゃ駄目よ。」

「…カネレ団長…?」

カネレ団長が心配そうな顔で近付いてきました。
見回すとカネレ団長だけでなく、ドリュウズにランターン、サーナイトもいました。

「団長、ウィル目が覚めたのか?」

部屋の中ではなく、少し遠くから誰かの声が聞こえました。
誰かと思い顔を向けると廊下からズルズキンが私を見ていました。
しかしズルズキンと目が合った瞬間、体が凍てつくような感覚に教われたのです。
な、なんで?
どうしてこんなに体が震えるのですか?

「ちょっとズルズキン! ウィルに近付かないでって言ったでしょ! この距離でも駄目よ、さっさとあっち行きなさい!」

「えぇ!? 少しぐらいいいだろ? 俺だってウィルのこと心配なんだぜ。」

「駄目だって言ってるでしょう! ウィルが男性恐怖症になってたら男なんてただの恐怖の権化(ごんげ)でしかないんだから! 言うこと聞かないとサーナイトと同時にムーンフォース食らわすわよ!!」

カネレ団長、それするとズルズキン戦闘不能になるどころじゃないんですが…。
団長の剣幕に押され、とぼとぼと離れていくズルズキン。
…なんだかちょっと可哀想な…。
ていうか、男性恐怖症?
私何かありましたっけ?
えーと、確か【銀朱の洞窟】へ調査に行って、最終フロアにあるヒラガ文字を解読して、それから………。
そうだ、突然現れたヘルガーに襲われたんだ。
私はアイツに…。

「……うっ」

思い出した瞬間、猛烈な吐き気に襲われました。
気持ち悪いさのあまり口を押さえ、身をよじる。

「ウィル、気持ち悪いのかい? 我慢しなくていいよ、吐きたかったら吐いたほうが楽になるからね。」

ドリュウズが優しく背中をさすってくれました。
吐こうとしたのですが、嗚咽だけで他は何も出てこない。
苦しさのあまり目に涙が溢れてきてしまいました。

「ダンチョー。これズルズキンのせいだったりする?」

「…よし、サーナイト。ズルズキンを二つの意味で不能にしてきましょう。」

「了解よカネレ。」

あ、ヤバイです。
カネレ団長とサーナイトの目が本気になっています。
止めないとズルズキンが大変な目に遭ってしまう。

「ち、違います。これは…その、思い出したからで…」

「冗談よ。分かってるからそんなことしないわ。」

「いやー、ダンチョーマジでやる気だったでしょ?」

「気のせいよ。無理に何があったかとか話さなくていいからね。大体のことはゼフィラ君から聞いているわ。」

ゼフィラから?
そうだゼフィラ!
私ダンジョンから出た後のことをほとんど覚えてない。
唯一記憶にあるのは凍えるような恐怖と、それとは真逆の温かな手が私を気遣って下さったことだけ。
ゼフィラはヘルガーと相対して大丈夫だったのでしょうか?
もしかしたら私のせいで大怪我を!?
駄目です、悪い考えしか思い浮かばない。

「ゼフィラは…ゼフィラは無事だったのですか?」

「ちょっと怪我してたけど、かすり傷みたいなものだって言ってたわよ。安心しなさい。」

「そうですか、良かったです。」

本当に良かった。
最悪のことも頭をよぎってしまったので、ほっとしました。
ゼフィラが無事だと知って安心したのか気持ちが楽になりました。

「あからさまに嬉しそうな顔してるじゃないか。余程あのガオガエンのことが大事なんだね。」

「ウィルの運命の存在だからね。しかもウィルを助けるために必死で動いたとなればベタ惚れもするわ。もうゼフィラ以外好きになるの無理じゃないかしら。」

「そんなものなの?」

「ルカリオは波導を読み取って相手の気持ちが分かるという性質上、中々誰かを愛することが出来ないのよ。だから一旦好きになると凄く深く愛するの。ウィルはリザードンにゼフィラのことは諦めようと思ってる、とか言っていたみたいだけど、そんなの最初から無理なわけ。」

「あー、なるほどー。」


サーナイトの的を射るような発言。
ええ、私もなんとなくそんな気はしていました。
あんな綺麗で美しい波導を持つポケモンになんてもう二度と会えない。
何よりゼフィラの優しさや温かさを知っている以上、他の異性を愛することなんて出来っこない。
諦めようとはしていましたけど、ゼフィラをここまで愛してしまった今、それは不可能です。

「ゼフィラ君には気持ち伝えた?」

「いえ、まだです。」

「じゃあ治ったら伝えて来なさい。多分ゼフィラ君もウィルのこと大事にしてると思うわ。」

「そうだねぇ。なんとも思っていない相手をあんなに気遣ってここに運んでくるハズないからね。」

「お姫様抱っこだったもんねー」

「…え?」

「ウィルは気を失ってたから覚えてないでしょうけど、ゼフィラ君ウィルのことお姫様抱っこでここに運んできたのよ。」

「…は? え? ……ええええええぇえぇえ!?」

はい、全く覚えていません!
お、お姫様抱っこ!?
そんな、おんぶされるだけでも恥ずかしかったのにお姫様抱っこだなんて…。
いや、それだけではない。
調査団に来るのに一番近いのは街の大通りを通るルート。
裏道もありますけど、倍の時間がかかる。
私を早く送り届けようとしていたのなら通るのは大通りしかない。
間違いなく街に住んでいるポケモンに目撃されている。
しかも私の記憶が正しければ、ダンジョンを出た時まだお昼だった。
どれだけ多くのポケモンに目撃されているのか予測が出来ない!

「ダンチョー。ウィルが真っ赤になって悶絶してるよ。」

「ウィルが考えていることが想像出来るわね。実際そうなんだけど。」

「もうすでに街じゃ噂になってるみたいよ。」

「いやー! 止めてー! 取り消して下さーい!」

「噂になってるのに取り消せるワケないだろ? 潔く諦めな。」

「いやーーー!!!」





「しかしウィルだって弱いワケじゃないのに一方的にやられるなんて、相手はどんな奴なんだい?」

私が落ち着きを取り戻してからドリュウズが口を開きました。

「ドリュウズ。その事に関しては尋ねない約束でしょ!」

「そうだけど、ゼフィラも分からないことはウィルに訊くしかないだろ? もしウィルがまた同じ目に遭ったら大変だ。元気そうに見えるけど心の傷は簡単に治らない。万が一ってこともある。」

「それはそうだけど…。」

「カネレ団長、私は大丈夫です。何があったかお話しします。」

カネレ団長は止めていますが、ドリュウズは私のことを案じて言ってくれています。
ゼフィラだって到着する前の事を話せるはずがない。
思い出すのは怖いですが、ここは話さなければいけません。

「そう? でも無理することないからね。」

私はダンジョンで起こったことを皆に話しました。
途中まで解読したヒラガ文字と壁画のこと。
そしてあのヘルガーのことも…。

「無理矢理子供を産ませようとしたとか最低な奴だね。」

「本当だよ。ゼフィラがけりをつけたって言ってなかったら今から締め上げに行くのに。」

「ですが、あのヘルガーは恐ろしいほど強くて…。私では手も足も出ませんでした。」

リングルも覚醒のラピスも、Zクリスタルもなしに使ったあの力は今思い出しても恐ろしい。
ゼフィラが来てくれなかったら今頃私は…。

「…そういえばあのヘルガー、自分を"シユウの一族"だと言っていました。」

「……"シユウの一族"だと?」

突然聞いたことがない声が部屋に響きました。
男性とも女性ともとれない中性的な声。
声がした方へ顔を向けるとカネレ団長が両手で口を覆っていました。

「や、やだぁ! びっくりしすぎて変な声出ちゃた!」

「え? 今のダンチョーの声? 全然違うポケモンの声に聞こえたけど…」

ランターンも私と同意見のようですね。
いや、この部屋にいた全員そうみたいです。
サーナイトとドリュウズも不思議そうな顔をしていました。

「あ…はははは…。大丈夫、大丈夫。本当に自分でもびっくりしたわ。…そっかぁ"シユウの一族"、"シユウの一族"ね…。」

「知ってるのかい?」

「知っているわ。"シユウの一族"は1000年前に現れた特別な力を持つポケモンのことよ。」

1000年前にというと、あの空白の時代の時ですね。

とても関係がありそうな気がします。
カネレ団長は座り直して"シユウの一族"が一体どんなポケモンなのか話してくれました。

「"シユウの一族"はメガシンカを持つポケモンしかいないわ。通常のポケモンより身体能力が2倍近く高く、一番の特徴は覚醒のラピス、ZクリスタルなしでメガシンカとZ技を使うことが出来ることね。しかも両立可能なの。」

「えー! なにそれ、チートじゃん!」

「身体能力が2倍近く高いのに更にメガシンカするとか…じゃあウィルが勝てるワケないわね。」

はい、実際全く歯が立ちませんでした。
ヘルガーも同じことを言っていましたし、改めて聞くと規格外の存在です。

「けど、そんなに強いならアタシらが知らないのは変じゃないかい? というかメガシンカポケモンが全部"シユウの一族"であってもおかしくないと思うけど…」

ドリュウズの言葉を聞いてハッとなりました。
そうですよね。そこまで強いのであればメガシンカポケモンが全て"シユウの一族"であっても不思議じゃない。
下手をすればリザードンやサメハダーも"シユウの一族"であった可能性がある。
しかしその名前をカネレ団長以外誰も知りませんでした。


「"シユウの一族"は強大な力を持っているけど、寿命が極端に短いのよ。なんでも覚醒のラピスとZクリスタルを使用しない代わりに命を消費するみたいで、長くても10年、短いと1年くらいで死んじゃうらしいわ。」

「普通の個体と比べたら1割くらいの時間しか生きられないの? まさに諸刃の剣なのね。」

「しかも"シユウの一族"は雄しか生まれない。だからメガシンカを持つ種族の雌を見つけると無理矢理子供を産ませようとする。ウィルが狙われた理由はこれね。」

「いくら寿命が短いからって無理矢理だなんて、ただの危ない集団じゃないか。」

私もドリュウズと同じことを思いました。
寿命が短いのは同情しますけど、だからといってあんなことしていい理由にはならない。
今でも怖くてたまらないのに…。

「普通のポケモンと見分ける方法ってあるの? それとも全く一緒?」

「どうやら目の色が違うらしいわ。ヘルガーもそうだったんじゃない?」

「確かに…今までに見たヘルガーはオレンジ色でしたけど、あのヘルガーは濃い青色でした。」

 

しかし目の色が違うだけというのはハッキリ言って分かりにくいですね。

初めて会うポケモンだったら目の色が違っていても分かりませんし、やはりここは波導で感知するしかないのかもしれません。

カネレ団長やランターン、ドリュウズは心配ないですが、私とサーナイトはメガシンカを持つ種族。

注意しないとまた狙われるかもしれない。

 

「それと、今ドリュウズが"シユウの一族"を危ない集団って表現したけど、本当に危ないのは無理矢理子供を産ませようとすることだけじゃないのよ。」

 

「え? まだ何かあるの?」

 

「1000年前から現代にかけて幾度となく戦争が起こっているのは皆知っているわよね。その戦争を引き起こしているのは全て"シユウの一族"なの。」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

いきなり言われた衝撃的な事実に私を含めた全員が驚きのあまり硬直しました。

戦争を引き起こしている? 自らの意思で?

とてもじゃないですが信じられません。

 

「じゃあ400年前のここカロスで起きた戦争も? もっと大きかった450年前のカントーの戦争もそうなの!?」

 

「そうよ。何故かは知らないけど"シユウの一族"は戦争を引き起こさせ、そして収束させるを繰り返している。"シユウの一族"がいる限り恐らくこの世界から戦争はなくならないでしょうね。」

 

あ、頭がクラクラしてきました。

次々と告げられる事実について行けません。

 

「でも変ね。"シユウの一族"は300年前イッシュ地方での戦争の際にほぼ全滅して、残っていた残党も100年前ホウエン地方で戦争を引き起こそうとした時に当時ホウエン地方に現れた英雄によって倒され、それで完全に絶滅したと聞いていたのに…。」

 

「あぁ、僕達が"シユウの一族"を知らなかったのはそのせいなんだ。でも絶滅してなかったってこと?」

 

「今現れたってことはそういうことなんでしょうね。全く迷惑な一族だわ。」

 

迷惑という一言で済めばいいですけどね。

しかもあの時ヘルガーは不穏なことを言っていた。

長から早く"シユウの一族"を増やせと言われている、と…。

長とは一体どんなポケモンなのでしょうか?

そして増やせということは、また戦争を引き起こそうとしている暗示なのかもしれません。

 

「とにかくウィルとサーナイトは十分に気を付けてね。この中で狙われるのは貴方達二人だし、何より"シユウの一族"の子供を産むと母体は何故か死ぬらしいから。」

 

「え!? 無理矢理子供産まされただけじゃなくて死ぬの?」

 

「みたいよ。流石に理由までは分からないけど。」

 

なんという恐ろしい一族!

ゼフィラが来てくれてなかったら私は今頃死んでたかもしれないなんて…。

もうゼフィラには感謝するしかないですね。

感謝…感謝ですか。

そういえば私ゼフィラに助けて貰ってばかりですね。

【霧の山脈】の時にしろ、【銀朱の洞窟】の時にしろ。

何かお返しが出来たらいいのですけど、どうしましょう。

 

「ウィルはしばらく休みなさい。自分では大丈夫そうに思えても心の傷は油断しちゃ駄目よ。そうね、1ヶ月は私の補佐ってことで。フィールドワークはしなくていいからね。」

 

1ヶ月!? そんなに休んだらゼフィラが街からいなくなっちゃうんじゃ…。

い、いえ。カネレ団長は私のことを心配しての発言ですし、ここは素直に従いましょう。

ああ、でも…ゼフィラにお礼を言えないままお別れになったら嫌だなぁ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第16話~見舞い~

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昔風邪引いて食欲なかった時、お父さんがよく作ってくれたな~。
書いたら食べたくなってきた。


◇◆◇◆


カネレ団長達が部屋から退出してしばらく。
おもむろに窓を開け、外を見るともう夕暮れでした。
どうやら丸一日ほど、眠っていたみたいです。
まだ火傷のせいで強い痛みがあるので、なるべく体を動かさないように寝台に横になる。
体力を回復させるためにも食事をとったほうがいいと言われたのですが、全く食欲が湧かない。
さっき無理矢理水を飲んだのですが、すぐに吐き戻してしまった。
体が受け付けない。

「…なんでこんなに怖いんですか…?」

皆と話している時はそこまで強く感じなかったのに、一人でいる今は怖くて仕方ない。
酷く不安になり体が震える。

「(これは…自分で思っている以上に重症ということでしょうか…?)」

本当は誰かに側にいて欲しい。
でも皆忙しいみたいでパタパタと走る音が聞こえてきます。
忙しいのに無理を言うワケにはいきません。
せめて眠らなければ、と思い目を閉じたのですが、あの時の光景が甦ってしまった。

「ひっ…!?」

思わず悲鳴をあげ、飛び起きる。
動悸が激しくなり、冷や汗をかいて呼吸も荒くなる。

「だ…大丈夫。もう終わったのですから…」

そう自分に必死に言い聞かせるも、目を閉じてはあの時の光景を思い出し飛び起きるを何度も繰り返す。
ついには目を閉じることさえ恐ろしく感じるようにってしまった。
結局一睡も出来ないまま朝を迎えてしまった。





「ウィル大丈夫? …大丈夫じゃないわね。昨日よりやつれているもの。」

翌日サーナイトが部屋を訪ねてきました。
でも私には呼び掛けに答える気力がない。

「かなり辛いみたいね。どうしたらいいかしら…」

どうやら今、調査団にはサーナイトとニャオニクスしかいないらしいです。
サーナイトは空いたわずかな時間で私に会いに来て下さったようですが、調査団の仕事だって大事ですし、私にずっと付き添ってはいられない。

―カラン、カラン―

その時、来客が来たことを知らせる鈴が鳴りました。
下の階から「僕が出るよー」とニャオニクスの声が聞こえました。
それを聞いたサーナイトは玄関に向かおうとしていたのを止め、私の側に戻ってきました。

「う~ん。せめてご飯が食べられればいいんだけど、まだ食欲ない?」

サーナイトの問いに私は頷くことしか出来なかった。
ご飯どころか水さえまともに飲めない今の状態。
なんでこんなことになってしまったのでしょうか?
苦しい…気持ち悪い…。
眠りたいのに眠れない。
全部忘れてしまったほうが楽なのに、忘れるどころか思い出してしまう。
頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
もう嫌…何も感じたくない。

「サーナイト」

突然、来客の対応をしていたハズのニャオニクスが私の部屋に来ました。

「ちょっとニャオニクス。ウィルの部屋に来ちゃ駄目だって言ったでしょ!」

「ごめんなさい。…でもさ、ほら。」

「あら! いらっしゃい。貴方ならウィルの側に来てもいいわよ。」

最初は怒っていたサーナイトの声色が急に変わりました。
貴方なら?
誰か来られたのですか?

「ウィル、ゼフィラが来たわよ。」

「…え?」

ゼフィラが来た?
まさかそんな…。
信じられず体を起こすと、確かにゼフィラがいました。
黄金の波導が間違いなく彼であることを示しています。

「よう、ウィル。」

「…ゼ、フィ…ラ…」

「おっと、無理に体を動かすな。具合悪いんだろ? 横になってろ。」

ゼフィラにそう言われ、起こしていた体を横たえました。
ゼフィラが無事だということは昨日聞かされていました。
ですが、自分の目で確認したワケじゃないので、少し不安だったのです。
元気そうで良かった。

「私は仕事に戻るわね。積もる話もありそうだし、ゆっくりしていっていいわよ。」

「別にそんなものはない。ウィルの荷物を返しに来ただけだ。」

「はいはい。何かあったらすぐに呼んでね。」

サーナイトとニャオニクスは足早に部屋を後にしました。
そんなあからさまにしなくても…。
ゼフィラはそんな二人の様子を見て一つため息を吐くと、ちょっと気まずそうに頭を掻いていました。

「……ゼフィラ?」

「いや、その…なんだ。いらないかと思ったんだが、あのダンジョンでウィルが持っていた荷物見つけたから届けに…な。ニャオニクスに渡したらすぐ帰ろうと思っていたんだが、ちょっとでいいからウィルに会ってくれないか、って言われて…」

ニャオニクスなんということを…。
でもゼフィラが無事なのを確かめたかったから、ありがたいです。
ぐったりしている私の様子を見て、ゼフィラは私に近寄ると目線を合わせるためなのか、椅子ではなく床に座りました。

「顔色悪いな。何も食べられないんだって?」

私はゆっくり、そうですと頷いた。

「食べられそうなものはないか? 甘いのとかも駄目か?」

「…分かりません。」

「そうか、…そうだな。」

少し悩んだゼフィラは立ち上がると「ちょっと待ってろ。」と言い部屋から出ていきました。
下の階で何やらしているみたいですが、一体なんでしょう?
しばらく待つとゼフィラが戻ってきました。
手にコップを持っていて、そのコップから何やら甘い匂いが漂ってきます。
この匂いは蜂蜜…?

「これなら食べられるか?」

「… なんですかこれ?」

コップの中にはとろりとした白いスープのようなものが入っていました。

「これは葛湯って言うんだ。」

「くず…ゆ?」

「カントーやジョウトのほうにある食べ物でな。本当は葛粉使うんだけど、ないから片栗粉と蜂蜜で代用した。ここらへんじゃまず見ないだろうけど、むこうだと風邪引いたりして食欲がない時に食べたりするんだ。」

「…そう、なんですか? ゼフィラはアローラ出身なのに、よく知ってますね。」

「ああ、父親がジョウトの生まれだったんだ。とりあえず食べてみてくれ。」

そう言うとゼフィラは私が葛湯を食べやすいように体を起こしてくれました。
起き上がっているのは少し辛いのですが、それに気付いたのかゼフィラは寝台の上に乗り、私の体を支える姿勢をとって下さった。
ら、楽になりましたけど、ゼフィラと密着してるから凄く恥ずかしい!

「かなり熱いから気をつけて食べろよ。」

「は、はい…」

コップを受け取るとスプーンを手に持って恐る恐る葛湯を口にしました。
ゼフィラから前もって注意されていたのに、予想より熱くて「あつ!」と思わず言ってしまいました。
なんたる失態!
気を取り直してもう一度。
今度は更に注意して口に運びます。

「……美味しい。」

「そうか。少しは食べられそうか?」

「大丈夫、みたい…です。」

とろりとした口当たりのいい滑らかさ。
優しい甘さで、後味もすっきりしている。
何よりとろみがあるから冷めることなく胃まで届き、食べれば食べるほど体の中心部から温まってくる。

「とても美味しいです。これなら風邪を引いた時も気軽に食べられそうですね。」

「…気に入ってくれたのはいいんだが、一気に食べ過ぎじゃないか? 結構なペースで食べてるぞ。」

「いえ、あの…美味しくて、つい…」

気が付くと葛湯はもう半分ほどの量になっていました。
美味しかったのもあるんですけど、それ以上にゼフィラが私のために作ってくれたことが嬉しかったのです。

「一応味見はしたけど、口に合って良かったよ。葛湯作るのなんか滅茶苦茶久しぶりだったからな。」

「そうなのですか?」

「母さんの具合が悪い時に作って以来だから…。うん、相当昔だな。」

なるほど、以前はお母様のために作っていたのですね。
しかし、お母様のことを口にしたゼフィラの表情はとても悲しそうだった。
波導も同じく、悲しみを現すものにわずかですが、変化していました。
こんな悲しい波導に変化するということは、ゼフィラのお母様はすでに亡くなられているということ、なんですよね。
というか、あれ?
私、今波導を感知する力を制御出来てない?
出来てないですよね!?
でなければ、こんなわずかな変化を感知出来るハズがない!

「も、申し訳ありません!」

「ん? なんで謝るんだ?」

「いえ、あの…えっと…」

まさか自分の力が制御出来なくて、ゼフィラのわずかな気持ちの変化に気付いてしまったなんて言えない。
ど、どうしましょう。
思わず謝ってしまったけど、なんて釈明していいか分からない。

「あー…もしかして俺の気持ち読んじゃったか? 今ウィルは波導の力を制御出来てないんだろう?」

「え!? なんで分かって…」

的確に言い当てられて、驚きのあまり声が出ません。

「波導を感知するのはルカリオだけが持つ能力だ。けど制御出来るようになるまでかなり訓練しないといけない。そして制御出来るかどうかは精神の強さに依存する。今のウィルは起き上がっているのも辛いくらい体力を失っているし、あんなことがあった直後で精神も弱っている。力が制御出来なくてむしろ当然だ。謝る必要はない。」

「で、ですが…いくらなんでも安易に気持ちを読んでしまうのは…。」

「必要ないって言ってるだろ? …ったく、ウィルは本当に素直なポケモンだな。」

そう言うとゼフィラは、私を包み込むように優しく抱擁して下さった。
突然だったので一瞬戸惑いましたが、すぐに受け入れて、ゼフィラに身を寄せた。
ゼフィラの心臓の鼓動が聞こえます。
あの時と違って落ち着いた規則正しい音。
ゼフィラの体温も匂いも毛の手触りもとても心地いい。
さっきまで心にへばりつくようにあった不安が少しずつ抜けていく。

「……透視で出歯亀(でばがめ)なんて悪趣味な事してんじゃねぇよ。今すぐ止めろ!」

「…へ?」

何の事かと思い、顔を上げるとゼフィラが壁を睨み付けていました。
…この波導、ちょっと怒ってますね。
でも出歯亀?
出歯亀って確か『覗き見』って意味だったような………!!

「ま、まさか見られていたんですか!?」

「ああ。ちっ、気付くのが遅れた。多分サーナイトとニャオニクスだろう。今は見られていないから安心しろ。」

いや、覗き見されていたと知って安心なんて出来ませんって!
いつから見ていたのでしょうか。
ですが間違いなくゼフィラに抱擁されていたところは見られていますよね。
ヤバい! 死ぬほど恥ずかしい!

「はぁ…、過ぎてしまったことはいいか。いや、よくないけど…。俺は帰るよ。まだやることあるし。」

「…! そ、そうですか…。」

ゼフィラも空いているわずかな時間で来て下さったんですね。
時間がなくなれば帰るのは当然です。

「今日は来て下さり、ありがとうございました。」

笑って見送らなければと思い、必死に笑顔を作る。
声は震えていないでしょうか?
ちょっとでも震えていたら多分気付かれてしまいます。
これ以上お手を煩わすワケにはいかない。

「じゃあ、ゆっくり休めよ。」

「はい。」

ゼフィラの腕が私の体から離れていく。
その途端に感じる寒さ。
消えかけていた不安がふいに甦る。

「…行かないで…」

それは紛れもない私の本音。
気が付けば言葉になって口から出ていました。
慌てて両手で口を塞ぎますが、もう手遅れでした。

「…不安か?」

ゼフィラの問いかけに答えることが出来ません。
申し訳ない気持ちで頭が一杯になる。

「ウィル。」

ゼフィラが私の名前を呼びます。
うつむいていた顔を上げると、ゼフィラが手に何かを持っていました。

「これを貸す。」

ゼフィラが持っていたものを私に手渡しました。
それは古いリングル。
内側に桜の刻印が彫られたゼフィラの大切なもの。

「こ、これは貴方の宝物だって聞いて…。」

「ああ。あの時言わなかったけど、これは母さんの形見だ。」

「……!!」

まさか、先程少し話に出てきたお母様の形見だったなんて…。

それほど大切なものをお借りする事なんて出来ません。

「む、無理です。受け取れません。」

「いいから持ってろ。ずっと身につけているから俺の波導も残ってるだろ? 多少は安心するんじゃないか?」

 

確かにこのリングルからはゼフィラの波導を強く感じます。

ゼフィラがいなくとも、波導を感じていれば安心するとは思いますけど…。

 

「でも、もし傷つけたりしたら…。」

 

「ウィルならそんなことしないだろ。落ち着いた時に返してくれればそれでいい。それまで街にいるし、たまに様子見に来てやるから。」

 

「ゼフィラ…」

 

力が制御出来ていないから、ゼフィラが本心から言ってくれているのがよく分かる。

あの紫色の瞳が普段よりもずっと優しげに私を見つめてくれていました。

 

「…分かりました。なるべく早めにお返しできるように頑張ります。」

 

「別に頑張らなくてもいいぞ。心のことなんだからゆっくりでいい。」

 

ゼフィラは私の頭を撫でると、すっと立ち上がる。

帰るんですよね、やっぱり少し寂しい。

でもまた会いに来ると言ってくれたから先ほどより寂しくはありません。

 

「じゃあな、また来るよ。」

 

「…はい。ありがとうございます、ゼフィラ…」

 

貸して頂いたリングルを握りしめながら私は彼の背中を見送った。

その日の夜は先日と打って変わって、ぐっすり眠ることが出来ました。

まだ固形物を食べることは出来ませんが、どうやらゼフィラが葛湯の作り方をサーナイトに教えてから帰られたようで、翌日を無理しない程度に葛湯を口にしました。

 

……ああ、なんかもう駄目です。

私絶対に彼以外を愛せない。

断られるかもしれませんが、元気になったらちゃんと想いを伝えましょう。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第17話~違和感~

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サーナイト視点

◇◆◇◆


ウィルの具合が良くない。
衰弱が激しく、声を発することも出来ない。
水さえ飲めない。
口にしてもすぐに戻してしまう。
どうやら眠ることも出来ないみたいで、とても苦しそう。
間違いなく心から来ている症状だわ。
誰かが側にいたら少しは違うと思うんだけど、緊急の依頼が入っていて、それがままならない。
苦しんでいる仲間が目の前にいるのに助けられないなんて、なんてもどかしいのかしら。





発端は二日前のこと。
図書館に行っていたズルズキンが大慌てで帰ってきた。
何事かと思い、近付くと開口一番にこう言った。

「ウィルが危ない!」

最初は何のことか分からなかったわ。
だってウィルが今行っているダンジョンに危険性はないからね。
でもズルズキンは必死だった。
よく話を聞くと、さっきウィルが好意を寄せるポケモン、ゼフィラという名前持ちのガオガエンに会ってウィルが新しく見つかったダンジョン言っている事を話したみたい。
そしたら急にガオガエンの態度が変わたらしく、ズルズキンもウィルの身に危険が迫っていることを察したらしい。
でもすぐには信じられなかった。
先にジュカインが調査して、危険性はないと判断されていたダンジョンだっただけに余計。

「それは俺もそうガオガエンに言ったよ! でもアイツすぐにこう言ったんだ、ジュカインは雄だから見向きもされなかっただけだ、って。俺にもアイツが言ってることよく分からねぇけど、目は本気だった。絶対嘘は言ってない!」

「そのゼフィラは…どうしたの?」

「アイツならウィルを助けるためにもう行っちまったよ!」

驚きすぎて声も出なかった。
でも緊急事態なのは理解した。
早速カネレと連絡をとって集められるだけメンバーを集めたわ。
ジュカインにだけは連絡取れなかったけど。
そして集まったメンバー、カネレと私、ランターン、ドリュウズ、ズルズキン、リザードン、メガヤンマでウィルが行っているダンジョンに向かおうとした時だった。

ゼフィラが傷だらけになったウィルを抱えて調査団にやって来た。

「ウィル!?」

カネレが真っ先にウィルへ駆け寄った。
カネレにとってウィルは娘や妹みたいな存在、今にも泣きそうな顔をしていた。

「何があったの!?」

「ダンジョンに潜んでいたポケモンに襲われたんだ。火傷はそこまで深くないが、体を強く打っているみたいだし、何より毒状態になってる。」

「毒状態に? ウィルは鋼タイプだから毒状態になるとは考えられないけど…」

「馬鹿ねメガヤンマ。いくら鋼タイプでも直接体内に高濃度の毒を入れられたら防ぎようがないじゃない。実際毒状態になってるし、早く医者呼んできて! 貴方が一番速いでしょ!」

「う、うん分かった。僕行ってくる。」

カネレの剣幕に押されるような感じでメガヤンマは飛んでいった。
流石調査団最速。もう姿が見えないわ。

「ゼフィラ君ありがとうね、お陰で助かったわ。」

「いや…」

「リザードン、ウィルを部屋に運んでくれる?」

「おう、分かった。」

リザードンがゼフィラからウィルを受け取ろうとすると、ゼフィラが半歩後ろに下がってウィルを守るような動作をとった。
どうして? リザードンは調査団のメンバーなのに。

「な、なんだよ! なんで下がるんだ!?」

「リザードンじゃ駄目だ。ウィルがまたパニック状態になるかもしれない。」

「だからなんでだよ!」

「………」

ゼフィラは頑なにウィルをリザードンに渡そうとしない。
理由は何かと訊いたんだけど、どうやら言うべきか迷っているみたいで、視線をウィルへやったり私達にやったりしていた。
そんなに迷うことなのかしら?
少し待つとゼフィラはすっかり重くなった口を開けた。

「ウィルは襲われただけじゃない。」

「え?」

「抵抗出来ないように痛め付けられた上で犯されかけたんだ。」

「はい! リザードン今すぐウィルから離れなさい!!」

「イエッサー!」

そういうことか。
それは言いにくいわよね。
リザードンでは駄目な理由も理解したわ。
いくら調査団の仲間でもリザードンは雄だもの。
襲われたばかりのウィルが雄を間近で見たら、どんな反応をするのか分からない。

「かけたってことは、とりあえずセーフ?」

「…多分。即座に蹴り飛ばしたからちゃんと見てないけど、ウィルの様子を見る限りは…。」

「後でちゃんと話聞かせてね。先にウィルを横にしてあげましょう。申し訳ないんだけどゼフィラ君、そのままウィルのこと部屋まで連れて行ってくれない? 場所は案内するから。」

「分かった。」

「じゃあ女の子全員で行くわよ。男組は悪いけど部屋に引っ込んでてね。」

「そういう事情なら仕方ないよな、分かった。でも様子くらいは聞かせてくれよ。」

「勿論。さぁ、ゼフィラ君付いてきて。」

と、いうわけで皆でウィルの部屋に行くことになったわ。
行く途中ウィルの顔を近くで見たんだけど、その顔はいつも見る感じではなくなっていた。
目の回りは腫れていて、ひどく泣いた後なのがよく分かる。
顔色も悪く、あまりにも弱々しかった。
この顔色の悪さは毒のせいだけじゃない。
一体どんな目に遭ったのか、きっと想像するのも恐ろしいほどなのよね。

「はい、ここがウィルの部屋よ。」

階段を上がるとすぐにあるウィルの部屋に到着した。
ゼフィラは部屋に入るとゆっくりとウィルを寝台へ寝かせた。
この時に私が思ったのはゼフィラがやたら無表情だったことね。
まるで感情がないではないか、と思えるくらいにその顔から何も感じなかった。
最初に会った時も感じていたんだけど、その時は皆に教えているからだと思っていた。
でも今は冷たいくらい何も感じない。
ウィルのことが心配で失念していたけど、思い返してみればゼフィラはここに来てから一度も表情を変えていないのよね。
鋼タイプだってもうちょっと表情変えるわよ?

「サーナイト、ウィルを見ててくれる? 私はゼフィラ君とちょっとお話しするわ。ここじゃ出来ないから通信室借りるわよ。」

「了解、カネレ。」

そしてカネレとゼフィラは部屋から出て行った。

「…ゼフィラってウィルのこと好きなのかい?」

二人が1階へ降りたことを確信したドリュウズが口を開いた。

「なんでそう思ったのドリュウズ。」

「いや、無表情だったけど、なんかウィルを寝台に下ろす時やたら優しそうだったからね。無表情だったけど。」

ドリュウズが大事な事なので2回も言ったわ。
言われてみれば確かにそんな感じはしたわね。
でも余程注意して見ていないと絶対に気が付かない。

「ウィルには優しいと思うよ? でも僕はちょっと怖いな。何考えてるか全く分からないからね。」

それは言えているわね。
リザードンも言っていたけど何を考えているのか分かりにくい。
表情が変わらないってのもあるけど、それだけじゃないのよね。
それが何か分からないんだけど。

そしてカネレとの話が終わるとゼフィラはすぐに帰ってしまった。
なんて薄情な! もしゼフィラがウィルのことを好きならもうちょっと気にしてもいいハズよね。
だからこの時点で私は、ゼフィラはウィルに特別な感情は持っていないと判断したわ。
でもウィルにとっては大切な存在なのよね。
うなされている時もゼフィラのことを呼んでいたし、余程彼のことが好きなのね。
こっちは彼のどこがいいのかさっぱり分からないけど。





そして今、私の視線の先にゼフィラがいる。
一瞬動揺したけど、それ以上に助かったという気持ちになった。
ゼフィラならウィルのこの状態を、少しでも良く出来るかもと考えていたからね。
早速ウィルにゼフィラが来たことを告げると、ウィルの顔がみるみるうちに明るくなった。
ついさっきまで話すこともまともに出来なかったのに、起き上がろうとしている。
流石にそれは、と思って制止しようとしたらゼフィラが先に起き上がろうとするウィルを止めた。
その声は2日前とは違う穏やかな声。
表情も柔らかな感じだった。
全く別のポケモンなんじゃないかと思えてくる。
ウィルがいるから…?

「とにかくニャオニクス、ナイスよ!」

通信室に戻ってすぐにニャオニクスを褒めたわ。
ニャオニクスが引き留めてなかったらウィルは今ゼフィラに会えていないもの。

「こっちは殺されるかと思ったよ…。ゼフィラめっちゃ怖いんだもん。」

「そんなに?」

「ウィルに会ってくれないか、って頼んだ時に死ぬほど恐ろしい声で『何故?』って返されたんだよ。久しぶりに体の奥底から震えたね。」

ニャオニクスは余程恐かったのか、疲れきった顔をしていた。
結構肝が座ってる彼がこんな顔をするなんて…。
会ってくれないかって頼んだだけなのに、やっぱりゼフィラは何を考えているのか分からない。

「サーナイト」

「はい、な…に!?」

呼ばれたので振り返ると、そこにはゼフィラがいた。
驚きすぎて変な声が出たわ。

「少しだけ調理場を借りたいんだがいいか?」

「え? 調理場? いいけど、何するの?」

「弱っている時でも食べられるものを知ってるからウィルに食べさせようと思ってな。まぁ、それが食べられるかは分からないけど。」

「そ、そうなの? ちなみにどんな食べ物?」

「お前らは多分知らないと思うけど、葛湯っていう葛粉と砂糖を熱湯で混ぜて作る食べ物だ。」

まず葛粉が何か分からない。
そんな聞いたこともない食材なんて、ここ置いてないわよ。

「砂糖はあるけど、葛粉なんて知らない食材ないわ。」

「だろうな。でも片栗粉はあるだろ?」

「それならあるハズだけど…」

「それを葛粉の代わりにする。じゃあ調理場を借りるぞ。」

「あ、はい。どうぞ。」

ぽかん、とする私とニャオニクス。

「…片栗粉と砂糖って…どんな味になんの?」

「ごめん、想像出来ないわ。」

得たいの知れないものをウィルに食べさせようとしているんじゃないでしょうね!?
流石に心配になったから、透視で覗くことにしたわ。
本当はいけないんだけど、ウィルのためよ!
作っているところを視てみたけど、意外なことにちゃんと味見をしていた。
ゼフィラが食べられるなら大丈夫なのかしら?
完成したものをウィルのところまで持っていくと、すぐウィルに食べさせた。
ウィル、水も飲めないのに食べられるの?
という私の心配をよそにウィルは結構なペースで食べていた。
わー…愛の力って偉大。
で、ウィルが食べている間、ゼフィラは何をしていたかというと、ウィルが少しでも楽なように体を支えていた。
それもかなりウィルの体を気遣って。
でも私が一番驚いたのは彼の態度ね。
声色も表情も、さっき見た時よりもずっと優し気で温かな感じだった。
二日前のあの無表情で薄情そうな態度は何処に!?
ウィルと話している時、ここまで変わるものなの?
完全に別物じゃない!
実は昨日ウィルと話してい時、ウィルが落ち込まないように皆で口裏あわせて、ゼフィラのことを良く言うようにしていたの。
カネレ以外ゼフィラにはあんまりいい印象持っていなかったからね。
でも今謎が解けたわ。

「これはウィル惚れるわね。こんなに優しいんじゃ…」

「え!? ウィルにはそんなに優しいの?」

「私達と話していた時と全然違う。…でも…」

「でも?」

「なんだか優しいだけって気がするのよ。愛情を感じないっていうか…」

本当にウィルには優しい。
でも、それだけ。
ゼフィラがウィルに特別な感情を持っているとは、どうしても思えなかった。
今もそう、ウィルのことを抱き締めているけど、そうするとウィルが落ち着くからそうしているだけって気がする。
ウィルは気が付いていないみたいだけどね。
恋は盲目って奴かしら。

「……透視で出歯亀(でばがめ)なんて悪趣味な事してんじゃねぇよ。今すぐ止めろ!」

「ひぃ!?」

殺意を感じるほどの恐ろしい眼光が私を睨み付ける。
即、透視を切った。


「ど、どうしたの? サーナイト。」


「…殺されるかと思った…」

 

全身から汗が噴き出る。

激しい動悸がし、息も荒くなる。

本当に視線だけで殺されるんじゃないかと思うくらいの威圧。

というか透視に気付くって何者!?

普通気付かないでしょ!

たまたまこっちを見たんじゃなくて、ちゃんとこちらを見てそして威圧した。

 

「…あり得ない、タイプ相性は悪くはないんだけど今の一瞬だけで勝てる気がしなくなったわ。本当に何者なの彼は…」

 

「そういえばゼフィラって、身体能力が2倍近くあるっていう"シユウの一族"勝ってるんだよね? しかもウィルの話を聞く限り一人で。」

 

「そうみたいよね。後で調べに行ったらダンジョンの1階部分は何故か崩壊しているし、最終フロアにあった謎の壁画は見る影もないくらいにボロボロになっていたわ。一体何をしたのかしら?」

 

ウィルを襲ったというヘルガーの姿もなかった。

激しい戦闘があったという痕跡は残っていたけど、それ以上のことは何も分からず仕舞い。

まさに謎が謎を呼ぶ現場だった。

でも私にはそれ以外にも頭に引っかかっていることがあった。

 

「…なんかゼフィラって名前どこかで聞いたことがある気がするのよね…」

 

「え? あるの?」

 

「初めて聞いた感じじゃないのよ。どこで聞いたかは思い出せないんだけど…」

 

名前持ちのポケモンは数が少なく、名前が被ることはまずない。

だから聞き覚えがあるなんてことは普通あり得ない。

そのハズなんだけど、違和感が消えない。

 

「どこだったかしら…確か旦那と付き合い始めた頃に…」

 

結局謎が解けず、違和感を抱えたまま私は過ごすことになってしまった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第18話~ゼフィラをデートに誘うという難しいミッション~

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なんか今回タイトルが思いつかなくて妙に長くなったけど気にするな

(タイトル考えるの苦手)

 

◇◆◇◆


ゼフィラから貸していただいたリングルを抱(いだ)きながら眠る。
すると、不思議な夢を見ました。

綺麗な砂浜とエメラルドグリーンの海が広がる見たこともない場所。
その場所にある大きな木に寄りかかって座るポケモンがいました。
このポケモンは、ガオガエンですね。

「母さん。」

そのガオガエンに近付く赤と黒の模様の小さな猫ポケモン。
見たことのないポケモンでしたが、そのポケモンの目の色は紫色でした。
まさか…。

「ゼフィラ。」

ガオガエンがそう猫ポケモンを呼んだ。
猫ポケモンは嬉しそうにガオガエンに駆け寄る。
やっぱりこの猫ポケモンがゼフィラの進化前の姿なんですね。
ではこのガオガエンがゼフィラのお母様。

「母さん、具合どう?」

「今日は大分いいよ。だからもう少し遠くまで行こうか。」

「やったぁ!」

ゼフィラとお母様が砂浜をゆっくりと歩きます。
二人とも、とても幸せそうに笑っていますね。

「あ、そうだ母さん。」

「ん? どうした?」

「母さんは現役時代、桜姫って呼ばれてたって聞いたんだけど本当?」

「ああ、本当だよ。いつからかは知らないけど、試合で勝っていくうちにそう呼ばれるようになったんだ。」

「流石母さん! アローラ最強の赤虎(せっこ)! かっこいい!」

「昔の話さ。今はもう無理だ、体力がないからな。」

「病気…治る?」

「そんな心配そうな顔するな。大丈夫、ちゃんと治るから。」

「本当? じゃあ治ったら俺に戦い方教えて!」

「いいけど…たまには父さんにも…」

「やーだー! 父さんに頼むと進まないんだもん!」

「…無駄口多いからな、あの馬鹿。分かった、じゃあ今日はもう帰って休もうか。」

「うん! 俺、走って先に帰るね。鍛えるために!」

「無理は禁物だぞ。焦るなよ。」

「はーい!」

ゼフィラが走って帰る様子をお母様は悲しそうな顔で見ていました。
何故そんなに悲しそうな顔をしているんですか?

「ゼフィラ…」

何故泣くのですか?
何故苦しそうなのですか?
彼はあんなに幸せそうなのに…。

「ごめんな。何一つ約束を守れない駄目な母親で…」





目が覚めると、私は涙を流していました。

「今の夢は…?」

いえ、夢というより記憶の断片のようでした。
そしてそれはゼフィラの記憶ではなく、ゼフィラのお母様の記憶みたいです。
何故そんなものを夢で視たのか…。
考えられる原因は、恐らくこのリングルと、私の今の状態でしょう。
このリングルはゼフィラのお母様の形見。
もしかしたらお母様の波導がわずかながら残っていたのかもしれません。
そして、私は今弱っているため波導を読み取る力を制御出来ていない。
眠っている間、無意識のうちに波導を深く読んでしまい、それを夢で視た可能性があります。
私は波導を読み取る力が他のルカリオよりずっと強いから、深く読んでしまうと記憶まで視てしまうことがあるんですよね。
昔はそれでよく倒れていました。

「ゼフィラのお母様は…病で亡くなられた?」

夢で視た内容から推測するとそのようですね。
でも夢で見る限り、ゼフィラはどうやらお母様のことが大好きだった模様。
大好きだったお母様が亡くなられた時のことを訊くなんて、私には出来ません。
そして、それ以上に気になることもありました。
それは目の色。

「ゼフィラのお母様の目は緑色でした。ガオガエンの目は紫色じゃない? 」

ゼフィラのお母様の色が違うのか、それともゼフィラの目の色が違うのか分かりません。
駄目ですね、情報が少なすぎます。
けど、ゼフィラに直接訊くのはちょっと…。

「…今は忘れることにしましょう。まだ夜明け前ですし、もう少し休みますか。」

再び毛布を被って横になる。
勿論リングルは離しません。
またお母様の記憶の断片を視てしまうかもしれない、という懸念はありますが、実はちょっとだけ視てみたいという気持ちもあったりします。

―好きなポケモンの過去を知りたいのは独占欲の現れらしいわよ―

ふと、昔そうカネレ団長に言われたことを思い出しました。
ぐふっ、なんか心にダメージが…。
や、やっぱりリングルは近くに置くだけにしておきましょう。
波導を制御出来るようになるまで早く体力を回復させなくては!
そんでもって元気になったらゼフィラに告白するのです!
目標を改めて確認し、私はまた眠りにつきました。





あれから二週間ほど、経ちました。
私の体調は大分良くなり、もう歩けるほどに回復しました。
波導の力もちゃんと制御出来ます。
リザードンやズルズキンに会っても平気ですし、心のほうもかなり落ち着いてきたみたいです。
まだ外出はカネレ団長に止められていますので、していませんけど。
なので今はカネレ団長の補佐として仕事中です。
カネレ団長、探索や救助の後処理を全部一人でこなしていますので、結構多忙なのです。
補佐をやってみて改めて実感しましたね。

「あの…カネレ団長。」


「なーに?」

「ちょっと相談があるのですが、いいですか?」

「相談の内容にもよるわね。とりあえず言ってみて。」

「その…ゼフィラにお礼がしたいですが、自分ではいいものが思い付かなくて…」

「ああ、成る程。」

この二週間、ゼフィラは三度私に会いに来て下さりました。
その度に何かを持って来て下さった。
最初は香りにリラックス効果がある、ということで花を。
二度目は固形物が食べられるようになったからと珍しい木の実を。
三度目は来る途中に売ってたからと言い、紅茶のクッキーを。
どれも有り難く受け取りましたが、その度に頂いてばかりなのが申し訳なくて…。
助けてもらった恩もまだ返していないのに、心苦しかったのです。

「気にしすぎよ。ゼフィラ君は見返りなんて求めてないと思うけど?」

「ですが…」

「はいはい、ウィルは本当に真面目だこと。そうか、お礼ね。ウィルのことだからウチの男性陣には訊いてみたんでしょ?」

「はい。でもあまり参考にならなくて…。」

「…どこかの馬鹿は体とか言ったんじゃない?」

「言いました。」

「あのエロザメ、後で半殺しにしておくわ。」

サメハダー、カネレ団長による処刑決定。
アディオス、貴方のことは忘れません。

「ぶっちゃけウィルが悩んでいる理由は、ゼフィラ君が好きなものを知らないからでしょ?」

「…はい。」

そうなんですよね。
私とゼフィラが会ってから一ヶ月以上経つんですけど、私ゼフィラの好きなものも嫌いなものも一切知らない。
そういう類いの会話もしたことがありません。

まさかここに来て日常会話をほとんどしていないが故の弊害が出るとは思いませんでした。

もうちょっと気にしていたらここまで悩まなかったかもしれないのに…。

 

「無理に考えなくても自分が送りたいものでいいんじゃないの?」

 

「それも考えたんですけど、いいのが思いつきませんでした。」

 

「あーら、これは重症ね。嫌われたくないって想いも多少ありそうだけど、もうちょっと柔軟に考えてみたら?」

 

「うーん…」

 

柔軟にと言われても余計に悩んでしまいます。

あれだけ世話になっているのですから、やっぱりゼフィラが喜ぶものを送りたいです。

一応これなら喜ぶんじゃないかと思ったものはあるのですけど、疑心のほうが強い。

 

「ねえウィル、いいこと思いついたんだけど!」

 

「いいことですか?」

 

「そう! 好みが分からないなら聞けばいいのよ!」

 

いや、だからそれが出来ないから悩んでいるのですけど。

今ここでゼフィラにそれを訊いても「なんでそんなこと訊くんだ?」と聞き返されるのがオチです。

 

「勿論、普通に訊くんじゃないわよ。」

 

「はい?」

 

「買い物がしたいけど、まだ怖いから一緒に買い物に付き合って下さい! とでも言ってゼフィラ君と一緒に出掛ければいいじゃない。そこで買い物ついでにあれやこれや訊けばいいの!」

 

うん? うん、うん!?

一緒に出掛ける? 出掛ける!?

待って下さい、それってもしかしなくても…。

 

「簡単に言えばデートに誘いなさいってことよ。」

 

「で、デート!?」

 

予測はしていたハズなのに、確信に変わったら自分でも驚くほど大きな声が出ました。

ゼフィラとデート!?

そんなこと考えたこともありませんでした。

確かにデートしている時なら仕事とか勉強とか気にせずに会話が出来るかもしれません。

しかし、私にゼフィラをデートに誘えるのかという問題があります。

 

「む、無理です。とてもじゃないですが、私には…」

 

「大丈夫だって。とりあえず言ってみなさい、ゼフィラ君OKしてくれるかもよ。」

 

「ううう…」

 

私にそんなこと言えるでしょうか?

どうしましょう、不安しかないんですけど。

でも、やれるだけやってみますか。

 

 

翌日、引き続きカネレ団長の補佐の仕事をしていました。

ですが、今日は色んな意味で緊張していて正直仕事に集中出来ていません。

彼が来ることを前もって知っていたからです。

 

「ウィルー、ゼフィラが来たぞー!」

 

玄関からサメハダーの声が聞こえました。

あああ…、ついに来てしまった。

 

「ほら、ウィル。駄目元でもいいから誘ってみなさい。」

 

「わ…かりました…」

 

実は昨日の夕方、ノワルーナが尋ねてきてゼフィラが「明日様子見に行く」と言っていたと伝えに来たのです。

たまたま近くに寄ったからという理由だそうですが、嬉しかったんですけどカネレ団長と話した後だったので緊張のほうが強かったです。

ゼフィラをデートに誘うなんて事、私に出来るでしょうか?

とりあえずゼフィラの元へ向かいましょう。

お待たせするのも悪いですからね。

 

「来て下さり、ありがとうございます。」

 

「よう、大分良さそうだな。」

 

5日振りにお会いするゼフィラも元気そうで良かったです。

相変わらずあまり表情は動きませんけど。

どうやら調査団の皆さんにはかなり無表情だと言われているみたいです。

 

「じゃあ俺様はもう行くぜ。依頼入ってるしな。」

 

「はい、行ってらっしゃいサメハダー。」

 

サメハダーは痛む体を庇うように出発しました。

カネレ団長も行動が早いですね。

 

「…なんであのサメハダーは傷だらけなんだ?」

 

あまりのサメハダーの痛々しい姿に流石のゼフィラも突っ込んだ。

 

「えーっと…私に失礼なことを言ったので、カネレ団長の鉄拳制裁が発動したんです。」

 

「意味が分からん。」

 

ですよねー。

でもそうとしか表現が出来ません。

 

「ウィル。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「これやるよ。」

 

ゼフィラが私に何かを投げてきました。

慌ててキャッチすると、それはバッグに入るほどの小さな本でした。

開いてみると、なんとヒラガ文字の解説がびっしりと書かれていました。

 

「お前が持っていた参考書、戦っていた時に燃やしてしまったからな。手書きで悪いが…」

 

「え!? ゼフィラが書いて下さったのですか!?」

 

「ああ、ちょっと時間かかってしまったけど。」

 

なんですと!?

ヒラガ文字って書くのも大変なのに、この量を全て手書きして下さったなんて…。

しかも前の参考書よりも詳しく書いてあります。

 

「ほ…本当に頂いていいんですか?」

 

「そのために書いたんだ。遠慮するな。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

どうしましょう。

頂いてばかりだからお礼がしたいと悩んでいるのにまた頂いてしまった。

嬉しいけど、それ以上に申し訳ない気持ちになる。

やっぱり頂いてばかりなのは私の性に合わない。

ここは恥じる心を捨てて、いざ!

 

「ゼフィラ。」

 

「なんだ?」

 

「あの…実は買い物に行きたいんですけど、まだ少し怖くて…それでゼフィラに付き合って欲しいのですが…」

 

よし、言えました!

完全にカネレ団長が言っていた台詞そのままですけど。

 

「何故俺に? 調査団の仲間でもいいだろ?」

 

「ああ、いえ…調査団の皆さんはちょっと用事があって…」

 

「ふーん…」

 

ううう…ゼフィラの声が無関心の時に発せられる時のトーンに近い。

これは駄目だ、断られる。

 

「や、やっぱりいいです! 無理言ってごめんなさ…」

 

「別にいいよ。」

 

「え!?」

 

一瞬ゼフィラが言っていることが理解出来ませんでした。

 

「今日は駄目だけど、明日ならいいぞ。直接ここに来ればいいか?」

 

「…あ、はい。お願いします…」

 

「明日もこの時間に来るから、それまでにウィルも準備しておけよ。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

「じゃあ、また明日な。」

 

「はい、また明日…」

 

呆気である。断られると思ったので頭がついていきません。

高難度だと思っていたのに、なんともあっさりゼフィラとデートすることが決まってしまいました。

ゼフィラは多分デートだとは思っていないでしょうけど。

 

「これ以上のことは明日考えましょうか…。とりあえずカネレ団長に報告しましょう。」

 

カネレ団長にデートに行くことが決まったと言うと、自分のことのように喜んで下さいました。

サーナイトにも伝えると「デートプランくらい考えなさい」と言われ、私とカネレ団長、サーナイトで仕事そっちのけで考えることになりました。

後は明日ですね。

ちょっと緊張しますけど、楽しみです。

もし可能なら、ゼフィラに気持ちも伝えたいですね。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第19話~デート当日~

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◇◆◇◆


「ウィル大丈夫?」

「あ、あまり大丈夫じゃないです。緊張して…」

高難度だと思われていたゼフィラをデートに誘うというミッションがあっさりと成功してしまい、ほとんど心の準備が出来ないまま当日を迎えてしまいました。
ぶっちゃけあまり眠れませんでした。
楽しみでワクワクしてという理由ではなく、ちゃんとゼフィラが喜んでくれるお礼を用意出来るのか、しっかり自分の気持ちを伝えられるのか、そんなことばかり考えていたからです。
ううー、緊張します。
ゼフィラと二人っきりになったことなんてほとんどないので余計。
大体、ノワルーナがいましたからね。
あまりにも緊張するから、今日もノワルーナがいてくれないかなーとか本末転倒なことまで考えてしまってます。

「ウィル、ゼフィラが来ましたよ。」

ムクホークがゼフィラが来たことを伝えるために、部屋まで来てくれました。

「ムクホーク、あの…ノワルーナはいましたか?」

「いいえ、ゼフィラだけでしたよ。それがどうかしましたか?」

オーノー!
いて欲しかったのに…。
緊張で動悸が大変なことになっていますけど、もう腹をくくるしかないですね。

「ウィルは初めてのデートですし、緊張されるのも分かります。ですが難しく考えずにいつも通りに接することが大事です。変に自分を良く見せようとするのは逆によくありません。これは私(わたくし)の実体験からのアドバイスですよ。」

ムクホークが私が少しでも落ち着けるように、優しく語りかけて下さいました。
ちょっと緊張で頭がゆで上がりそうだったので、ありがたいです。

「あ、ありがとうございます。」

「さぁ、御相手を待たせるのは失礼ですよ。早く行きなさい。」

「そうそう、楽しんでらっしゃいね。」

「はい!」

ムクホークとサーナイトに押され、玄関へ向かいました。
いつもより足取りが重いですが、頑張れ私!

「お待たせしました。」

「よう、ウィル。」

ゼフィラの姿が見えたら更に緊張が高まりました。
倒れませんよね私。
い、意識を集中させてなんとか耐えるのです。
ここで倒れたら一生の恥になってしまう!

「大丈夫か? 久しぶりに外に出るから緊張してるみたいだな。」

私がえらく緊張しているのに気が付いたゼフィラが近付いてきました。
確かに久しぶりの外出なので、それで緊張しているのもありますね。
一番はゼフィラとデートすることにですけど。

「す、すみません。私からお誘いしたのに…」

「気にするな。でも本当に怖かったらすぐに言ってくれ。無理する必要はないからな。」

ゼフィラが私の緊張を和らげるためなのか、頭を軽くポンポンと撫でて下さいました。
それがとても嬉しくて緊張が少し薄れました。

「そういえば何を買うかとか聞いてなかったけど…」

「あ、えーと、たいしたものではないのですけど、インクと後ノートです。」

これは嘘ではなく、本当に必要だったものです。
近々買いに行こうと思っていました。
頼んでも良かったんですけど、やっぱり自分のお気に入りのものは自分で買いたかったのです。

「じゃあ文具店か。たしか大通りのところにあったな。」

「はい、マフォクシーのお店です。」

「よし、そこに行くか。」

「はい、お願いします。」

と、いうことで大通りに向けて出発です。
並んで歩くのは流石に恥ずかしいから、ゼフィラの少し後ろを歩きましょう。
そう考えていたのですが、ゼフィラが私の歩幅に合わせて歩いて下さっていたので、自然と並んで歩く形になりました。
うわーん、どうしてこうなるのですか!?
めっちゃ恥ずかしいんですけど!
ゼフィラは全く気にする様子なく歩いてるのに。
ちらりと横に目をやり、ゼフィラを見ます。
太陽の光に照らされて、赤い毛並みが更に鮮やかに見えます。
とても綺麗です。
そういえば、あまり外でゼフィラをお見かけしたことがない。
大体お会いしていた場所は図書館や、調査団などの屋内でした。
太陽の光だと、もっとに綺麗に見えるんですね。

「なんだ? ジロジロ見たりして。」

私の視線に気付いてゼフィラが声をかけてきました。

「いいえ、ゼフィラは本当に綺麗だなーと思いまして……あっ。」

アホですか私は。
何をまたドストレートに言っているのでしょう。
ほら、あまりにもドストレートに言うものですからゼフィラが固まってるじゃないですか。

「…ウィル、前から言おうと思っていたんだが、俺は綺麗じゃないぞ。」

調査団の皆から無表情だと言われる顔が完全に引き吊っていました。
そこまで引き吊らなくてもいいと思いますけど。
うん、ここは私が思っていることを素直に言いましょう。

「綺麗じゃないですか。」

「はぁ? 何処が?」

「まず、黄金の波導が綺麗ですし、逞しく引き締まった筋肉も美しい。まさに肉体美です。それを引き立てるような黒色の模様もそうですし、赤い毛並みもとても綺麗です。今だってその毛並みが太陽の光に照らされて鮮やかに輝いていたから見とれていたんです。私はゼフィラの顔を見る時、必ず見上げる形になってしまうのですが、その時に見える全体のスタイルも綺麗ですよね。それでいて紫水晶の瞳は、それに負けないくらいの美しさがあります。」

「え? ちょっ…」

「それから、綺麗ではなく可愛いという表現に変わりますが、時折見せて下さる笑った顔はとても愛らしく、ずっと見ていたくなりますね。小さな耳も可愛いし、掌(てのひら)の肉球も可愛い。後は…」

「ま、待て待て! もう言わなくていい!」

「あ、その尻尾も可愛いですよね。」

「だからもういいって言ってるだろ!」

ゼフィラが私の肩を掴んで止めてきました。
えー? まだあるのに、と思ってゼフィラを見ると、ゼフィラの顔が見たこともないほど真っ赤になっていました。
必死に隠そうとしていますが、間違いなく照れていますね。

「ふふふ、照れていらっしゃる顔も可愛いですよ。」

「だ、か、ら! もう言うなって…」

余程照れているのか、手で顔を覆っています。
ゼフィラがここまで動揺しているところは初めて見ますね。
本当に可愛い。

「…今また可愛いとか思っただろ?」

「はい、思いました。」

「いやいや、おかしいだろ!? 進化前なら分かるけど、ガオガエンの姿が綺麗とか可愛いとかお前正気か!?」

「私は至って正気ですよ。失礼ですねゼフィラは。」

「しつ!? …も、もういい。好きなように考えてくれ…。」

「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。甘えるついでに先程言えなかった続きを言ってもいいですか?」

「いや、止めてくれ…頼む。流石に頭が沸騰しそうだ。」




その言葉通り、ゼフィラは更に顔が真っ赤になっていました。
体毛で分かりにくいですけど、恐らくオクタンよりも赤くなっているのではないでしょうか?

「やっぱり言われ慣れていませんか?」

「当たり前だろ。カッコいいくらいなら言われたことあるけど、綺麗だとか可愛いなんてニャビーの時以来ねぇよ!」

ニャビー?
聞いたことのない名前ですが、流れ的にガオガエンの進化前ですよね。
夢で視た、あの猫ポケモンがもしかしてニャビー?

「ニャビーがガオガエンの進化前ですか?」

「俺の種族は三段階進化なんだ。ニャビー、ニャヒートと進化して最後がガオガエン。」

成る程。となると、やはり夢で視たあの猫ポケモンがニャビーですか。
もしニャヒートなら、もう少し大きいハズです。
進化して小柄になるポケモンはたしかいなかったと思いますしね。

「ニャビーの時のゼフィラは可愛いかったですか?」

「あー…。た、多分…それなりには…」

ゼフィラの声が段々小さくなっていきます。
これは照れているのと、恥ずかしいのと、言われ慣れていないのがトリプルセットでゼフィラを襲っていますね。
うん、やっぱり可愛いです。
今それを言うとゼフィラは恐らく逃げるので言いませんけど。

「この話止めていいか? ていうか無理! もう限界! 駄目だ、恥ず、かし…ぃ…」

わお、言わなくて正解でしたね。
もし言っていたらデートどころではなくなっていたでしょう。
怒ることはないと思いますけど、どんな行動をするのか予測が出来ませんのでね。

 

「分かりました。では心の中で思うだけにします。」

 

「本当はそれも止めて欲しいんだけど、まぁいいや。さっきそう言っちまったし…」

 

ゼフィラが平常心に戻ろうと深呼吸をし始めました。

相当恥ずかしかったみたいですね。

気持ちは分かりますので、これ以上は言わないでおきましょう。

 

「はぁー…。しかし俺、恥じらう心はまだ残ってたんだな。それもなくなったもんだと思ってた。」

 

「え?」

 

心が、なくなった?

どういう意味ですか?

 

「ゼフィラ、それは一体…」

 

「あ、ああ、すまん。俺長い間ずっと一人でいたから感情が欠けているみたいでよ。自分の気持ちにも、誰かの気持ちにも鈍いんだ。」

 

感情が欠けてしまうほど長い間って、一体どれくらいなのですか?

駄目です、想像出来ません。

もしかしてあまり表情が動かないのも、時折酷く無関心になるのもそのせい…?

 

「ゼフィラは、感情が欠けたそのままの状態でいいのですか?」

 

「別に困ってないし、今更取り戻そうとは思わない。困ってないって事はいらないものなんだろうからな。」

 

頭の中を鈍器で殴られたような衝撃が走りました。

そんな…。感情が欠けているのにいらないなんて…。

でもゼフィラの波導から、本当にいらないと思っている事が分かります。

 

「どのような感情でもいらないものなんてありません。確かに感じてしまうと苦しい感情もありますけど、それでも何も感じない人形よりずっとマシです。」

 

本当に何も感じなければ、容易く誰かを傷つけてしまう。

自分が何をしようが、関係なくなる。

そうなれば私を襲ったヘルガーと同じ存在になってしまいます。

私が愛している方がそんな風になってしまうのは嫌です。

 

「何も感じなくていいよ。俺にはそんなもの感じている時間なんか必要ない。」

 

それを聞いて私は、カチン、となりました。

必要ないですと?

ほほう、ならば私にも考えがあります。

 

「…ゼフィラ。」

 

「ん?」

 

「いやー、ゼフィラって本当に綺麗ですよねー。さっき言い損ねたんですけど、頬のふっさふさの毛並みも素敵です、」

 

「え!?」

 

もうあえてカッコいいとは言いません。

ここは全力で責めます。

 

「あぁ、でもあまりにふさふさですので可愛いとも言えますね。そう、可愛いと言えばゼフィラが本を読んでいる姿も可愛いですね。ギャップ萌えというものでしょうか、最初は驚きましたけど今ではとても可愛く感じます。」

 

「ちょっと待て! もうこの話は止めろって言っただろ!?」

 

「ナンノコトダカ、サッパリ分カリマセンネ。」

 

「いや、分かるだろ! なんで掘り返すんだよ!」

 

「うん、やっぱり照れていらっしゃる顔も可愛いですよ。」

 

「だから止めろって言ってるだろ!!」

 

「何故止めなければいけないんですか? 今し方ゼフィラは何も感じなくていいとおっしゃられたのですから、私が言っていることに関心などないのでしょう?」

 

「うぐ!?」

 

ゼフィラがまさに、痛いところを突かれた、という感じの顔になっています。

意地悪をしている自覚はありますけど、止めません。

 

「そうですね、仕草も可愛いです。ゼフィラって気まずくなると頭を掻くクセがあるみたいですし、それもまた可愛い。あ、そういえば抱き締められている時に気付いたんですけど、ゼフィラってちゃんと清潔にしていらっしゃいますよね。毛並みツヤツヤですし、いい匂いもしましたからゼフィラ結構綺麗好きですよね。見た目そうは思えませんけど、これもまたギャップ萌えの一つですね。」

 

「あ…あの、本当にもう止めてくれ…」

 

「それとノワルーナから聞いたんですけど、ゼフィラって眠るとき丸くなるんですよね? それも可愛いですよ。」

 

「ノワルーナァァァァアアアア!!! アイツ何喋ってんだよ! ふざけんな!!!」

 

「その反応だと本当に丸くなって眠るんですね、ちょっと半信半疑でしたけど。大きくなっても猫ですね、可愛いです。」

 

「ウィル、マジで止めてくれ! 頼む!」

 

「ゼフィラは何も感じないのですから、無視していればいいじゃないですか。それで問題ないのでは?」

 

「無視したくても出来ねぇんだよ! 聴覚が良すぎるから耳を塞いでも意識逸らしてても聞こえるんだ! だから止めてくれって!」

 

「恥ずかしさの余り、パニック状態になるゼフィラも可愛いですね。ずっと見ていたくなります。」

 

「あーー! 分かった、前言撤回するから! お願いだから止めてくれ! いや、お願いします本当に止めてください! 俺が悪かった、だからもう勘弁してくれ…」

 

どうやら本当に限界に達した模様です。

顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまいました。

ふっ、これは勝ちましたね。

でもこれで終わりませんよ。

恥ずかしさの余り、完全に無防備になっているゼフィラにちょっと追い打ちです。

いつもなら出来ませんが、しゃがんでいる今なら出来る。

ゼフィラの顔に抱きつきます。

あー、頬のふさふさの毛、初めて触りましたけど気持ちいいです。

 

「お前は何をしているんだ…」

 

ゼフィラがドスのきいた声で訊いてきました。

全然怖くないですけど。

 

「いいえ、ゼフィラがとても可愛いので、抱きつきたくなったんです。」

 

「ウィル、もう可愛いとか言わないでくれ、何でも言うこと聞くから…」

 

「うん? 今何でもって言いました?」

 

「ああ。」

 

「ではもう自分の心をないがしろにするようなことは言わないで下さい。して欲しくもありません。色んな事を感じていた方が生きていて楽しいですよ。」

 

「…別に楽しくなくていい…」

 

「あー、ゼフィラって可愛いー」

 

「ぐっ!? わ…分かった、分かったから。二度と言わないし、しないから…」

 

「約束ですよ?」

 

「なるべく守るようにする。」

 

「そこは絶対と言って下さいよ。」

 

「いや、確約は出来ない。」

 

「ゼフィラの耳も初めて触りますねー。可愛いです-。」

 

「絶対に守ると約束します! …こ、これでいいか?」

 

「はい、よく出来ました。」

 

完全勝利です!

実力では100%勝てませんけど。

 

「そろそろ離れてくれ。いつまで抱きついているんだ。」

 

「ふふ、すみません。」

 

離れてくれと言いつつ、力尽くで引き剥がそうとしないゼフィラ。

やはり優しいですね。

感情が欠けていてもこうなのですから、感情が全て戻ったらどうなるのでしょう?

 

「と、とりあえず行こうか。時間勿体ねぇし…」

 

「はい、よろしくお願いしますね。」

 

では改めて大通りに向かいましょう。

今のところお礼とは真逆のことをしていますけど、ゼフィラが喜んでくれるものを見つけるのがメインのデートですので、気合い入れて頑張りますよ!

 

 

 

はい、というワケで大通りにやってきました。

やってきたんですけど、街のポケモン達の視線が凄く気になります。

なんでこんなに視線が私達に向いているのでしょう?

と、考えたら大変なことを思い出しました。

 

「そういえば噂になってたんでしたっけ?」

 

そうです。デートのことで頭が一杯ですっかり忘れていますけど、私とゼフィラのこと噂になっていたんじゃないですか!

ドリュウズから聞いた話だと大体の噂の内容は「今まで真面目しか取り柄がなかった調査団の若手に彼氏が出来た」らしい。

誰が、真面目しか取り柄がない、ですか!

当たってるんですけど、もう少し言い方があるでしょうに。

チラっとゼフィラを見ます。

はい、全く気にしてませんね。

聴覚がいいのでヒソヒソ話も聞こえているハズなんですけど、相変わらず無表情です。

うーん…感情が、心が欠けているからでしょうか?

どの程度欠けているのかまでは分からないですけど、やっぱり悪影響は出ていそうですね。

私に治してあげられたらいいのですが…。

 

「ウィル、そのまま行くと通り過ぎるぞ。」

 

「あ、すみません。」

 

危ない危ない。

考え込みすぎてお店を通り過ぎるところでした。

ゼフィラに感謝しなければですね。

普段から感謝しっぱなしですけど。

 

「いらっしゃい。あらウィルちゃんじゃないの、久しぶりね。」

 

「お久しぶりですマフォクシー。いつものインクとノートを買いに来たんですけどありますか?」

 

「あるわよ、ちょっと待っててね。あ、そうだウィルちゃん。」

 

「はい、なんでしょう。」

 

マフォクシーがちょいちょいと手招きしているので、近付きます。

そして近付くとマフォクシーが耳打ちをしてきました。

 

「後ろのポケモンが件(くだん)の彼氏?」

 

「ぶふっ!?」

 

ちょっとは予想しましょうよ私。

あれだけ噂になっているのですから顔見知りのポケモンに訊かれるのは当然でしょうに。

 

「いえ、違います。お世話になっていますけど、私の彼氏ではありません。」

 

「あら、そうなの? パッと見た感じお似合いの番(つがい)だったけど、ぶっちゃけそうなって欲しいんじゃなーい?」

 

「うっ…」

 

実際なって欲しいという気持ちは大いにあります。

というかマジで私ゼフィラ以外好きになれそうにない。

他の男性を見ても何も感じないし。

以前ならカッコいいくらいは感じていましたけど、今現在それさえも皆無。

告白しても振られるんだろうなー、と思っていても駄目です。

 

「…これくらい…」

 

声に出すと絶対ゼフィラに聞こえるので、手で示します。

まぁほぼほぼ100%ですね。

 

「やっぱりそうなのね。気持ち伝えたの?」

 

「いえ、まだです。」

 

「じゃあさっさと伝えておいたほうがいいわよ。私の妹、グズグズしていたら他の子に取られちゃったから早いほうがいいわ。まぁウィルちゃん次第だけど。」

 

他のポケモンに取られるか、それは嫌ですね。

うん、やっぱり今日頑張って伝えましょう。

振られるかも、というのは一応頭には置いておいて。

 

「おっと、お品もののこと忘れそうになっていたわ。今持ってくるわね。」

 

「はい、お願いします。」

 

待っている間そっと後ろを振り返ってゼフィラを見ます。

すると、バッチリ目が合ってしまいました。

 

「何だ?」

 

「え!? いや…」

 

まさか目が合うと思っていなかったからちょっと気まずい。

な、何か会話をしなくては!

何でもいいから何か…

 

「ゼフィラは…この後何か予定はありますか?」

 

「特にない。」

 

「あの…よろしければもう少し付き合っていただけませんか? ちょっと探したいものがありまして…今は言えないんですけど。」

 

「別に構わない。」

 

「あ、ありがとうございます。ではこの後ガルーラカフェに寄ってもいいですか?」

 

「ああ、いいよ。」

 

ほっ、気まずかったからちょっとぎこちなかったけど、なんとか会話になりました。

それを物陰から見ていたマフォクシー。

ヤバい、今度は私が恥ずかしい!

 

「マフォクシー、あの…」

 

「お待たせ、これがお品ものね。おまけしておいてあげるから頑張りなさい。」

 

「はい、ありがとうございます…」

 

マフォクシーには気付かれている気がしますね。

エスパータイプ恐るべし。

何でこんなに鋭いんでしょうか。

それ言ったらフェアリータイプも鋭いんですけどね。

 

「じゃあ行くか、ウィル。」

 

「はい、ゼフィラ。」

 

よし、ではガルーラカフェに向かいますか。

久しぶりに行くので楽しみです。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

真面目回になるかと思ったらギャグ回になりました。

by作者

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第20話~花の名前~

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ゼフィラの名前考えるのに丸一日かかったぜ!


◇◆◇◆


「ゼフィラは何がいいですか?」

宣言通り、立ち寄ったガルーラカフェで軽く食事をしようとメニュー表を見ます。
ガルーラカフェは普段から良く利用するので、どんなメニューがあるか把握しています。
にもかかわらず、メニュー表を見ているのはゼフィラの好物を知るためです。
こういうところでわざわざ自分の嫌いなものを頼む方なんていませんからね。

「あまり腹は空いてないんだが…」

「何か食べてこられたのですか?」

「いや、違うけど。まぁ食べられないワケでもないし、じゃあこれで。」

ゼフィラが選んだのはマトマの実を使ったサンドイッチでした。
と、いうことは辛いものが好きなのですね。

「ゼフィラ、モモンの実のプリンも召し上がりませんか? ここはそのプリンが絶品なんです。」

「いい、甘いものは得意じゃないんだ。」

おっと、苦手なものまで判明しました。
甘いものは駄目ですか…。
ここのプリンは美味しいのに残念です。

「分かりました。頼んで来ますね。」

「あ、俺が行くぞ。」

「いえ、私に行かせて下さい。お金も私が払いますので。」

「そうか? まぁウィルがそう言うなら頼んだ。」

今まで散々助けて貰っているので、これくらいせねば私の気がすみません。
ではガルーラのところへ注文しに行きましょう。

「久しぶりだねウィル。ちょっと見ないうちに彼氏が出来ていたなんて、やっぱり年頃の女の子だこと。」

ここでもですか。
ていうか、ぎゃー! 止めて下さい!
ゼフィラに聞こえてしまいます!

「ち、違います。彼は…その、今日は私のボディーガードを頼んでいまして…」

「おや? そんな感じには見えなかったけど、まぁウィルがそう言うならそうってことにしておくよ。じゃあ注文を聞こうか。」

「はい、ではこれをお願いします。」

軽食と飲み物頼みます。
今日は混んでいないので、すぐに注文した品物が出てきました。
お金も払いましたし、ゼフィラが待っている席に戻りましょうか。

「お待たせしました。」

「ああ、ありがとう。」

では、早速久しぶりのモモンの実のプリンを頂きましょう。
うん、やっぱり美味しい!
ゼフィラにも召し上がって頂きたかったですが、甘いものが苦手なポケモンにはちょっと甘すぎますよね。

「随分と美味そうに食べるな。」

サンドイッチを食べながら不思議そうに私を見るゼフィラ。
そんなに美味しそうに食べてますかね?

「久しぶりに食べたからでしょうか? ゼフィラも召し上がりますか?」

「んー、甘いものはちょっと…」

「では一口だけ。」

「まぁ一口なら…」

やった! と、思ったのもつかの間。
あれ? スプーン一つしかないのにどうやって召し上がるのでしょう?
ガルーラのところから貰ってくる?
否、ゼフィラにそのような行動をとる気配が見られない。
その時、スプーンを持っている私の手にゼフィラが触れました。
そしてその手を自分の方へ引いて行きます。
何をするのかと思った次の瞬間。
食べようとスプーンに盛っていたプリンをゼフィラが口にしました。

「へ!?」

「うん、美味いな。俺にはちょっと甘すぎるけど。」

一瞬何が起こったのか分からず硬直してしまいました。
えーと、ゼフィラがプリンを召し上がりました。
それはいいです。
では、どうやって召し上がったのか?
私が手にしていたスプーンから…。

「ゼ、ゼ…ゼフィラ。」

「ん?」

「か、かかか…か。」

「か?」

「間接キス…」

はい、私はすでに半分ほど食べていたので間違いなく間接キスです。
ありがとうござ、じゃなくて、何してるんですかゼフィラァァァァ!!

「は? …ああ、言われてみればそうだな。」

「いや、言われなくても分かるでしょう!?」

「悪い。全くそういうこと考えてなかった。」

「えぇ!?」

全く考えてなかったって、そんなのありですか!?
あれですか? 心が欠けている影響!? そうなんですか!?
もしそうなら早いところなんとかしないとヤバくないですかそれ!
ゼフィラが何とも思っていなくても私の心臓が保ちません!
ほら、ガルーラがなんかニコニコしながらこっち見てますから!
というか今カフェにいるポケモンが皆、こっちを見ていました…。

「あー…悪かったな。やっぱ感覚とかも鈍いみたいだ。」

「そ、そういう問題だけじゃないと思いますけど…」

ただでさえ噂されているのに、これでは更にその噂が広まってしまいます。
とりあえず早めにカフェを出たいです。
視線がとっても痛いので…。



逃げるようにカフェを出た後、再び大通りをゼフィラと共に歩きます。
しかし、どうしましょうか。
カフェを出た後のことを全く考えていませんでした。
一応カネレ団長とサーナイトとでデートプランを考えてはいたのですけど、もうすでに予定外のことが多発していてプランも何もあったものではなくなってしまいました。
何か気軽に立ち寄れそうなお店とはないですかね。

「ウィルー。」

「はい。」

誰かに呼ばれて振り返るとフラージェスがいました。
花屋を営んでおり、幼い頃からお世話になっているポケモンです。
ちょっと駆け足でフラージェスの花屋へ向かいます。

「お久しぶりですフラージェス。」

「ええ、久しぶりね。サーナイトから酷い怪我をしたと聞いていたから心配していたのよ。」

「ご心配をお掛けしてしまいすみませんでした。もう大丈夫ですから。」

「そうみたいね。でも病み上がりなんだから無理したら駄目よ。」

「はい、ありがとうございます。」

フラージェスは相変わらずお母様みたいで接しやすい方ですね。
実際二人お子様がいらっしゃいますし、当然と言えば当然ですけど。

「ガオガエンも先日はどうも。役に立ったかしら?」

「ああ、助かったよ。」

あれ? ゼフィラとフラージェス、顔見知りなんですか?
え? 一体どこで?

「フラージェスは彼を知っているのですか?」

動揺して思わず尋ねてしまいました。
声も震えていて、かなり分かりやすく動揺しています。

「この間彼ね、白い薔薇はあるか? って尋ねてきたのよ。丁度あったから彼買っていったの。」

 

「白い薔薇って…」

 

そうです。白い薔薇はゼフィラが私を見舞いに来たときに「リラックス効果があるから」と持ってきて下さった花。

フラージェスのお店で購入されていたんですか。

私のためにわざわざ探して…?

 

「あら? その反応は…もしかしてウィルのために白い薔薇を探していたの?」

 

「まぁな。ウィルが少しでも落ち着ければと思って。」

 

「ふふふ、初々しいわね。噂でも聞いていたけどお似合いのカップルだこと。」

 

「は?」

 

わー! ヤバいです、フラージェスも噂を耳にしていました!

マフォクシーもガルーラも知っていたのですから当然ですけど。

 

「何のことだ? 俺とウィルはそんな関係じゃないぞ。」

 

無表情で返すゼフィラ。

まぁ、そうですよね。

分かっていましたけどショックです。

 

「そうなの? でもそう見えたわよ。今日だってデートしているんじゃないの?」

 

「俺はウィルの用心棒をしているだけだ。」

 

やっぱりゼフィラはデートだと欠片も思っていなかった。

ええ、それも分かってはいましたけど、かなりショックです。

 

「いくら用心棒でも男と女が二人だけで出掛けていたら、貴方にその気が無くても他のポケモンにはデートしているように見えるのよ。」

 

「そうなのか? それは迷惑な偏見だな。」

 

ゼフィラ、まさかの迷惑発言。

ですよね、デートだとは一切思っていない方にしたら迷惑ですよね。

うう…駄目です、ショックすぎて私の心に深刻なダメージが…。

 

「けど、ウィルのために白い薔薇を買ったり、こうやって用心棒をするくらいにはウィルのこと気にしてるんでしょ?」

 

「…知らない。ただ頭から離れないだけだ。」

 

ん、んんん!?

 

「それを気にしてるって言うのよ。ふふふ、随分と鈍感なのね。」

 

「自覚はしている。」

 

フラージェスとゼフィラの会話に驚きすぎて唖然としました。

的確にゼフィラが思っていることを引き出すフラージェス。

流石、花屋を営んでいるだけあります。

でもゼフィラ、私のこと気にしてくれているんですね。

どうしよう、なんだか凄くドキドキします。

 

「初心ねウィルは。顔赤くなってるわよ。」

 

「え? そうですか?」

 

うわー、やっぱり赤くなっていましたか。

これは気付かれましたね。

私はかなり分かりやすいから仕方ないです

ゼフィラには気付かれていないみたいですけど。

 

「でもゼフィラ、白い薔薇にリラックス効果があるってよく知っていましたね。」

 

とりあえず話題を変えようと話を振ります。

 

「あら、貴方名前持ちなのね。ゼフィラっていうの、素敵な名前だわ。」

 

「あ、ああ。どうも…」

 

ん? なんかゼフィラの反応が変ですね。

確かにゼフィラという名前は私も綺麗だなーと思いましたけど、なんだかフラージェスの笑顔が更に際立ったような…。

 

「お母さんがつけてくれたの?」

 

「そうだ。」

 

「ふーん、じゃあお母さん花が好きなのね?」

 

「ああ、母さんは花が好きだった。」

 

「そうよね。じゃなければゼフィラって名前を息子に付けないわ。」

 

あれぇ? そこでどうして花が好きって発想になるんですか?

実際当たってるみたいですけど。

ゼフィラという名前を聞いて、それでお母様は花が好きだと連想する。

ゼフィラ、花が好き。

え? ま、まさか……。

 

「貴方の名前の由来はズバリ! ゼフィランサス! からでしょ?」

 

「ゼフィランサス?」

 

「そうそう、この花の事よ。」

 

そういうとフラージェスは小さな植木鉢を手にとって私に見せてくれました。

その植木鉢には小さいけど綺麗な白い花を咲かせる植物が植えられていました。

 

「これがゼフィランサスなんですか? とても綺麗な花ですね。」

 

「そうよ、カントー地方では玉簾(タマスダレ)とも言うの。この花の色は白だけど、他にも黄色とかピンク色があるわ。」

 

「このゼフィランサスからゼフィラという名前…なんですか?」

 

と、ゼフィラのほうへ顔を向けると、そこにゼフィラはいませんでした。

何処に行ったのかと思い探すと、花屋から100mほど離れた所に立っていました。

分かりやすいくらいに顔を背けていますね。

 

「あの反応は当たりね。この花が名前の由来で間違いないわ。」

 

「そのようですね。でも何故あんなに離れてしまったのでしょうか?」

 

「んー。多分この花の花言葉のせいかなー?」

 

「花言葉ですか?」

 

花にはそれぞれ花言葉といって象徴的な意味を持たせるため植物に与えられた言葉があります。

有名なのが赤い薔薇の「情熱」という花言葉ですね。

花の名前をつけるのですから、その花言葉の意味を与えるってことと相違ないハズ。

ゼフィラがあんな反応をしてしまうなんて、ゼフィランサスの花言葉ってなんでしょう?

 

「知りたい?」

 

「はい、知りたいです。」

 

「じゃあ、教えてあげるわ。ゼフィランサスの花言葉はね…」

 

「言うな…」

 

100mほど離れた位置にいたゼフィラがいつの間にか戻ってきて、フラージェスの口を塞いでいました。

無表情なんですけど、若干恥ずかしがっているみたいです。

目が泳いでいます。

 

「別にいいでしょ? それに花の名前はもう知られているんだから、今言わなくても調べれば分かることじゃない。」

 

「……」

 

段々とゼフィラの顔が赤くなっていく。

 

「それとも自分の口から伝えたいとか?」

 

「…そういうんじゃない…」

 

「貴方が言わないなら私が言うだけよ? なら自分の口から言った方がいいんじゃないかしら?」

 

「……」

 

無表情なのに顔だけ更に赤くなる。

うん、ちょっと怖いです。

でもそんなに恥ずかしがるような花言葉なんでしょうか?

なんて考えていたらゼフィラがチラッと私に視線を移しました。

そして諦めたように、はぁー、っと深く息を吐くとゼフィラがやっと口を開きました。

 

「…汚れなき愛…」

 

「え?」

 

「俺の名前の由来、ゼフィランサスの花言葉は『汚れなき愛』だ。」

 

な、ん、で、す、と!?

綺麗な名前、そしてその名前の元になった綺麗な花の花言葉が『汚れなき愛』

なんてロマンティックな花言葉なんでしょう。

それは、確かに男性のゼフィラには言いにくいでしょうね。

 

「えーと、お母様は何故その名前を貴方に?」

 

「それは…母さん、俺を産んだせいで体を壊して弱ってしまったから、それで俺がそのこと気にしないようにって…」

 

なるほど、つまりお母様の想いが、愛情が込められた名前だったのですね。

夢で見たゼフィラのお母様は弱っていらっしゃいました。

ゼフィラもお母様のことが大好きだったみたいですから、ゼフィラが自分のせいで大好きなお母様が弱ってしまったと気に病まないように、そのゼフィランサスから名前をということなんですね。

 

「後は母さんがゼフィランサスが好きだったのもあるって言ってた。」

 

「そうなんですか。優しいお母様ですね。」

 

「うん…まぁな。」

 

ゼフィラが頭を掻いていて、ちょっと気まずくなっているのが分かります。

でも言うのが恥ずかしかっただけで、嫌いとかそういうワケではないみたいです。

 

「もしかしてゼフィラのお母様は桜も好きなんですか?」

 

「ん? 何でそう思ったんだ?」

 

「あのリングルはお母様の形見なんですよね。リングルには桜の刻印が彫られていました。よほど桜が好きじゃないと刻印など彫らないと思ったので。」

 

ゼフィラの大切な宝物であるリングル。

大好きなお母様の形見。

その形見に彫られた桜の刻印。

そして夢で桜姫と呼ばれていたこと。

そのことから判断したのですが、間違えてましたかね?

 

「…母さんも名前持ちだったんだ。セレッサという名前でな。」

 

「セレッサ。」

 

「へー、確か『桜』って意味の名前じゃなかった?」

 

「うん、花が好きで…特に桜が。だからセレッサって名前になったって言ってた。」

 

あー、なるほど。

それで桜姫と呼ばれていたんですか。

納得です。

 

「お母さんってガオガエンよね。随分と可愛らしい名前だこと。」

 

「ああ、自分には似合わないってよく言ってたけど、それ以上に気に入ってた。よく皆で桜を見に行ったな。」

 

「常夏のアローラでも桜は咲くのですか?」

 

「咲くよ。じゃなきゃ母さん桜好きにならないって。」

 

「それもそうですね。」

 

そういうとゼフィラの表情が僅かですが動きました。

お母様と過ごされた日々を思い出しているのでしょうか?

その日々はゼフィラの心が欠けておらず、様々な感情を感じていた時。

でも以前お母様のことを話された時、ゼフィラはとても悲しそうな顔をしていたので、思い出すのはもしかしたらゼフィラにとっては苦しいことなのかもしれない。

ちょっと話題を変えましょうか。

その前に訊きたいことがあるので訊いておきましょう。

 

「ゼフィラは…桜好きですか?」

 

「母さんの影響なのか結構好きだよ。」

 

わあ、かなり素直に答えてくれました。

そっか、桜好きなんですね。

桜…。

よし、決めました。ゼフィラに送るお礼を!

売り切れていると困るので早速行きましょう。

 

「ゼフィラ、行きたいところが出来たので、行ってもいいですか?」

 

「ああ、いいよ。」

 

「ありがとうございます! フラージェスもありがとうございました。」

 

「いいえ、よければまたいらっしゃい。ぜひとも二人でね。」

 

「えーと…はい、また…」

 

お礼の品も決まったので、行動あるのみです。

ゼフィラにはちょっと可愛いすぎるかなーとも思ったのですが、心が欠けている今のゼフィラにはピッタリかとも思いますのでね。

後はゼフィラが受け取ってくれればいいのですが…。

 

 

◇◆◇◆

 

 

ゼフィランサスは実際に存在する花です。

『汚れなき愛』『期待』『便りがある』という花言葉があります。

可愛い花なので、気になった方は調べてみて下さい。

 

 


【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第21話~告白~

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◇◆◇◆


私が向かったのは大通りから少し外れた路地にあるお店。
メレシーが営んでいるパワーストーンを扱っているお店です。

「あの…ここで少しだけ待ってて下さいませんか?」

ゼフィラへのお礼の品を買うので、ちょっと内緒にしたい。
見られてもいいのですけど、気分的に。

「分かった。」

「ありがとうございます。なるべく早めに済ませますので。」

ではお店に入ってお目当てのものを探しましょう。
でも以前それを見つけたのって1ヶ月ほど前なんですよね。
まだ残っているといいのですが…。

「あ、あった。ありました!」

見つかって良かったです。
後はパワーストーンを選ぶだけです。
二つパワーストーンをつけられるので二つ選びます。
これと、これにしましょう。
メレシーに頼んでつけてもらいます。
うん、とても綺麗です。
早速ゼフィラにプレゼントしなくては!
場所はあそこがいいですね。

「お待たせしました。ゼフィ…あれ?」

お店に入っていたのは十分ほどなのですが、入口で待っていたハズのゼフィラがいなくなっていました。
辺りを見渡しても、姿が見えません。

「ど、何処に行かれたのですか?」

もしかして待っているのに飽きて、何処かに行ってしまったとか!?
どうしよう、なんだか急に不安になる。

「ゼフィラ…何処ですか?」

徐々にその不安が大きくなり、いてもたってもいられなくなってしまった。
思わず大通りに飛び出した。

「痛!?」

前方不注意です。
全く前を見ていなかったので、大通りを歩いていたポケモンにぶつかってしまいました。

「す、すみません。大丈夫ですか?」

「あー? なんだお前は。」

顔を上げて即座にヤバいと思いました。
私がぶつかったポケモンはミーレタウンで筋金入りの悪と言われていたポケモン。
スカタンクでした。
よりによって関わらない方がいいポケモンにぶつかってしまうなんて。
運が悪いとしか言えません。

「おや? なんだ調査団のルカリオかよ。なんか怪我したって聞いてたけど元気そうだな。」

「え、ええ。でももう治りましたのでご心配なく。それよりもぶつかってしまって申し訳ありませんでした。」

「いやー結構痛かったぜ。肩外れたぞ。お前からぶつかって来たんだから慰謝料払ってくれるんだろうな?」

普通に歩いているので肩なんて欠片も外れていないと思うのですけど。
何度もこういうことをして、カネレ団長から罰を貰っているのに懲りないポケモンですね。
とにかく拗れないうちに早めに終わらせなくては。

「それなら私に非があるのでちゃんとお支払いします。今から医師のところに行きましょうか。」

「んな面倒くさいことしなくていい。ここで俺が言ったポケ払って行けよ、なんならお前の体でもいいぜ?」

「…!?」

スカタンクがずいっと私に近付いてきました。
その瞬間、あの時の…ヘルガーに襲われた時のことが走馬燈のように甦った。

「は…! え? え?」

「あ?」

体が恐怖で震える。
上手く声も出せない。
あの時、ヘルガーに全身を触られた感覚まで思い出してしまい、猛烈な不快感が襲い掛かる。
なんで? もう大丈夫だって思っ…。

「なんだ? 急に震えたりしてよ。もしかして俺に恐怖してんのか? はぁー、調査団の有能な若手でも所詮女か。可愛らしいもんだな。」

スカタンクが更に私に近付いてくる。
それに伴うように恐怖心が強くなっていく。
もう一歩も動けない。
嫌だ、怖い。
近付かないで、お願い…。

「おい。」

「あん?」

「それ以上彼女に近付くな。」

聞き慣れた声が聞こえて目を開ける。
そこには先ほどまでいなかったゼフィラが立っていました。

「ゼ…フィラ…」

「離れてしまって悪かったな。もう大丈夫だ。」

ゼフィラは私にゆっくりと近付くと、私をひょいっと持ち上げて抱きかかえた。
私があの時のことを思い出してしまい、恐怖で動けなくなってしまったことが分かっているのか、また優しく私の背中を撫でて下さった。
気持ちいい。
恐怖心と不快感が消えていく。

「なんだてめぇ! 突然現れて、何者だ!?」

「俺は彼女の用心棒だ。聞こえていたぞ。確かにぶつかったのはウィルの方だが、ウィルはちゃんと謝ったんだ。難癖をつけるな、怪我なんかしていないだろ。」

ゼフィラがスカタンクを睨み付ける。
その形相がまさに鬼のようでした。
流石のスカタンクも怖じ気づいているみたいですね。

「あ…ああん!? いきなり現れてヒーロー気取りかよ! なめやがって!」

スカタンクが尻尾の先から悪臭を放とうと、攻撃態勢に入った。
それを見ていた街のポケモン達は一斉に周りから遠ざかる。
またやるつもりですか。
スカタンクの出す悪臭は本当に酷いですからね。
幾度となく放って街にどれだけ迷惑をかけていると思っているのでしょうか。

「やれよ。」

「は?」

「やってみろ。放つ前にお前の尻尾と胴体を引き離してやる。」

「!?」

ゼフィラは私を抱き直すと、空いている右手をかまえた。
かまえると同時に凄まじい威圧を放つ。
それは今言ったことは本気だという証。
私はゼフィラの実力を知らない。
けど、ゼフィラのこの威圧を感じると本当にそれが出来るのだと認識できる。
きっとこの威圧を感じたポケモン全てがそう思ったでしょう。
威圧を直接向けられたスカタンクは一瞬で顔色が青くなって、その場に力なく座り込んだ。

「…小物だな。これに懲りたら無意味なことはしないほうがいい。」

「な!?」

「ああ、俺に後ろから攻撃するとか考えないほうがいいぞ。後ろから来る場合、俺は手加減しない。死にたくなければそこにそのままいることだな。」

そう言うとゼフィラは私を抱えたまま、スカタンクに背を向けて歩き出した。
いつものスカタンクなら背中を見せた瞬間に攻撃して来るのでしょうが、あの威圧を感じ、そして更に忠告までされては動けないようです。
ん? でも私、初対面の時ゼフィラに後ろから近付きましたよね?
あれは敵意を持っていなかったからセーフだったのでしょうか?

「悪かったなウィル。俺のせいだ。怖かっただろう?」

「え? あ…」

人目を避けるように大通りから路地に入ると、ゼフィラが改めて私に謝りました。

「いいえ、私も不注意でぶつかってしまったので…」

「いや、悪かったのは俺だ。ごめんなウィル。」

私を抱き締める力がわずかに強くなった。
でも決して痛くはない。
むしろ私を気遣って下さっていて、とても心地いい。

「私も驚いたんです。もう平気だと思っていたのに思い出してしまって…。こんなに弱かったかな…私は…」

自分の中では治ったものだろうと思っていました。
でも実際はほとんど治っていない。
さっきまで平気だったのはゼフィラが側にいたからです。
ゼフィラがいなくなった途端不安になってしまうほど、私は不安定だったんですね。

「ウィルは弱いわけじゃない。でも心の傷はそう簡単に治らないものだ。焦るな、ゆっくり治せばいい。」

さっきスカタンクと話していた時とは違う、落ち着いた口調に私はすっかり安心していました。
ずっとゼフィラの腕に抱(いだ)かれていたい。
そう思ってしまう。
そのためにはちゃんと伝えなければ。

「ゼフィラ。」

「なんだ?」

「あの丘の上に行きませんか?」

私が指を指して示したのは、街から少し離れたところにある丘の上。
ミーレタウンを一望出来る、この街の絶景スポットです。

「分かった。」

そう言うとゼフィラは私を抱き抱えたまま歩き出しました。

「ゼ、ゼフィラ。私はもう大丈夫なので、降ろして頂けませんか?」

「何が大丈夫だ。まだ体に力が入っていないだろう。このまま行く。」

えー! マジですかー!?
いや、実際まだ体に力が入らないんですけどね。
でも丘の上に行くには大通りに出ないといけないんです。
ゼフィラに抱き抱えられたまま大通りを行くなんて、恥ずかしさで頭がどうかなりそう。

「せめて大通りを通らないルートを…」

「それだと時間がかかるだろう。 何故そう言う? 大通りに行きたくないのか?」

「いや、だって…恥ずかしい…から…」

「じゃあ顔を埋(うず)めていろ。俺はノープロブレムだ。」

うわーん。
なんでノープロブレムなんですか!
心が、感情が欠けてる影響がこれって半端ないですよ!
普通ならまず出来ませんって!
でも諦めるしか道がない。
私はまだ体に力が入りませんから抵抗が出来ません。
観念してゼフィラの頬から伸びるふさふさの毛に顔埋めて、更に波導の感知を完全にシャットダウンする。
ついでに耳も塞ぎます。
あー…もう泣きたいです。

「そこまでするのか…。分かった、なるべく人目を避けるようにする。」

「…お願いします。」

その言葉通り、ゼフィラは人目を避けるように少し大回りをしてくれました。
それでも何体かには見られてしまってますけどね。
そして、大回りしたため時間がかかり私は結構長い間ゼフィラに抱き抱えられていました。
不謹慎ですけど、とても嬉しかったです。





「ほう、これは中々いい景色だな。」

 

30分ほどかけて丘の上に到着しました。

相変わらずの絶景です。

 

「よくここに来るのか?」

 

「はい、気分転換に来ますね。子供の頃から好きで、カネレ団長に連れてきて貰いました。」

 

いつ見てもこの景色は変わりません。

ここに来ると落ち着きます。

 

「ゼフィラ。」

 

「ん?」

 

「これを受け取っていただけませんか?」

 

意を決して、私は先ほど購入したものをゼフィラに差し出しました。

 

「…これは?」

 

「ゼフィラは桜が好きだとおっしゃっておりましたので、桜の…首飾りです。」

 

それは丸く削られたパワーストーンの回りに円を描くように桜の花と桜の花びらの装飾が施された首飾り。

以前サーナイトとお店を訪れた際に見つけ、とても綺麗だと思ったのですが、ちょっとお値段が高かったので買えなかった。

そして、ゼフィラが桜を好きだと知った時にこの首飾りの思い出した。

それで、ぜひとも桜の首飾りをゼフィラにと買うことにしたのです。

 

「この石は?」

 

「桜の花の中心にある石がアメジストで、真ん中の一番大きな薄桃色の石がモルガナイトです。精神を安定させる効果があるパワーストーンです。」

 

アメジストはゼフィラの目の色から思いつきました。

モルガナイトは桜色をしていたから。

でもモルガナイトを選んだ一番の理由はパワーストーンの効果に「精神的安定を高める」とあったからです。

心が欠けているゼフィラに、少しでも欠けてしまった心が戻って欲しいとの願いを込めて。

そう思ったことを私はゼフィラに包み隠さず話しました。

 

「でも精神を安定させる効果があるならウィルが持っていた方がいいんじゃないか?」

 

「いいえ、これはゼフィラのために選んだのです。いつも助けて貰っていますので、そのお礼です。迷惑でなければ…」

 

受け取ってくれるでしょうか?

男性のゼフィラには少々可愛すぎるとは私も思ったので、いらないと言うかもしれない。

ゼフィラがどのような反応をとるのか分からなくてかなり怖いのですが…。

 

「…ありがとう。」

 

「え?」

 

「俺こういうの貰ったことないからちょっと戸惑っているんだけど、でも嬉しいよ。」

 

ゼフィラがそっと首飾りを手に取りました。

その顔は優しげで、ちょっと引きつっているぎこちない笑顔でした。

嬉しいんだけど、それを上手く表現出来ないという感じですね。

 

「ウィル。」

 

「はい。」

 

「悪いんだけど付けてくれるか? 自分では難しそうだから。」

 

「あ、はい。分かりました。」

 

ゼフィラは私が首飾りを付けやすくするために低く屈んだ。

私はゼフィラから首飾りを受け取ると、ゼフィラの後ろに回って首飾りを付けました。

あまり邪魔にならないように、少し短めの革紐にしたから確かにゼフィラ一人で付けるのは難しいですね。

むう、ちょっと失敗しました。

 

「はい、これで大丈夫です。」

 

「ああ、助かったよウィル。…うん、俺には少し可愛すぎるな。」

 

付いた首飾りを見て皮肉そうに言うゼフィラですが、嫌がる素振りはありません。

その顔は調査団の皆が言う無表情ではなく、普通のポケモンと同じ温かなもの。

早速モルガナイトの効果が出ましたかね?

もし、そうなら嬉しいです。

 

「なんかウィルの方が嬉しそうだな。何がそんなに嬉しいんだ?」

 

「嬉しいですよ。だって私の愛する方が喜んで下さっているんですから。」

 

「……え?」

 

私は大きく息を吐くと、まだ屈んだままだったゼフィラへ抱きついた。

 

「愛していますゼフィラ。ずっとお慕いしていました。」

 

そう、本当にずっと好きだった。

きっと貴方以外を愛することなどないと思うほど好きで、出来ることなら貴方の番(つがい)になりたい。

未熟な私ではまだ迷惑をかけてしまうことのほうが多いでしょうけど、それでも…。

 

「それは…いつから…?」

 

「最初からです。初めて会ったときから…。」

 

「…嘘だろ?」

 

「嘘ではありません。本当に貴方を…」

 

「止めろ!!」

 

急にゼフィラが私を振り払い立ち上がった。

恥ずかしがっても私を決して力尽くで振り払わなかったゼフィラが。

驚いて彼の顔を見ると、その顔は困惑に色塗られたものになっていた。

 

「待てよ、何で? どうして…?」

 

それはどういう意味ですか?

表情もそうですが。ゼフィラの発する波導も困惑を現すものへ変化する。

それだけではなく、苦しい時にだけ現れる波導にも目まぐるしく変化していた。

明らかにゼフィラは混乱していました。

 

「違う…俺は、そんな…」

 

首を左右に振って後退りする。

誰の目から見ても様子がおかしい。

 

「ウィル…頼むから嘘だと言えよ。俺を愛しているなんて嘘だよな!?」

 

「な、何故そんなことを言うのですか? 嘘でそんなこと言うワケないじゃありませんか!」

 

「……」

 

ゼフィラの予想外の様子に私の方も困惑してしまいました。

でも私が困惑する以上にゼフィラが困惑していた。

どう言って良いのか分からないのか、ゼフィラは口を動かすけど声が出ていない。

必死に自分を落ち着かせようとしているのか、両手で顔を覆って深く呼吸をしていた。

 

「ごめん…俺はお前の気持ちには応えられない。応えられないんだ…」

 

しばらく沈黙が続いた後、ゼフィラはようやくそれを口にした。

とても苦しそうに、とても辛そうに…。

 

「すまない。お前にそんな気持ちを抱かせるつもりじゃなかった。」

 

あまりにも苦しそうな様子に私は何も言えなかった。

断られたことなんかどうでもいい。

そんなことより私が告白したことによって、ゼフィラを苦しませてしまったことのほうが辛かった。

 

「…もう貴方を愛しているなんて言いません。だから、泣かないで…」

 

ゼフィラは泣いていた。

声を切らして、体が震えるのを抑えて、堪えるように。

ゼフィラは言い続けた。

消えるような小さな声で「ごめんなさい」と…。

 

「俺じゃなくて別のヤツを愛してやってくれ。無理かもしれないけど…もうその気持ちは忘れたほうがいい。俺は、普通じゃないから…」

 

「…分かりました。」

 

これ以上ゼフィラを苦しませたくなくて、それしか言えなかった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄―第22話~引っ掛かり~

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※サーナイト視点


◇◆◇◆


ウィルがゼフィラとのデートから帰ってきた。
でも浮かない顔をしていたから、すぐに振られたことが分かった。

「ウィル、大丈夫?」

「はい、私は大丈夫です。」

大丈夫だと言う割りには元気がない。
なんだか様子がおかしい。
ただ振られただけじゃないのかしら?
もしかしてゼフィラに非道いことを言われたとか?
だとしたら許せない!
ウィルは私の妹も同然の存在なのに傷付けるなんて。
けど、ゼフィラに一言文句を言ってやろうとしたらウィルに止められた。

「どうして止めるの? あの馬鹿、ウィルのこと振ったんでしょ?」

「確かにそうです。でも、これ以上ゼフィラを苦しませたくありません。だから何もしないで下さい。」

苦しむってどうしてよ。
ウィルが苦しむなら分かるけど、振ったゼフィラのほうが苦しむなんて意味が分からない。
でもウィルがそう言うなら止めるしかないわね。

「分かったわ。けどウィルだって辛いでしょ? カネレには私から言っておくから、ウィルは明日休みなさい。」

「え? ですが…」

「いいから休みなさい。こっちは大丈夫だから。」

「…分かりました。」

ウィルが部屋に戻るのを見届けると、私はすぐにカネレのいる場所に向かった。

もうジュカインとの話終わったでしょう。

さっき戻ってきたのよね。

カネレは「貴方のせいでウィルが大変な目にあったでしょう!」って怒っていたわ。

かなり長い時間説教していたからジュカインはしょんぼりしていたけど、ジュカインがちゃんと調べていればウィルはあんな目にあわなかったから、弁解のしようもないわね。
部屋に行くとカネレは黙々と仕事をしていたけど、私が部屋に入ると仕事の手を止めた。
そして私は今ウィルと話した内容を全部カネレに話した。

「はぁー…やっぱり振られちゃったの。でも仕方ないわね。」

やっぱり?
やっぱりってどういうこと?
しかもカネレはあんまりショックを受けていない。
その上、仕方ないと言った。
カネレはウィルが振られると知っていたの?

「ウィルはどうしてる?」

「元気がないから部屋で休ませているわ。全く、ウィルみたいな良い子を振るなんて何考えてるのかしらね。」

「…無理ないわよ。ゼフィラ君にはそれが分からないんだから。」

「え?」

分からないって何?
やっぱり何か知ってるような口振りね。
でも何を知っているの?
カネレとゼフィラは2、3回くらいしか会ったことないのに。

「ああ、ごめんね。こっちの話よ。とりあえず落ち着くまで休ませましょう。ウィルは初めての失恋だから結構ショック受けているでしょ? 一日と言わずに三日休ませてあげましょうか。」

「カネレも大概ウィルに甘いわね。」

「当然でしょ、私の娘みたいなものだもん。それにしても運命って残酷だわ。よりによって何でウィルの運命のポケモンがゼフィラ君なのかしら。どう足掻いても結ばれないのに…」

頭を抱えて深くため息を吐くカネレ。
ため息を吐きたいのはこっちなんだけど。
さっきからカネレがウィルが振られることも、ゼフィラの事情も知っていると受け取れることを言っている。

「カネレは何を知っているの?」

我慢出来なくて思わず訊いてしまった。

「知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らない。私は"届ける"だけで干渉はしないし、出来ない。今言えるのはこれだけよ。」

「は、はぁ…」

なんか意味が分からないことを言われた。
相変わらず不思議なポケモンよねカネレは。
年齢も不明だし、アローラ地方出身なのは知っているけど、それ意外は全く分からない。
昔からふわふわしてて掴み所がないのよね。
慣れてるからいいけど。



「大丈夫? なんか凄く疲れない?」

「…多分気疲れよ。今日は色々あったから。」

自宅に戻ると、私はすぐバタンキューしたわ。
忙しくなかったのに凄く疲れた。
旦那のエルレイドがあまり見ない私の様子にかなり心配そうに私の顔を覗きこむ。
普段も仕事中に何があったのか旦那に話しているから、今日も話したわ。

「そっかぁ…ウィルちゃん振られちゃったのか。良い子なのに、振ったヤツ何考えてるのかな?」

「本当にね。でも困ったわ、ルカリオは一度深く愛するとまず忘れることが出来ない。ウィルは彼にベタ惚れだったから、もう彼以外を好きになることはないわね。」

想いが実らなければ一生独身を貫くルカリオも少なくない。
だからルカリオは絶対数が少ない。
一時絶滅まで危惧されたくらいだ。
カネレと話を終えた後ウィルに会いに行ったんだけど、その時のウィルの様子からもうゼフィラへの想いを忘れることなんて出来ないくらい、ゼフィラのことを愛しているのは明らかだった。
返し損ねたのか、ゼフィラから貸して貰ったリングルを握り締めて声を切らして泣いてた。
凄く辛そうで、見ていられなかった。

「あぁ、もう! 振るんだったら最初から優しくしなきゃいいのに! あれじゃウィルが期待するの当たり前じゃない! 何考えてるのよゼフィラは!」

本当に何を考えているのか分からない。
まぁ透視で見たときもそんな感じしてたけど!
やっぱり今度会ったらガツンと言ってやらないと気がすまないわ。

「ゼフィラ?」

「あ、言ってなかったわね。ウィルが好きなポケモンはゼフィラって名前なの。」

「種族は?」

「ガオガエンよ。」

「ガオガエン!?」

な、何?
急にエルレイドの態度が変わったわ。

「ねぇ、そのガオガエンって瞳の色が紫だったりしない?」

子供のように目をキラキラさせながらエルレイドが訊いてきた。
瞳の色なんてちゃんと見てないわよ。
でもウィルはゼフィラの瞳の色は紫水晶のようだと言っていたわね。

「紫だったわよ。」

「おおおおおおお!!」

瞳の色が紫だと知って、エルレイドが見たことがないくらい興奮していた。
本当にどうしたの?
なんか引くくらいに興奮してるんだけど…。

「サーナイト、そのガオガエンに会わせてくれない?」

「え? 何でよ?」

「だって故郷に帰ったら英雄に会ったって自慢出来るじゃん! あ、本人のハズないから正確には英雄の子孫か。」

「は? 英雄?」

「そうだよ! 英雄王ゼフィラ! 100年前、戦火に飲まれそうになったホウエン地方を救ったガオガエンだ!」

「あっ…」

あああああああ!
思い出した!
ゼフィラって名前、どこか聞いたことがあると思ったら、そうよ。
ホウエン地方を救ったポケモンの名前じゃない!
ホウエン地方出身のエルレイドはその英雄の話が大好きで、付き合い始めた当初よく話していたわ。
でもあんまり熱心に話すものだから途中から聞き流していたのよね。
それでいつの間にか忘れてしまっていた。
ホウエン地方に住むポケモンなら誰でも知っている英雄の話を。

「あっ、て何? さては忘れてたねサーナイト。もう、ホウエン地方で一番有名なポケモンなのに忘れるなんて酷いよ!」

「え、ええ…そうね。」

「じゃあ会わせてくれる? ていうか会いたい! 英雄の子孫に会いたい!!」

「それは…ゼフィラに聞いてみないことには何とも言えないわね。」

「えー!!」

エルレイドは完全にゼフィラを英雄の子孫だと思ってるわね。

まぁ親の名前を子供に与えるって事は結構あるみたいだから無理ないわ。
正直会えないと思うんだけど、彼が本当に英雄の子孫だったとしても。
何せウィルを振った男だし、調査団のメンバーも会いたくないと思う。
というか私が会いたくない。
今会うと多分ゼフィラのこと殴りそうな気がするし。
でも、知らないといけないことはあるわね。

「エルレイド。」

「何?」

「その英雄の話をウィルにも話してくれるかしら? その後で判断したいんだけど…」

「オッケー、任せて! 明日早速話しに行くよ!」

「貴方仕事は…?」

「丁度休みだから大丈夫! 読む用に保管してた本も持っていくからね!」

「よ、よろしく。」

 

即決で決めたわ。エルレイド本当にその話大好きね。

ホウエン地方のポケモンは小さい頃からその話を聞いて育つらしいし、仕方ないか…。

さて、ウィルは英雄王ゼフィラの話を聞いてどんな反応をするのかしら。

楽しみなような、不安なような…ちょっと複雑な気持ちね。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄―第23話~英雄王ゼフィラ~

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◇◆◇◆

 

 

夢を見る。

そこは道さえ見えない、真っ暗な場所。

そんな場所をたった一人で歩くポケモンがいる。

ガオガエンだ、紫色の瞳を持ったガオガエン。

間違いない、ゼフィラです。

 

ゼフィラは道なき道をただひたすら進み続ける。

何かと戦いながら…。

それは私には影にしか見えない。

だから何と戦っているのか分からない。

でもゼフィラに倒されたその影は口々にゼフィラを罵っていく。

 

『裏切り者』

『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』『裏切り者』

『異端者』

『異端者』『異端者』異端者』『異端者』『異端者』異端者』『異端者』『異端者』異端者』『異端者』『異端者』異端者』『異端者』『異端者』異端者』『異端者』『異端者』異端者』

『穢れた存在』

『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』『穢れた存在』

 

『お前なんか消えてしまえ!』

 

そんな声に耳を貸さず、決して振り向かずにゼフィラは進み続ける。

影と戦うことも止めずに、がむしゃらに。

でも次第にゼフィラの体は傷ついてボロボロになっていく。

傷ついて何度も転びそうになるけど、なんとか踏ん張って耐える。

耐えて、耐えて、耐えて、本当は歩くことなどもう出来ないくらいボロボロなのに、それでも前へ進む。

 

『戦わなきゃ…』

 

『戦って戦って進まなければ。』

 

『立ち止まってなんかいられない。』

 

『俺が決めたことが終わるまで、絶対…に…』

 

『………』

 

『苦し…い…』

 

それを聞いた瞬間、私は咄嗟に手を伸ばした。

もう止めて下さい。

苦しかったら休んでいいんですから。

だから止まって!

お願いです、ゼフィラぁ!

 

 

 

 

「…あれ?」

 

目を覚ますと私は、何もない空間に手を伸ばしていました。

 

「今の夢は…何…?」

 

傷つきながらも、ただひたすら進み続けるゼフィラの姿。

そして、物音がすればすぐにかき消されてしまうような小さな声で言った『苦しい』という言葉が嫌に耳について離れない。

表情までは見えませんでした。

でも、あんなに傷ついたボロボロになった体で動けば誰だって苦しいに決まっている。

夢なのにとても現実味を帯びていて、まるでゼフィラの心の奥底を見てしまったような感覚です。

また波導を深く感知しすぎた?

けど、もしそうならゼフィラは今まさに傷つき苦しんでいるということになります。

昨日のこととは一切関係ないという予感もしている。

 

「ゼフィラ…ずっと苦しんでいるのですか?」

 

会いに行かなくては。

そう瞬間的に思い飛び起きたのですが、サーナイトの声が聞こえて動きを止めました。

 

「ウィルー。ちょっと来てくれない?」

 

今すぐゼフィラに会いに行きたいんですけど…。

でもこちらの用事の方も大切ですよね。

ゼフィラの元へ行くことは一旦止めて、サーナイトのところへ行くことにしました。

 

下へ降りると、サーナイトとサーナイトの番(つがい)のエルレイドがいました。

エルレイドとは結婚式の時にお会いして以来ですね。

 

「おはようございます。お久しぶりですエルレイド。」

 

「うん、久しぶり! 元気そうで良かったよ。じゃあ早速話しちゃおうか!」

 

「はい?」

 

話すって何のことでしょう?

うーん、全く心当たりがないのですが…。

 

「ちょっと、いきなり話されたってウィル分からないでしょう! えーとね、100年前にホウエン地方で戦争が起こりそうになったのはウィルも知っているわよね?」

 

「はい、知っています。確か大規模な戦争に発展する前に、当時ホウエン地方に現れた英雄によって戦争は止められて、戦争を起こそうとしていたポケモンはその英雄によって倒されたと聞いていますけど。」

 

「そうよ。それでね、そのホウエン地方に現れた英雄っていうのがなんとガオガエンで、名前をゼフィラと言うの。」

 

「…え?」

 

ゼフィラ? 彼と同じ名前。

名前持ちのポケモンは数が少なく、名前が被ることはまずありません。

なのに同じ種族でゼフィラという名前だなんて…。

 

「ウィル、これがホウエン地方に住むポケモンなら誰もが知っている英雄の話が書いてある本だよ。」

 

エルレイドは一冊の本を私に渡しました。

表紙にはこう書かれていました。

【英雄王ゼフィラ】と…。

 

「その本に書かれているのは全部本当にあった話だよ。100年前の戦争が起こった当時から生きているポケモンが、ずっと語り継がれていくようにって英雄王ゼフィラの話を本にしたんだ! ホウエンでは英雄王ゼフィラの名前を知らないと苛められることもあったりするくらい有名なんだよ!」

 

そしてエルレイドは100年前にホウエン地方で起こった事を話し始めました。

 

 

△▼△▼△▼

 

 

今から100年前、ホウエン地方に2体の王が誕生した。

1体は自由を尊ぶボーマンダ。

1体は秩序を重んじるチルタリス。

2体の回りにはそれぞれ、その理想に従うポケモンが集まり始めました。

最初は小さかった集まりも徐々に大きくなり、気が付くとホウエン地方は二つの勢力によって完全に分断するほどになっていました。

 

「我が尊ぶ自由こそポケモン達が歩むべき道だ!」

 

「私が重んじる秩序こそがポケモン達が平穏に生きるための道です!」

 

2体の王は決して己の理想を譲らず、またそれぞれの理想に共感し、集まったポケモン達も同じ思想を持ち始め、両者が睨み合う状態が続くことになりました。

その歪な均衡はある時、あっさりと破られた。

ボーマンダの思想に共感したポケモンが、チルタリスの思想に共感していたポケモンと言い争いになった際に殺害してしまったのだ。

これにチルタリスは怒り狂った。

 

「自由を理想とするものが我が秩序を重んじるものを殺した。決して許すことなど出来ません! これより自由を謳うものが住まう領域へ進行し、自由を謳うものを討伐します!」

 

チルタリスの思想に共感するものはこれに賛同し、一瞬にして大軍が結成された。

ボーマンダもそれに対抗するために即座に大軍を結成。

数はチルタリスが5万、ボーマンダが4万と数だけ見ればボーマンダ側が不利に思えました。

しかしボーマンダの陣営の士気は異様なほど高かった。

 

「我らが尊ぶ自由は何者にも侵されたりしない! 我が理想に共感するものよ、これより我らが自由を奪わんとする悪を打ち破ってやろうぞ!」

 

一触即発。

いつ大規模な戦争が起こってもおかしくない状態となりました。

戦う力のないものはその状況に為す術なく、ただ怯えて過ごすことしか出来なくなった。

そしてついに戦いの火蓋が切られようとしていた時、突如としてそのポケモンは現れた。

 

名をゼフィラ。紫色の瞳を持つガオガエン。

 

ゼフィラはまず2体の王の正体を暴きました。

2体の王はなんと、これまで幾度なくこの世界に戦争を引き起こして来た"シユウの一族"。

そう、2体の王がそれぞれ違う理想を謳い、ポケモンを集めたのは全て戦争を引き起こすための布石だったのです。

2体の王は統治するつもりなど最初からなかったのだ。

更に2体の王が激突するきっかけとなった殺害事件も、2体の王が裏でそうなるように仕向けていたことが判明したのです。

 

「"シユウの一族"は2つの異なる正義がぶつかれば戦争が起こることをよく知っている。"シユウの一族"の思想に囚われてはならない。ホウエンに住むポケモン達よ、自分の心にある正義を信じろ!」

 

ゼフィラは"シユウの一族"を討つために動き出しました。

たった一人で"シユウの一族"を討たんと動く彼の回りへ己の正義を信じるポケモンが集まり、それが大波となって"シユウの一族"へ襲い掛かった。

しかし"シユウの一族"の力は強大で普通のポケモンではまず勝つことは出来ない。

ゼフィラは犠牲を出さないために、集まったポケモン達に無理をさせないよう立ち回り、"シユウの一族"と戦った。

ある時は我が身を盾に皆を護り、ある時は先陣を切り"シユウの一族"の統率を乱し、またある時は指揮をとり軍を動かした。

ゼフィラの活躍で"シユウの一族"は一人、また一人と倒され、ついに2体の王残すのみとなった。

2体の王はゼフィラを返り討ちにするために共闘した。

いがみ合っていたハズの2体が共闘する姿を見て、ポケモン達は2体の王が改めて"シユウの一族"であることを認識した。

ゼフィラは共闘する2体の王に一切怯まず、立ち向かった。

2体の王とゼフィラとの戦いは丸一日続き、ついに2体の王は倒された。

ホウエン地方を戦火で包もうとした"シユウの一族"を全て討ち取ったゼフィラ。

ホウエン地方のポケモン達は彼を英雄と呼び讃えるようになった。

その後、ゼフィラはホウエン地方が元の姿に戻るように活動を続けた。

そしてホウエン地方が平和になるのを見届けると、ひっそりと姿を消しました。

まるで自分など最初からいなかったかのように静かに…。

 

 

-お終い-

 

 

△▼△▼△▼

 

 

「これが100年前に本当に起こった事なんですか…」

 

「そうだよ! 俺実際にゼフィラと一緒に戦ったポケモンに話を聞きに言ったこともあるんだ。」

 

話を聞き終わった後、私は改めてエルレイドに話を伺いました。

 

「何故わざわざ紫色の瞳を持つと書いてあるんですか?」

 

「ガオガエンの本来の瞳の色は緑色なんだよ。でも英雄王ゼフィラの瞳の色は紫だったんだって。英雄王の象徴みたいなものだから分かりやすいようにってことらしいよ。」

 

なるほど。

やはりゼフィラの瞳の色は普通とは違うのですね。

でも瞳の色が違うって、何か引っかかるような…。

 

「で、ウィルちゃんが会ったガオガエンって瞳の色が紫なんでしょ? しかも英雄王と同じゼフィラって名前で。」

 

「はい、そうです。」

 

「だから俺、そのガオガエンが英雄王ゼフィラの子供か孫じゃないかなーと思うんだよ。親の名前を子供に与えるって結構あることだからね。もしゼフィラが英雄王の子孫なら本当に凄いことだ! 」

 

確かに話を聞く限り、ゼフィラが英雄王の子孫ではないかと思うのは無理ありません。

紫色の瞳を持つという共通点。

そして偶然なのか同じゼフィラという名前。

親の名前を子供に与えるってことはあることですけど、でもゼフィラの名前は英雄からとったものではありません。

ゼフィラの名前の由来はゼフィランサスという花からです。

もし英雄から名付けたのなら、あの時そう言うハズ。

やっぱり偶然?

けど私には偶然名前が被ったとはとても思えない。

あり得ないことなんですけど、本人であるような…。

 

「それでさウィルちゃん。もし可能であったらそのゼフィラに訊いてきて欲しいんだよ。彼が英雄王の子孫であるかどうかを!」

 

「エルレイド…貴方ねぇ…」

 

「構いませんよ。これからゼフィラに会いに行こうと思っていましたから。」

 

「え!?」

 

昨日のことがあるので会うのは少々気まずいです。

でも夢のことも気になるし、今の英雄王の話のことも気になります。

だから彼の所へ行かなくては。

 

「…大丈夫なの? 昨日あんなに辛そうにしていたのに…」

 

「大丈夫です。私も確かめたいですし、それに…振られてしまったけど私にとって大切な方ですから。」

 

「はぁ、こっちの気も知らないで…ルカリオって本当に一途なんだから。分かったわ、でも無理しちゃ駄目よ。」

 

「はい、心配して下さってありがとうございます。エルレイド、返事は後日でよろしいですか? ゼフィラはどこにいるのか分からないので、今日中に会えないかもしれませんから。」

 

「OK! じゃあ返事待ってるね!」

 

では、出発しましょうか。

カネレ団長から何故か3日も休み頂いていますし、時間はあります。

しかし、やはり会うのは少々気まずいですね。

ま、まぁなんとかなるでしょう!

ゼフィラが英雄王の子孫かどうか確かめなくては。

 

……。

 

でも何故でしょうか?

私には100年前の英雄王ゼフィラと、私が愛するゼフィラが同じポケモンだとしか思えません。

普通に考えればあり得ないのに、どうしてそう思うのでしょう?

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄―第24話~子守歌~

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◇◆◇◆


エルレイドとの話を終えると、私はゼフィラに会うために調査団を出ました。
昨日のこともあるので、会うのはかなり気まずいのですが、確かめなければなりません。
ゼフィラがホウエン地方を救った英雄の子孫であるかどうかを。
エルレイドはゼフィラが英雄の子孫だと信じているみたいですが、私にはどうもそうは思えません。
むしろ子孫ではなく、本人ではないか、という気さえしています。
以前調べたのですが、ガオガエンの平均寿命は50~60年。
英雄王ゼフィラは100年前にいたポケモンですから、普通に考えれば本人であるハズがありません。
なのにどうしても本人ではないか、という考えが頭から離れません。
だからゼフィラに直接確認しなくては!

「今日はまだ宿にいらっしゃるのですね。」

波導を辿ってゼフィラがいる場所に到着しました。
いつもなら宿を出ている時間なのに、昨日のせいでしょうか?
もしそうなら余計会いづらいです。
ゼフィラがあんなに苦しむほど混乱したのは私のせいですからね。
はぁ…、あんなことになるんだったら告白しなければ良かったです。

「…ここで後悔していても仕方ないですよね。とにかくゼフィラにお会いましょう! ノワルーナもいますし、多分大丈夫!」

意を決して宿屋に入ります。
受付にいたポケモンにゼフィラが泊まっている部屋を教えてもらい、階段を登って部屋の前まで行きます。
その時、あることに気が付きました。

「(あれ? ゼフィラの波導が凄く弱い。)」

昨日はいつもと同じだった波導が今日は非常に弱かった。
ここまで波導が弱いということは、ゼフィラ自身相当弱っているということになります。
やっぱり昨日のせい?
ううう、更に会いづらいです。
でもここまで来て、引き返すのは勿体ない。
覚悟を決め、ドアをノックする。
すぐにノワルーナの声が聞こえ、ドアが開きました。

「どなたです…って、ウィル。どうしたの?」

「早い時間にすみません。ゼフィラにお尋ねしたいことがあり参上しました。今ゼフィラにお会いすることは出来ますか?」

私がそう言うとノワルーナの表情が一瞬にして曇りました。

「うーん…。実はゼフィラさ、ちょっと具合が悪くてね。さっきやっと眠ったところなんだけど…」

う…、やっぱり弱っていたのですね。
しかもノワルーナの様子から、ゼフィラの具合は私が思っているより悪いみたいです。

「でも話すくらいなら大丈夫だと思うよ。ゼフィラが起きるまで待てる?」

待ちます、待ちます。
というか待たせてください!
英雄王の話はともかく、ゼフィラにちゃんと謝るまでは帰れません!

「はい。中で待たせていただいても宜しいですか?」

「いいよ。じゃあ入って。」

ノワルーナの許可を得て、私は部屋に入りました。
入ると、すぐに寝台の上で力なく横たわるゼフィラの姿が目に入りました。
直接見て、改めて感じる波導の弱さ。
顔色も凄く悪く、血の気を感じられません。
いつもならツヤのある毛並みも、ガサガサになっていました。

「近寄っても大丈夫ですか?」

心配になり、思わずノワルーナに尋ねました。

「止めたほうがいいかな。今ゼフィラは気が立ってるから、不用意に近付くと攻撃してくるかもしれない。弱っているけど元々の力が強いから、もし攻撃されたらウィル大怪我すると思う。」

「…そうですか。」

私が体調を崩していた時、ゼフィラが支えて下さいました。
だから今度は私が弱っているゼフィラを支えたいと思ったのですが、それが許されないなんて…。
かなり分かりやすく気落ちしてしまいました。

「あ、言っておくけど、ゼフィラの気が立ってるのはウィルのせいじゃないからね。そこは安心して。」

「え?」

「チラッと聞いたんだけど、ウィルはゼフィラに告白したんでしょ?」

ゼフィラ、ノワルーナにその事を話していたのですか。
でも、詳しく話したワケではないみたいですね。
私はゼフィラに告白した時のことをノワルーナに包み隠さず話しました。

「…ごめんねウィル。ショックだったでしょ?」

「かなり…。ですが、ゼフィラのほうが混乱してて…」

「うん。詳しくは言えないけど、ゼフィラはウィルの気持ちが分からないから、無理に理解しようとして混乱したんじゃないかな?」

「気持ちが…分からない?」

それは一体どういう意味ですか?
ゼフィラの心が欠けているのは知っていますが、それでも全く気持ちが分からないハズありません。
何か別の理由があるのでしょうか?

「この件に関しては、本当に何も言えないんだ。でも、ゼフィラはウィルのこと嫌いとかそういうワケじゃないから、出来ることなら今まで通り接してあげて。」

嫌いじゃないか。
それを聞いて少し安心しました。
私も可能であればゼフィラと今まで通り、接していたいと思っていましたからね。

「はい。」

「ありがとう。」

「…余計なこと言ってんじゃねぇよノワルーナ。」

ゼフィラの声が聞こえ振り返ると、ゼフィラが目を覚ましノワルーナを睨み付けていました。
しかし、昨日スカタンクを睨み付けていた時と比べるとあまりに弱々しい。
体に力が入らないのか、起き上がろうとしているのに、全く動けていない。
その顔は見たことがないくらい、苦痛に歪むものでした。
ふいに夢で視たあの光景を思い出す。


『苦し…い…』


夢の中でゼフィラが言っていたことが頭に響きました。

「ゼフィラ!」

きっとこの事だと直感的に思い、私はゼフィラに駆け寄った。

「苦しいんですよね? 無理に動いたら駄目です。」

ゼフィラに触れて私は愕然とした。
まるで氷のように体が冷たかったからです。
それだけではありません。
毛布を被っていて気付きませんでしたが、いつもなら腰の回りにある炎のベルトがありませんでした。
これは炎袋の活動が低下していて、炎を上手く作り出せていない証。
炎タイプは炎袋が常に炎を作り続けているその活動によって高い体温を維持しています。
だから炎袋の活動が低下すると急激に体温が失われる。
酷い低体温状態になるため身体機能も著しく低下し、最悪は多臓器不全に陥って死亡することもあります。
ゼフィラが苦痛に喘いでいた理由が分かりました。
炎袋の活動が低下し、酷い低体温状態になっていたからです。

「医師には診てもらいましたか? ここまで酷い低体温状態なら医師に診てもらわないと…」

「診せてない。ゼフィラがいらないって言うから…。」

「な、何故ですか?」

「必要ない。時間が経てば、治るんだ。放っておいていい…」
 

そんな…。

時間が経てば治るから、なんて理由で診てもらっていないなんて。

何か悪い病気なんでしょうか?

実際ゼフィラもノワルーナもそこまで焦っていないので、何だかこの状態に慣れているような気もします。

でも今のこの状態はゼフィラにとってかなり辛いものであることに間違いありません。

なら、医師に診てもらったほうがいいに決まってます。

 

「今、医師をお呼びしますので少しお待ち下さい。」

 

「…いらないって言ってるだろ。意味がないんだ、余計なことするな。」

 

「そんなことありません! いいからゼフィラは…」

 

「うるさい! ウィルには関係ないんだ、黙って出て行け!」

 

ゼフィラにそう言われた瞬間、頭の中でブチっと何かが切れる音が聞こえました。

私は"そうなる"と性格が変わるらしいので「なるべくそうならないようにね。」とカネレ団長に言われていたのですが、ゼフィラの態度にそうなってしまったようです。

 

「はぁ? 何が関係ないんですか?」

 

自分でも聞いたことがないような低い声が出ました。

さっきとは違う態度にゼフィラもノワルーナも驚いているみたいですね。

今の私にはそんな些細なことどうでもいいです。

 

「ないだろうが、実際…何も…」

 

「関係ありますよ。私にとってゼフィラは大切な方です。その大切な方が苦しんでいるのを見て放っておけると思いますか? 否、そんなこと出来ません。どうせ動けないんですから貴方こそ黙って寝てて下さい。というかゼフィラは心もそうでしたけど自分の体こともないがしろにしすぎです。心配するものが一人でもいるんですから、そういうことは止めて下さい。」

 

「は…はぁ!? なんでお前にそんな指図受けなきゃいけないんだよ。」

 

「指図ではありません。心配しているんです。いい加減にしないとまた可愛い攻撃しますよ?」

 

「え!? …いや…それは…」

 

「大人しく待っていて下さい。いくら時間経過で治ると言っても限度があります。絶対に医師に診てもらったほうがいいです。薬が効かなくても対処法教えて頂けますからね。」

 

「だから…必要ないって…」

 

「わー、ゼフィラの困ってる顔可愛いですねー」(棒)

 

「!? 分かった。大人しくしているから…」

 

「ノワルーナも、いくらゼフィラがいらないと言ったからって何もしないのは近くにいるものがすることではありません。せめて体を温めてあげるくらいは出来るでしょう!」

 

「う…。ごめんなさい…」

 

「私が医師を呼びに行っている間に熱々の湯たんぽを作って下さい。作ったらタオルを巻かずにゼフィラのお腹に置いておいて下さいね。それだけでも大分違いますから。」

 

「うん、分かった。」

 

「では行ってきます。」

 

ふう、言うだけ言ったら怒りも落ち着きましたね。

さっさとランクルスのところに行きましょう。

そう言えば私未だに本気でブチ切れたことがない?

記憶にはありませんけど、カネレ団長がわざわざああ言うってことは余程なんですよね。

うーん…私って本気で切れたらどうなるのでしょう?

 

 

 

 

「異常がない…ですか?」

 

「うん、体に特にこれと言った異常は確認出来なかったよ。」

 

医師であるランクルスをお呼びして、ゼフィラの体を診察して頂いたのですが、その返答がこれでした。

異常がない? ならば何故あんなに衰弱しているのでしょう?

 

「病気ではないのですか?」

 

「違うね。ただ生命力がかなりすり減っているのは分かった。だからそのせいで衰弱しているんだと思う。」

 

生命力がすり減っている?

どういう意味なのでしょうか、全然分からないですけど…。

 

「…とりあえず安静にさせておくのが一番かな。分かってると思うけど体を温めてあげてね。ある程度体温が戻るまでは何も食べさせちゃ駄目だよ。低体温のせいで内臓の機能も落ちているから、食べさせると消化不良を起こしてしまう。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

「じゃあ、また何かあったら呼んでね。」

 

ランクルスが帰るのを見届けると私は部屋に戻りました。

入るとゼフィラはとても落ち込んだ顔をしていました。

ランクルスと何か話していたみたいですけど、それのせいでしょうか?

 

「ゼフィラ…?」

 

刺激しないようにゆっくりと近付いて行く。

寝台に腰をかけると、ゼフィラの背中を優しくさすりました。

いつもゼフィラが私にしてくれているみたいに。

 

「…ごめんなウィル。」

 

「え?」

 

「いや、昨日のことさ。もっと他に言い方あっただろうに…悪かった。」

 

そういうと私の手をそっと握ってくれた。

いつもならドキッとするのですけど、その手は酷く冷たく、あの温もりを感じません。

生気を感じない表情が彼がどれだけ衰弱しているかを物語っています。

 

「今はそんなこといいですから。お母様の代わりは出来ませんけど、私が側にいます。だから眠って下さい。」

 

「…ありがとう…」

 

そう言ってゼフィラは目を閉じました。

でも全然眠れていません。

酷い低体温だから体が震えてもおかしくないのにそれがない。

ただ丸くなって体温が留まるようにするしか出来ていません。

かなり体力も落ちているみたいです。

少しでも体温が上がるように背中をさすって体を密着させます。

 

「…うぅ…」

 

「ゼフィラ、苦しいですか?」

 

ゼフィラが力なく頷く。

どうしたらいいでしょう?

せめて気持ちだけでも楽になったらいいのですが…。

その時、幼い頃お母様にしてもらったことを思い出しました。

うーん、でも効果あるでしょうか?

いや、駄目元でもやってみる価値はあるかもしれません!

ちょっと恥ずかしいですけど、いざ!

 

「~♪ ~♪」

 

「…え?」

 

昔、重い風邪を引いてしまい高熱で苦しんでいる時のことです。

お母様は感染してしまうかもしれないのに、そんなことも気にせずに私の側にいて下さいました。

そしてずっと子守歌を歌って下さった。

私はその子守歌のお陰でぐっすり眠ることが出来ました。

子守歌と言っても詩はありません、メロディーだけです。

 

「~♪ ~♪」

 

「不思議な歌だね。」

 

「私の故郷の里に昔から伝わる歌なんです。『鍵なる歌』という題名なのですけど、何故その題名なのかは誰も分からないそうです。故郷で生まれたポケモンはこの子守歌を聴いて育つんですよ。」

 

私に【うたう】が使えれば一番いいんですけどね。

『鍵なる歌』を歌いながらゼフィラの背中をさする。

どれくらい歌ったのか分からないくらいの時間が経ちました。

気が付くとゼフィラは眠っていました。

まだ少し苦しそうですけど、さっきよりは大分マシです。

 

「お疲れ様。」

 

ノワルーナが水を持って下さいました。

正直喉がカラカラだったのでありがたいです。

 

「ありがとうございます。」

 

「けど凄いね、本当にゼフィラ眠っちゃったよ。いつもならこうなるとほとんど眠れなくて、薬を飲ませないといけないくらいなのに。」

 

「そうなんですか?」

 

いつもなら…か。

ではよくこうなるってことなんですよね。

その度にこんなに苦しんでいるなんて…。

なんでしょう、私もなんだか胸が痛いです。

 

「触っても起きないから、ぐっすり眠ってるみたい。しばらく起きないかなーこれ。ウィルはどうする? ゼフィラに話があったんだよね、一旦帰る?」

 

「いえ、ゼフィラが心配なのでここにいます。調査団には通信で連絡しておけば問題ありません。カネレ団長から3日お休みもいただいていますし大丈夫です。」

 

「一途だねウィルは。じゃあ宿屋のポケモンにもそう伝えておくよ。」

 

「お願いしますノワルーナ。」

 

一途ね、未練がましいとも言えますよね。

私はゼフィラに振られていますし。

でも心配なのは本当ですし、側にいたいのも本当。

うん、やっぱり未練がましい。

 

「一つ教えてあげようか?」

 

「教える? 何をですか?」

 

「ゼフィラね、笑うようになったのウィルに会ってからだよ。その前は全く笑わなかったからね。」

 

「はい?」

 

「ウィルに会う前は完全に無表情だったよ。それだけ、じゃあちょっと行ってくるね。」

 

「…はい、分かりました。」

 

ノワルーナに言われたことがしばらく理解出来なくて呆然としてしまいました。

え? 全く笑わなかったんですか?

だとしたら私少しはゼフィラの心を動かしたってことですよ…ね?

うわー…、凄く恥ずかしい。

い、今はゼフィラの具合が良くなるように努めましょう。

まだ全然良くなっていませんし、恥ずかしがるのは後です後!

早く元気になってもらいたいですからね。

 

 

◇◆◇◆

 

 

【ポケモン小説】―蒼紅の英雄― 第25話~疑問~

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なーんか長くするつもりないのに長くなっちゃうんだよねー
せめて50話にはいかないようにしたかったのに、もう無理やんw

※誤字があったため修正しました
◇◆◇◆


「…なんだこれ?」

翌朝、その声で私は目を覚ましました。
まぁゼフィラがそういうのも無理ないですね。
ゼフィラの体が温まるように、私とノワルーナはゼフィラと密着して眠っていましたから。
分かりやすく言えば添い寝です。
うん、まだ炎のベルトは復活していませんが、大分体は温かくなっています。
もう大丈夫ですね。

「おはようございます。具合はどうですか?」

「あ…ああ、おはよう。昨日よりはかなりいいよ。…えーと、ウィルがその…歌を歌ってくれていたところまで覚えているんだけど…」

「私も気が付いたらゼフィラは眠っていましたから、それは仕方ありません。ぐっすり眠っていらしたので起こしたくなくてこのような手段をとりました。申し訳ありません」

「いや、俺のためにしてくれたんだろう。謝るな、むしろ俺は礼を言わないといけない方だ。ありがとう」

ゼフィラが笑った。
昨日ノワルーナがゼフィラが私と会う前は笑わなかった、と言っていたことを思い出す。
嬉しい、笑わなかったというゼフィラが笑ってくれることが…。

「…? 何でそんなに嬉しそうなんだ?」

「元気になったこともそうですが、ゼフィラが笑ってくれたことが嬉しいんですよ」

「は?」

「私の愛する方ですから。苦しそうな顔より、笑った顔を見たいです」

それを言うとゼフィラは悲しげな顔をしてしまいました。
あ、ヤバいです。
もう愛していると言わないってあの時言ったのに、言ってしまった。

「ごめんな、俺は…」

「わー! 待って、そんな悲しそうな顔しないで笑っていて下さい! そんな顔されるほうがショックですから!」

「そう…か?」

「そうですよ!」

必死であります。
両想いになるとかぶっちゃけどうでもいい。
そんなことよりゼフィラが笑っていてくれたほうが嬉しい。

「私の気持ちが分からなくてもいいので、今まで通り接していただけますか? 私もそうしますので」

「…ああ、分かったよ」

「ありがとうございます、ゼフィラ」

そんなやり取りをしているとノワルーナも目を覚ましました。
なんだかまだ眠そうですね。
というか完全に寝ぼけてます。

「うーん…おはよう…ウィル、ゼフィラぁ…」

「はい、おはようございますノワルーナ。…大丈夫ですか?」

「ジュナイパーは本来夜行性のポケモンだから朝に弱いんだ。いつもこんな感じだから気にするな」

「そうなんですか…」

絶対これ、覚醒してませんよね。
目は開いてませんし、体は寝ている状態というか…。

「父さん…眠い…」

寝ぼけてノワルーナがゼフィラに抱き付きました。
ノワルーナは確か孤児で、ゼフィラに育ててもらったと言ってましたね。
ノワルーナにとってゼフィラはたった一人の父親。
「父さん」と呼ばれたゼフィラはかなり複雑そうな顔をしていますけど。

「あー…。もう少し寝てるか?」

抱き付いてきたノワルーナの背に手を回して、ゼフィラはノワルーナを優しく抱擁しました。

「…頑張って起きるぅ。でももうちょっとこうしたいの…」

「はいはい」

まるで幼子のようにゼフィラに甘えるノワルーナ。
考えてみればそれは当然なんですよね。
いくら最終進化系とはいえ、ノワルーナは五歳。
普通のポケモンなら両親の愛情を沢山受け、甘えている年頃。
普段大人びて見えるので失念していましたが、本当は義父であるゼフィラにもっと甘えたいハズです。
ゼフィラもそれが分かっているから、困った顔をしていても拒絶せずに受け止めています。

「うん、父さん大好き…」

「…寝ぼけているから怒るに怒れねえ。しょうがないヤツだなぁ」

ノワルーナの背中を軽くポンポンと叩きながら、ノワルーナをあやすゼフィラ。
ふふ、まさに親子ですね。



 

 

「なに笑ってるんだウィル」

「いいえ、甘えるノワルーナとあやすゼフィラを見ていると実の親子のようだと思いましてね」

「そう見えるのか?」

「見えます」

そう言うとゼフィラはまた悲しそうな顔をしました。
何故ですか?
ノワルーナもゼフィラのことが大好きなのに…。

「…本当は俺に執着して欲しくないんだ。だから突き放したい。でも、俺も早くに両親を亡くしてるから寂しい思いをさせたくなくて…。こういうの矛盾って言うんだよな」

「そんなことありません。ゼフィラの優しさですよ」

「…そうかな。だとしたら理不尽な優しさだよ」

少し皮肉そうにゼフィラは言いました。
でも私はそうは思いません。
ゼフィラは、すがってくる手を払いのけることが出来ないくらい優しいポケモンなだけです。

「たとえ理不尽でも、その優しさに救われるポケモンはいます。私やノワルーナのように」

「……」

ゼフィラの優しさがなければ、私はきっとここにいません。
無理矢理子供産まされた上に、死んでいた可能性のほうが高い。
いや、それ以前に【霧の山脈】で大怪我を負った時、ゼフィラが助けてくれていなかったら…。
ノワルーナも、詳しい事情は分かりませんが、もしゼフィラが引き取り、育てていなかったらどうなっていたか分からないハズです。

「だからあまり自分を過小評価しないで下さい」

「…したくもなるよ。俺はちぐはぐな存在だk…!?」

はい、過小評価して欲しくないので実力行使です。
無理矢理口を塞ぎます。

「しないで下さい。あんまり言うとまた可愛いって言いますよ?」

「こ、この状況でどうやって可愛いって言うんだよ!」

「実際に言ってみましょうか?」

「あ…いや、勘弁して下さい」

ふっ、ゼフィラの弱み見つけたり、です。
まぁ乱用はしませんけど。
結局ノワルーナが完全に覚醒するまで1時間ほどかかってしまい、その間ゼフィラはずっとノワルーナをあやしていました。
普段はここまでかからないそうなんですけど、やっぱり甘えたいのをずっと我慢しているから爆発してしまったみたいです。



「それで、ウィルは俺に訊きたいことがあって来たんだな」

「はい、そうです」

ようやく本題に入ることが出来ました。
ちなみに今、昼過ぎです。
1日以上かかってます。
エルレイドに待っててと言わなくて正解でした。
遠巻きに言っても仕方ないので、ここは単刀直入に行きましょう。
私は持っているバッグからエルレイドより貸していただいたあの本を取り出します。

「これを見て下さい」

「ん? なんだこ、れ!?」

それは100年前にホウエン地方を救ったガオガエン、英雄王ゼフィラの活躍が記された本。
ゼフィラはその本を見た瞬間、目を見開いて固まってしまいました。

「どうしたの? この本がど…! は、はい!?」

ノワルーナも本を見てゼフィラと同じ反応をしました。
な、なんでしょうか。この反応は。
しばらく固まっていたゼフィラでしたが、私にチラッと視線を移した後、本を開いて内容を確認し始めた。
ページをめくっていくごとにゼフィラの表情が険しくなっていく。

「…マジで? 悪い冗談だろ?」

最後まで読み終えたゼフィラは頭を抱えて深いため息を吐きました。
一緒に本を読んでいたノワルーナは驚きのあまり目が点になっています。

「ウィル、この本どこで手に入れたんだ?」

「サーナイトの番(つがい)であるエルレイドがホウエン地方の出身なんです。偶然サーナイトからゼフィラの名前を聞いたエルレイドが、ゼフィラという名前で瞳が紫色のガオガエンなら、100年前にホウエンを救った英雄の子孫ではないかと思われたのです。その本はエルレイドから貸していただいたのです。私はそれを確かめるために来ました。ゼフィラがホウエン地方を救ったガオガエンの子孫かどうかを…」

「……」

ゼフィラは頭を抱えたまま口を閉ざしてしまった。
何かを考えているようで、小さなうなり声が聞こえて来ます。
少し待つとようやくゼフィラは閉ざしていた口を開きました。

「俺はこの本に出てくるガオガエンとは無関係だ」

それがゼフィラの返答でした。
なんですけど、あんな反応をされた後だから、どうしても嘘を言っているようにしか思えません。
波導?
そんなの読む必要ありませんね。

「いや、嘘ですよね」

思わずそう口にしてしまいました。

「嘘なんかついてねぇよ。子孫じゃない」

「ではご本人ですか?」

「は、はあ? なんでそうなるんだ。あり得ないだろ、100年前の話だぞ!」

「はい、私もそう思いましたが、どうにも本人ではないかという考えが頭から離れません。恐らくゼフィラの波導がそう思わせるのでしょう」

ゼフィラの波導の色は黄金です。
黄金の波導は時代の英雄や、勇者と呼ばれる存在が纏(まと)う波導。
過酷な修行や試練を乗り越えなければ黄金の波導には変化しません。
普通のポケモンが早々に纏える波導ではない。
英雄や勇者の直系の子孫であっても、黄金の波導は受け継がれないと聞いています。
この事から、私はゼフィラが英雄の子孫ではなく、本人なのではと考えているのだと思います。

「本当にルカリオって面倒だな」

「はい、よく言われます」

ゼフィラは再び口を閉ざしてしまいました。
先程より落ち着かない様子で視線をあっちへやったりこっちにやったりしています。
そして私へ視線を向けると、また深いため息を吐きました。

「ウィル、頼む。詮索しないでくれ。これ以上は答えられない」

答えられない?
それは一体どういう意味ですか?
頭の中に疑問ばかりが浮かびます。

「何故ですか?」

「本当に何も言えないんだ。だからエルレイドにも俺は無関係だと伝えてくれ」

「ゼフィラ?」

その顔は苦しげだった。
同時に悲しげだった。
とても複雑な感情がいくつも重なっているような感じでした。

「…分かりました」

疑問ばかり残るけど、ここは引き下がることにしました。
そう言った途端、ゼフィラは安堵していましたので余計疑問が生まれてしまいましたけど…。



「別に言っても良かったんじゃない?」

ウィルが帰った後、僕はゼフィラにそう言った。
ウィルは信用出来るから、言っても問題ないと思うんだけど。

「アホかお前は…下手をするとウィルを巻き込むぞ」

「それはそうなんだけどさ。でもあの言い方じゃ余計疑問を抱かれるだけだよ」

もう手遅れだけどね。
絶対に疑問持たれちゃってるよあれ。

「分かってる。けど仕方ないだろ、100年前ほどの余力が今の俺にはないんだから…」

「本に書いてあったことって本当にやったの?」

「大分盛られてるけど、やった」

うーわー、どれだけ盛られてるんだろ。
けど仕方ない。経由はどうあれ、実際ゼフィラはホウエンを救っている。
英雄視されるのは当然だよ。
けどまさか本になっているとは夢にも思わなかっただろうね。
流石のゼフィラも驚きすぎてポーカーフェイス出来なかったみたい。

「けど参ったな。もうホウエン地方行けねぇじゃん。もしホウエン地方に手がかりあったらどうしよう」

「散々探したんだったら大丈夫じゃない?」

「相手が相手だから分からねぇんだよ。またホウエン地方に"シユウの一族"が現れる可能性だってあるし…。そうなると絶対時間足りないなぁ」

確かに足りなくなる。
ジュナイパーに進化してゴーストタイプになったから、僕は魂が見えるようになった。
だから分かってしまう。
ゼフィラの魂が今どんな状態なのか。

「ランクルスが言ってたこと合ってるか?」

「うん、合ってる」

「そうか…」

ランクルスにそう言われた時の事を思い返しているのか、ゼフィラは難しい顔をしていた。
僕が言ったことを信じていないワケじゃない。
けど、第三者から改めて言われて結構ショックだったみたい。
ゼフィラは道半ばで倒れることも覚悟しているけど、ここまで来て力尽きるのは相当悔しいハズ。

後少しだと思うのに…。

 

「ノワルーナ。悪いけど俺が見失った"シユウの一族"を探してくれるか? まだちょっと動けないから…」

 

「うん、分かった」

 

「見つけたら無理せずにすぐに知らせろよ。多分レベル90は超えてる。お前じゃ勝てない」

 

はぁ、僕が倒せれば一番いいのに。

そうすればゼフィラも余計な力を使わずに済む。

でも僕が相対出来るのは精々レベル50まで。

それ以上レベルが高いと時間稼ぎくらいしか出来ない。

力不足を痛感してしまう。

でも、出来ることをするしかない。

僕はそれくらいしか役に立てないから。

 

「行ってくるね」

 

「気を付けろよ」

 

「うん」

 

窓から外へ出ると気配を消す。

ゼフィラには何故か気付かれるけど、普通は気付かれない。

本当だからね、これ!

むしろ何でゼフィラ気付くの!?

おかしいでしょ、音も消してるのに!

なんてこと考えてないでさっさとやることやっちゃおう。

残り4体。

絶対に全部倒さなくちゃ!

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

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